あなたは誰のためにメイクしてますか? 15人の女の告白『だから私はメイクする』が心に刺さる(2/2 ページ)

» 2018年11月02日 20時00分 公開
[青柳美帆子ねとらぼ]
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ねとらぼ出張掲載

自分の力で、自分の幸せと尊厳を守らなければ――会社では擬態する女

名前:エボシカメレオンさん(29)

出身:兵庫県

好きな映画:エターナルサンシャイン

性格:割り切りが早い

「え! ヒールとか履くんですね、めずらしい!」

 うるさい。

「今日の服かわいい系じゃないですか〜なんかあるんですか?」

 ほっとけお前には関係ない。

 きっと私とコミュニケーションを取りたいだけ……ということは分かっているけどすごーくムカつく。それが、会社の男達が繰り出す気まぐれなファッションチェックだ。髪を巻いてハーフアップにしていたら、きれいなワンピースを着ていたら、ピアスが大きかったら。デートに行かないとMiuMiuのビジューパンプス履いちゃいけないなんて条例、いったいどこの街にあるんだろうか?

 29歳、兵庫県出身、大学進学を機に上京してきて早10年。渋谷区にオフィスのあるゲーム会社で営業として3年勤めている。新卒で入社した会社は小さなWeb制作会社で、50代の上司から日々雑なファッションチェックを受けていた。「若い人たちが多い会社ならおしゃれしててもほっといてくれるだろう」という淡い期待は、転職理由のひとつといっても過言ではない。まあ結局、平均年齢34歳のイケてる会社にもファッションチェックはあったのだけど……。

 きっと、私のキャラクターや日々の行いも悪いのだ。毎日バッチリおしゃれしている女の子ならこんなこと言われないんだろう。背が高いのを気にしてコンバースのスニーカーを履くことが多いし、激務に耐えるためという言い訳のもと、週3はジーンズだ。それでもふと早く目覚めた朝や、好きなアイドルのライブに行った次の日、猛烈におしゃれをしたくなる。

 M・A・Cで買ったお星さまみたいなざくざくのラメをまぶたに乗せ、値が張ったリネンのシャツを着ると深呼吸と共に姿勢が伸びる。帰省時に神戸のセレクトショップで恋に落ちたこのリネンシャツはJACQUEMUSというブランドのものらしい。ざっくり背中が開いていて、普段肌を全く露出しない私にとっては、着るだけでドキドキしてしまう。セールで50%OFFになっていたからなんとか買えたが、それでも高かった。背中のドキドキを買うために貯金を切り崩すのって、こっそり悪いことしてるみたいですごく楽しい。

 朝のおしゃれはまだまだ続く。

 襟のラインをきれいに見せるため、軽く髪を巻いてからゆるくポニーテールにする。友達が作ってくれた、青い花のついたピアスをつける。よし、そろそろ美人になってきた。母親から譲り受けたターコイズブルーのハンドバッグに仕事用のMac Book Airを入れようとすると、ギリギリサイズが合ってなくて飛び出してしまうんだけど、なんかそのはみ出たチグハグさもむしろかわいい、とひとり満足して家を出る。ここまでは完璧。

 いい気持ちで会社に着くと、イケてるオフィスにたむろする若者たちの姿が見えてくる。コーヒー片手に新型iPhoneの情報交換をする男たち……。ほっといてくれ、頼むからスルーしてくれよ〜と念じながら「おはようございます」と挨拶すると、例のアレのお出ましだ。

「あれ? なんか今日いつもと違くないですか?」

「デートですか?」

「てか俺ポニーテールの方が好きだわ〜!」

「あ、でも化粧は薄めのほうがいいっすね!」

 ……う、うざすぎる。

 今日おしゃれをした理由は誰かのためじゃないし何かの腹いせでもない、ましてや彼らに品定めさせたり新鮮味をご提供するためでは絶対にない。

 目が覚めると気分が良くて、なんとなく自分を美人にしたかったからだ。そんなことがごくたまーにあるばっかりに、突然のことでびっくりさせてごめんなさい。でも申し訳ないけれど、私のおしゃれをコンテンツとして消費しないでほしい。

 そんなに女のファッションチェックがしたいなら、「#ootd」タグつけてるインスタグラマーさんのコメント欄に行ってきてください。今日のコーデ(Outfit Of The Day)を披露したい人たちがたくさんいるから。「#おしゃれさんと繋がりたい」タグもおすすめだよ。みんなが君の感想コメを待っている!

