大井川鐵道「井川線」の秘境駅で駅弁を喰らう幸せ 静寂と孤独がスパイスだぜ:月刊乗り鉄話題(2019年4月版)(1/3 ページ)
祝復旧! SLだけじゃない、楽しいもう1つの大井川鐵道、旅してみたくなる路線。皆さん、乗りに行きましょう〜〜!
2019年3月9日、大井川鐵道井川線が全線復旧しました。昨年2018年5月8日の土砂崩れで運休していましたが、10カ月後に無事復旧。このときを待っていました。よし、乗りに行くぞ!!
大井川鐵道、古くから蒸気機関車の保存運転で有名です。機関車だけではなく、客車も古い形式を使っています。テレビドラマで戦前戦後あたりの列車が登場すると、たいていは大井川鐵道です。最近は「きかんしゃトーマス」の運行でも注目されています(関連記事)。
その大井川鐵道には2つの路線があります。1つはSLが走る「大井川本線」。もう1つは大井川本線の終点、千頭駅から井川駅を結ぶ「井川線」です。1日4往復のローカル線。片道所要時間は約1時間50分で乗りごたえたっぷり。でも、観光客のほとんどはSLやトーマス号に乗って千頭駅に着いて、そのまま引き返してしまいます。もったいない。「SL列車の先」へ行ってみませんか。ここでしか見られない絶景があります。
ここにしかない絶景、「アプト区間」の急勾配 「SL列車の先」井川線を楽しむ旅
井川線の車両はトロッコ風です。機関車は常に千頭駅側に連結されています。井川行きの先頭客車には運転台があり、ここから後方の機関車を制御します。
なぜ機関車は常に千頭駅側にあるのか。勾配の上方に機関車を連結すると、万が一客車の連結が外れた場合に客車が暴走してしまうからです。重くて制動力の高い機関車を勾配の下側に配置して、客車の連結が外れたとしても受け止められるようにします。急勾配の山岳路線や、折り返し設備がない路線に見られる形態です。日本では他に、奥出雲おろち号、富良野・美瑛ノロッコ号などがあります。
井川線の客車は急カーブや急勾配があるため、本線の客車に比べると小型です。同じ形式でも座席の仕様が違い、半室が窓向きにベンチを並べた展望タイプもあります。運転台のある客車がもっとも新しく、乗り心地が良いような気がします。
千頭駅を出発した列車は、右手に大井川を眺めつつ走ります。急カーブと急勾配が連続し、常にレールのきしむ音が聞こえます。大井川の谷もだんだん険しくなっていき、トンネルと鉄橋が増えていきます。こんなところによくぞ線路を敷いたものですね。開業は1935(昭和10)年で、大井川ダム、大井川水力発電所の建設と管理のために作られました。後に林業の輸送にも使われました。
戦後は中部電力の専用鉄道となって、上流のダム建設資材を運ぶために延伸されました。ダム建設が終わったあと、1959(昭和34)年に下流側の鉄道を経営していた大井川鐵道が運営を引き継ぎました。
鉄道が残った理由は、ダム建設によって大井川の水量が減り、川船による林業輸送ができなくなるため、鉄道が代替するという約束があったためです。また、井川線は登山者に人気があり、高度経済成長期で全国的に観光開発がブームになっていた背景もありました。
さて、列車は井川線最初の有名スポット「アプト区間」の入り口、アプトいちしろ駅に到着しました。ここで後部に機関車2両を連結します。
この機関車は通常の車輪の他に、歯車のような車輪を装備しています。ここから次の長島ダム駅までは急勾配。レールの間に歯のようなラックレールがあり、機関車側の歯車とレールの歯をかみ合わせて進むのです。通常の車輪だとスリップして登れない急勾配も、歯車式車輪なら上れます。下りもしっかりとブレーキを効かせられます。
ラックレール方式のうちレール側の歯車が複数あるタイプを、考案者の名前から取った「アプト式」といいます。かつては信越本線の碓氷峠、横川〜軽井沢間でも使われていました。
アプト式機関車を連結して、列車はゆっくりと上っていきます。取材した日は団体の予約があったようで、客車と機関車が増結された10両編成でした。そこにアプト機関車が2両もつながり、何と12両編成! 小さな車両ですが12両編成は堂々たる姿。山肌をうねうねと進む大蛇のようです。
車窓に目を向ければ、長島ダムの威容が現れます。2002(平成14)年に完成した大きなダムで、上水道や治水のために作られました。大井川水系ではただ1つ、発電をしないダムです。実はこのダムを建設するために水没することになった井川線の一部区間を1990(平成2)年に移設し、現在のアプト式区間が作られたのでした。なお、信越本線の碓氷峠区間は1963年にアプト式が終了。1997(平成9)年の北陸新幹線開業と引き換えに廃止されたので、2019年4月現在は日本で唯一のアプト式区間です。
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