『この世界の片隅に』にハマった75歳の母、初めて同人誌を制作 Twitterで大反響 「自分とすずさんを重ねた」

制作した母親と、子のボマーンさんに取材しました。

» 2018年03月23日 19時44分 公開
[黒木 貴啓ねとらぼ]

 2016年公開のアニメ映画によって、すっかりメジャーな人気作となった漫画『この世界の片隅に』(作者:こうの史代)。この作品に75歳の母親がハマりすぎた結果、1年近く登場キャラの模写を続け、とうとう人生初の同人コピー誌を作ってしまったというエピソードが、Twitterで3万回リツイートされるなど大きな反響を呼んでいます。投稿した漫画家のボマーンさん(@bomarn)に詳細を取材しました。

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 75歳にして初めて制作した同人誌、「すずさんと私」(写真提供:@bomarnさん)

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 原作の『この世界の片隅に』上巻(全3巻)

 『この世界の片隅に』は「戦争と広島」をテーマに、1944年に広島県呉市広町の家へお嫁に行った主人公・すずの暮らしを描いた作品。同人誌の作者・くんくん(ペンネーム)さんは、1942年から5歳になるまで呉市広町で生まれ育った経歴を持つ75歳です。我が子のボマーンさんが連載していた『漫画アクション』に再録されていた同作をたまたま読んで、自分の生まれ故郷である呉市広町の話であることに興味が沸き、単行本をそろえました。その後もアニメ映画版を3回も見てしまうなど、作品にずっぽりハマります。

 そのうち同時期に呉にいた自分とすずさんを重ね合わせ、「とにかく何か描きたい」と1年ほど前から毎日ひたすら漫画版のキャラを鉛筆で模写するように。ボマーンさんに編集・製本を手伝ってもらう形で、3月にとうとう初の同人コピー誌「すずさんと私」を完成させました。なんというバイタリティの高さ……!

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 「すずさんと私」の中ページ

 何も見ずにキャラを一から描くのは難しいということで、中身は基本的に原作の模写を時系列に並べたもの。しかし「神戸港のクルーズに行ったときにすずさんも呼んであげたかった」ということで、すずさんの背景が現代の神戸港になっている一枚や、夫と3人で食事しながら会話している一枚が差し込まれており、「自分の日常には、すずさんがいる」という気持ちをイラストで具現化しているのがわかります。

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 作中の年代のころ、自分は呉で何をしていたのかわずかに残った記憶を添えています。まさに「すずさんと私」

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 右下には、神戸港のクルーズへすずさんを招待したという一枚が

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン あとがきの後には夫と3人で食事する一枚も。2人で会話しているのがかわいらしい……!

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 表紙と裏表紙

 3月23日にボマーンさんが同人誌の写真をTwitterで公開し、「模写ゆえに他人に渡しもしないけど、これこそ同人誌っていうものの基本の姿なんじゃないか……と思ってしまった」とツイートしたところ、「中身をもっと読みたい」「ほしい」と話題になり多くのリクエストが寄せられました。

 「いくつになっても情熱が持てることが素晴らしい」「作品への愛を形に表す力に年齢は関係ないのだと、お母様から元気を頂きました」とくんくんさんの熱意に心打たれたという声、「お母様とボマーンさんがお素敵」など母の同人制作を手伝う関係性に感動したという声など、さまざまに称賛を受けています。

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン 母が描いた表紙の絵に、ボマーンさんが色付けしたという一枚

 好きな作品への思いを同人誌という形にして、どのような感想を抱いているのか――くんくんさんに質問したところ、「好きなこと、新しいことを始めるのは5歳でも80歳でも最初の一歩は同じだと思うので、なんの抵抗もなかったです。逆になぜこんなに話題になっているのか、よくわかりません(笑)」とのこと。

 作品で特に印象深かった場面は、「やはり晴美さんが亡くなって、すずさんの手が失われたシーンでしょうか」。作中の呉の風景については当時2〜3歳だったためほとんど記憶になかったそうですが、「原爆が落ちたときに兄が近所の川で遊んでいて、水が突然ぬるくなって気味が悪くなり川から急いで上がった……という話を鑑賞しながら思い出しました」と振り返ります。

 「戦後の生活は厳しかったものの、現在こうして生活していられる幸せをつくづく感じます。作者のこうの史代先生が『この漫画を描き終えられたのは奇跡』と書かれていましたが、私が75才でこの漫画と出会えたことがまた奇跡だと思います」(同人誌のあとがきより)

 ボマーンさんは母親の様子について、「母はすずさんが好きすぎて、生活のあらゆるシーンですずさんと一緒に居るような気がして、本当はそれらを全部描きたいんだそうです。同人活動の原点ってこういう気持ちだったんだなあ、と教えられた気分です(笑)」とうれしそうでした。

この世界の片隅に こうの史代 同人誌 75歳 母 初 制作 ボマーン ボマーンさんが『漫画アクション』で連載していた『悪のボスと猫。』。悪の親玉が「ククク……」と不敵な笑みをうかべながら、めっちゃ猫を溺愛しまくるというショートコメディです(試し読み

写真提供:ボマーンさん(@bomarn

黒木貴啓


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/18/news202.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
  2. /nl/articles/2412/20/news023.jpg 60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
  3. /nl/articles/2403/21/news088.jpg 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  4. /nl/articles/2412/21/news038.jpg 皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
  5. /nl/articles/2412/21/news056.jpg 真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
  6. /nl/articles/2412/21/news088.jpg 71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
  7. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  10. /nl/articles/2412/17/news195.jpg 「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」