 「せっかく褒めてもらってるんだから素直に受け入れたら?」という意見もあるだろう。

 たしかに、私の性格はひねくれている。可愛げも余裕もない(直したい)。そんな私にだって褒められて嬉しいことはある。そして「誰に褒められたいか」も、ある。彼氏、推してるアイドル、大好きな女友達、お母さん……これが私の褒められたい人たち。会社の男性社員、繁華街のキャッチ、元彼……これは私の褒められたくない人たち。褒められたくない人たちに褒められると、私の頑張った「おしゃれ」が一気にみじめで恥ずかしいもののように感じられてしまうのだ。

 子供の頃から背が高く、幼稚園のお遊戯会では「おねえさん」や「兵士B」みたいな役どころが多かった。心の奥底では「いもうと」とか「お姫さま」のようなフリフリのワンピースを着る役もやってみたかったのだが、そこは仕方ないと子供ながらに割り切っていた。だって、どんなに頑張っても、背は縮まない。

 時が経ち自分の好きな服を着られるようになると、「あの小柄な女の子が着ていた可愛い服」ではなく「私が一番可愛く見える服」があることを知った。

 きっかけは中学で回し読みしていたティーン誌だっただろうか。体型別の着まわし特集で、背が高い女の子はロングスカートやブーツがかっこよくキマると書いてあった。まだ出会っていない、でも必ず世界のどこかにある、この顔でこの体の私だけが素敵に見える服、アクセサリー、メイク! それを一つずつ集めて、買ったり覚えたりして、自分のものにしていくことは、自分の良い部分を一つずつ探していく作業でもあった。

 そんな大切なおしゃれを、日々、会社の男たちはのんきに笑いながら土足で批評するのだ。

 なんとかして「嬉しくて楽しいおしゃれ」を守らなければならない。自分の力で、自分の幸せと尊厳を守らなければ。そう考えた私は、会社におしゃれしていく日を一切つくらないことに決めた。

 素敵なハイヒールもキラキラのピアスも全部全部、会社の男たちのためになんか身につけてやらない。とっておきの自分はとっておきの人と場所のためにある。オフィスでみんなが「いつも通り」だと思っている私は、「みんなと気持ちよく生きていくため」の私だ。ストレートヘアにブラウンでまとめたナチュラルメイク、UNIQLOのジーンズにZARAの無地ロングカーディガンをはおっただけのスタイルは、私にとってなによりの武装。

 最初の頃は「今日はシンプルですね〜!」とか「前よりジーパン多くないですか?」などと構われていたものの、それが当たり前になると皆ファッションチェックをしてこなくなった。あぁ快適……。

 就業時間が終わると職場の裏口を出て、少し離れてから金色の大きなフープピアスをつける。下まぶたにも薄っすらラメをつけ髪をまとめると本当の自分が現れる。「気合い入ってるねぇ」じゃなくて、こっちがほんとう。ほんとうがとっておきで普通!! あなたたちの見ている私は「ナチュラルな私」という鎧をわざわざつけているわけなので、そこのところよろしくお願いします。

 「ナチュラル」という武装を覚えた私は、推しのライブの翌日も浮かれておしゃれして出社とかしない。何事もなかったかのように無印良品的な女のフリをして働き続ける。キラキラのMiuMiu大好きなくせに。

 ……それでも、どうしても気分が乗ってワクワクがおさえられない日は、普段は棚にしまってある香水瓶を手に取るのだ。慌しく過ごすオフィスの中で自分の髪からJo Maloneのザクロが香るたび、会社の男たちが知らない美人な私を思い出し、人知れず優越感に浸っている。

会社では擬態する女(出張掲載画像版)

だから私はメイクする
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