今のままではスケールしない──けもフレ・福原Pがジャストプロで仕掛ける理想のVTuberとは?(前編)(2/2 ページ)

» 2018年04月03日 22時58分 公開
[高橋佑司PANORA]
PANORA/株式会社パノラプロ
前のページへ 1|2       

「中の人頼み」にならないキャラクターをつくる

──ジャストプロでVTuberのオーディションを初めて、今(インタビュー時)、書類審査を終わらせた段階だと思いますが、どんな風に仕掛けていくのでしょうか。

福原 そうですねー。実はあまり主体性がないです(笑)。

見野 現状はやってみたら予想以上に人が集まって、いっぱいいっぱいという感じです。意外と男性で「中の人」をやりたい人が多いのも驚きでした。YouTubeを見ると女性キャラが多いので、応募も女性がスゴいのかなと予想していましたが、最初は男性ばかりでした。

──なんと!

見野 最終的には女性の方が多かったですが、募集直後は男性ばかりで、「やりたくて待ってました!」みたいな人がいたのかなと感じました。

──ネットの有名人や声優など、応募してきた人の傾向はありましたか?

見野 声優経験者の方、素人の方、タレント志望で今回やってみたい方など、本当にまちまちという感じでした。「ジャンルは問わずやってみたい方」と募集したので、それも影響していると思います。

──話を戻して、ジャストプロがVTuberで仕掛けていきたいことは何になるのでしょう?

福原 今は黎明期なのでのVTuberでもいろいろな方がいらっしゃいますけど、今後は「企画」か「中の人」のどちからで押していくパターンに二極化していくと予想しています。

 今、YouTubeの広告モデルで収入を得ようとしても、相当チャンネルの登録者が増えないとお金にならない。しかし、創造意欲や承認欲求だけで続けていくのも、どこかで限界が来ると思うんです。僕の場合はそういう形ではなく、最終的には商業に持っていかなければいけないので、スケールする展開を考えたい。

 例えば、単体のYouTuberではなく、何かのコンセプトの下で複数人いるとか、海外も見越して企画を考えるとかですね。

 お客さんの立場を考えると、VTuberが増えてきてじゃあ誰を応援するのかってなったとき、より「本気度」の高いキャラのほうが応援しがいがあると感じますよね。突然いなくなったりせずに長く続けていく中で、お客さんに「自分が最初から目をつけていて、それが売れたんだ!」って思ってもらえるような、そんな構造にしたいと思っています。

──ということは、結構長い期間でVTuberを継続していきたいという感じでしょうか。テレビでは1クールなど期間が決まっていますが、VTuberは終わりがないですよね。

福原 VTuberの場合、確かにストーリーをつくらないぶん永遠に続けられるよさもあるんですけど……。例えば、初音ミクは、特に設定が載ってないからみんなが味付けしていって、いろんな着眼点からいろんなものが出てきたりするよさがあったと思います。

 一方でVTuberは世界観をもっている割に情報が少ないので、CGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)になりづらいですよね。余白に対して人は想像をするんだと思いますが、余白がありすぎる部分とまったく無い部分があるのでとっつきづらいんでしょうね。


パノラ けもフレ ▲初音ミク

 ミクの場合はそもそもCGMのためのソフトですし、「ニコニコ動画」の文化と重なって無限にコンテンツが広がりました。VTuberは一見CGMっぽいですが、やっぱりあれ自体が1つの作品やコンテンツと捉えています。だからこそ、中の人のタレント性頼りになってしまうのはよくないと思っています。

──といわれると?

福原 言ってしまえば、面白い「中の人」を見つけられたかどうかの運になってしまいますよね。ある種の炎上商法やトラブルなどがきっかけで人々の話題になるのではなく、プロデューサーとしては作品的なアプローチを考えなければいけない。最終的なスケールの仕方も視野に入れて、プラットフォーム依存にならないようなIPを育てないと、と感じています。

──スケールについて具体的にいうと、ネットメディアを飛び越えたマルチメディア展開のようなイメージでしょうか?

福原 そうですね。最終的にはアニメ化やゲーム化の展開ができるようにはしておきたい。例えば、初音ミクってアニメ化していないですよね。ユーザーごとに「ミクはこうあるべき」っていうイメージがあるものは、やっぱりアニメ化しづらいです。VTuberも同じで、求められるキャラ像の上に、また設定を乗せてやり切るっていうのは結構きついと思います。

──なるほど……。

福原 一方で、設定が乗っていないとスケールできないジレンマもあります。「アイドルマスター」(アイマス)シリーズでいえば、キャラとしてライブをやれば何万人とお客さんが集まるけど、「中の人」である声優さんのライブはそれよりも規模が小さくなってしまう。キャラクターという設定が乗っかっている方が、本来はスケールしやすいんです。

 話はそれますが、アイドルって特にキャラ付けしないで世に出しても、お客さんとのコミュニケーションの中でどんどんキャラが確立していく状況がありますよね。

──あります。そして今のVTuberにも似てますね。

福原 そうですね。ただ、アニメのキャラって、最初から持っている情報以外は、掘り下げても何もないんです。例えばショートカットのキャラに「昔は髪が長かった」という設定があれば、「何かあって髪切ったんだな」っていうストーリーを掘り下げられるんですけど、設定がなければそこで終わってしまう。一方で生身の人間なら無限にエピソードが出てきます。

 だからVTuberも、あらかじめ設定をつくり込んでいなければ何もない。だから今はキャラではなく、「中の人」を掘り下げていってますよね。例えば「シロ」ちゃんはゲーム得意で、いろんな言動から「サイコパスだ!」みたいにバズってますが、それはもともと「シロ」というキャラに込められた設定ではない。もちろん非常に難しいことなのですが、そこで「キャラ」と「中の人」の魅力を狙ってプロデュースできるといいですよね。

 「てさぐれ!部活もの」では、「中の人」の魅力ももちろん使っていましたが、それでも設定やストーリーはしっかり用意しました。同じやり方をVTuberでも使うことで、もう少しキャラを光らせていけるんじゃないか。先ほどの「アイマス」の話じゃないですが、キャラの魅力をあらかじめつくっておくことで、「中の人」だけでは引き寄せられなかったファンをもっと増やせると思うのです。


パノラ けもフレ ▲「てさぐれ!部活もの」

 逆にそうしたアイデアなしに「中の人」頼みで進めてしまうと、今、人気になっている人たちは先行者メリットでどうにかなるかもしれませんが、後発は生き残るのが厳しいと思います。個人でVTuberをやっている人なら、最新技術や高価な機材を継続的に取り入れるのもコストがかかります。今後VTuberは、趣味としてそれなりの技術でコツコツとアウトプットする個人と、企業の運営に二極化していくと思います。

コンテンツビジネスで重要な「認知」と「人気」

──そうしたVTuberで、今、福原さんが興味を持っているキャラっていますか?

福原 うーん……。結構見てはいますが、先ほどから言っている「中の人」頼みでやっているケースが多くて、スケールという観点では「ちょっと惜しいな」と思ってしまうことが多いんです。

 デザインのかわいさなどの直感的な部分もあるものの、スケールの方向性は従来のYouTuberと同じ「広告で収入を得るモデル」で、それはキャラをかぶせる意味はあるんだっけと感じてしまう。もちろん知名度が高ければグッズになるかもしれませんが、それだと生身のYouTuberがやっていることとあまり差がない。

 ゆるキャラの「ふなっしー」がいい例だと思います。中の人は面白いし、企画力も高いですけど、「中の人」が普通にテレビに出てきたら、トーク力はお墨付きのはずなのに、そこまで人気は出ないと思います。VTuberは、キャラという皮をかぶることで爆発力を持つところに可能性があるので、ライバルはヒカキンではなく、ふなっしーなんです。


パノラ けもフレ ふなっしー。写真は過去にDMM VR THEATERで行われた舞台挨拶のもの

──とても興味深い話です。

福原 「伸びしろ」という、僕のつくるもの全般に対する考え方があります。ファンや観客、お客さんという捉え方は、最近のデジタルコンテンツではあまり通用しなくなっていて、「お客さんも込みで作品」みたいにしないといけないと考えているんです。

 応援する/されるだけじゃない方が、より関係性が強くなっていくというか……。例えばアイドルのライブとかって、ファンがサイリウム振ったりコールかけたりという現場の盛り上がり込みで、「ライブ感」が出ていると思います。そういうのを見ていると、お客さんをどう巻き込んでいくかっていうのが結構重要なんです。ひとつのコンテンツが出来上がっていくと、どこかの段階で新規に参入するのが辛くなって、やっぱり古参が強いみたいな雰囲気が出てきてしまう。

──niconicoが今、そんな感じですよね。10年前は誰もが無名だったので参加しやすかったけど、今からボカロPを始めて大成するのはちょっとハードルが高い。

福原 そうですね。だから新規の方も含めて、お客さんを継続的に巻き込んでいくためには、「伸びしろ」やツッコめる部分をたくさん用意しておいたほうがいい。

 今のVR界隈は、IT出身の人たちがリードしていると思います。IPやコンテンツよりの人たちは、今僕が言ったことを理解してくれると思いますが、IT系の人たちはやりながら今まさに把握していっている状況なのかなと感じるんです。

 そこを一番理解しておかないといけないのは、VTuberなら「中の人」で、Twitter含めて、お客さんを巻き込みつつ盛り上げていくのが求められます。そして声優や元々がYouTuberの方なら、経験則としてお客を巻き込むノウハウを持っているので、うまくハマることもあります。その辺に、スケールする秘訣がありそうだなと。

 あとスケールのためには、プラットフォーム選びも大事です。コンテンツって、「認知」と「人気」という両極端で大事なものが違うんです。

──「認知」と「人気」?

福原 「認知」が大事なものというと、「水曜日のダウンタウン」でやっていた「勝俣州和ファン0人説」になぞらえて例えると、勝俣州和さんというタレントはみんなが知っていますが、失礼ながらグッズまで持っているファンは身の回りにそう多くないと思います。つまり圧倒的な知名度があっても、必ずしもお金を落してくれるわけではない。

 逆に「人気」であるオタク向けのコンテンツにはお金は落ちるけど、世間的な認知度はそこまで高いわけではない。VTuberトップの「キズナアイ」ちゃんも、ファンや業界の人は知っているけど、知り合いのおじいちゃんに聞いても分からない。

 その話をVTuberに当てはめると、「認知」を大事にするならより一般向けなプラットフォームであるYouTubeで、「人気」が大事なオタク向けなら「SHOWROOM」のような「投げ銭」式に寄せた方がスケールしやすいのかなと思います。

──なるほど。しかし「投げ銭」は、地下アイドルじゃないですが、ファンが先鋭化しすぎるとあまりスケールしない気もしますが。

福原 そもそもアニメ文化が、「人気」と「認知」でいえば人気よりのビジネスで、狭いプラットフォームの中でパイを奪えた者が人気よりになれるという前提もあります。

──「人気」を目指すなら、よりロイヤリティの高いお客さんを確保して、いかに楽しんでもらってお金を落としてもらうかを考えるのがまだスケールできる方法だという。

福原 それが本来の人気寄りのコンテンツのビジネスのやり方です。そこで作品としてきちんと固めて、スケールする方向に持っていく。

 YouTubeは、もともと見ている人がすごく多いから、その中でアニメとかが好きな人が一部しかいなくても、チャンネル登録が50万以上いけるポテンシャルはある。対してSHOWROOMは1回の放送で100万人は来ないですよね。作り込む「動画」はYouTube、コミュニケーションが軸の「生配信」はSHOWROOMと使い分ければいいわけです。結局、どのプラットフォームを選んでも、一長一短はありますが。

──最近のSHOWROOMでいえば「東雲めぐ」ちゃんがバズってたりします。


パノラ けもフレ ▲バーチャルSHOWROOMER「東雲めぐ」

福原 そうですね、生配信の方に行くと、今度は企画色がない分、本気で「中の人」のパワーが重要になってきます。僕らは後発なぶん、そうした分析をもとに改善した状態でスタートしなければいけないので、なかなか大変です。先行者メリットを得ている方々に、どのくらい追い付けるかという感じはあります。

 あとはもう1つ、全ての要素で一定の基準を満たしてスタートできるかっていうのもありますね。ただやりはじめるだけなら簡単なんですけど、「成功する」ゾーンに収めるとなると、中の人がいい人見つかるかとか、モデリングや技術が良い等、条件がそろうのを待たなくちゃいけない部分もありますので。

(TEXT by 高橋佑司)

関連記事

前のページへ 1|2       

Copyright © PANORA. All rights reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/01/news016.jpg 消波ブロックの隙間にカニカゴを仕掛けたら…… 「うそでしょ!」“想像を絶する結果”に大興奮「見てて声出た」
  2. /nl/articles/2501/31/news050.jpg 「許されると思ってんの?」 スマホのアラームを設定→翌朝…… “絶望の通知内容”が430万表示 「ほんとこれ」
  3. /nl/articles/2502/02/news005.jpg 「正直破格です」 成城石井の元店長が辞めてからも買い続ける“名品”がリピ必至 「ヨダレが出そう」
  4. /nl/articles/2501/31/news013.jpg これは“1秒”で解きたい! 「8×2×0÷4」の答えは? 【算数クイズ】
  5. /nl/articles/2502/01/news047.jpg 【編み物】彼氏のために、緑と黄緑の毛糸を正方形に編んでつなげると…… 圧巻のおしゃれな大作完成に「息をのむほどすばらしいよ」
  6. /nl/articles/2502/02/news069.jpg 「レベル間違えてる」 イオンの“1944円恵方巻”、衝撃ビジュアルにネット大騒然 「なにこれ」「本気かよ」
  7. /nl/articles/2502/02/news038.jpg 100均ビーズをどんどんテグスに通していくと…… うっとり見入る完成品に世界が注目「これは傑作」「どれも可愛いいい!」
  8. /nl/articles/2502/02/news003.jpg 「こんなお母さんになりたい」 北海道で暮らす67歳女性の“手作り料理”がすてき 「参考にしたい」「ぱぱっと作ってみな美味しそう」
  9. /nl/articles/2502/02/news027.jpg 「この子はきっと豆柴サイズ」と言われた子柴犬、4年後の姿が大きな話題に…… それから約1年たった“現在の様子”を聞いた
  10. /nl/articles/2501/30/news003.jpg 親の反対を押し切り、17歳で同棲を開始→それから13年後…… 若くしてママとなった女性の“現在”が話題
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議