「わたし、定時で帰ります。」3話が平成最後の日に定時で放送した心意気。非常識な新入社員にモンスターのレッテルを貼らないで
グループチャット動画を友だちが勝手に拡散、クライアントに大迷惑をかけた新入社員の運命は?
「わたし、定時で帰ります。」(TBS系)第3話が4月30日に放送された。平成最後のこの日、他局が軒並み特番を放送する中、このドラマだけは定時を守って放送されたのだ。
第3話あらすじ「僕だって被害者」
東山結衣(吉高由里子)が諏訪巧(中丸雄一)の実家に挨拶へ向かおうとしていたところ、種田晃太郎(向井理)から連絡が入った。ファイアーストロング社のドリンクCM撮影時、出演者が「ゴムの味」と酷評している動画がSNSで拡散・炎上しているというのだ。結衣はクライアントに謝罪へ向かうことに。件の動画を撮影していた来栖泰人(泉澤祐希)に電話を掛けても通じず、翌日、来栖は何事もなかったように出社した。来栖を咎めると「グループチャットに送った動画を友だちが無断で拡散した」「僕だって被害者」と責任転嫁する。
結果的に「ゴムの後味」は話題になり、かえって注文は殺到。契約は打ち切られなかったが、晃太郎に厳しい言葉を掛けられた来栖は結衣に辞表を出そうとする。
数日後、結衣は来栖と共にスポーツメーカー「ランダ―」のコンペ担当に指名される。当初はスポーツエリートを対象とした晃太郎の案に決定しかけるが、結衣は納得をしていない。晃太郎からフットサルに誘われた結衣は、そこで実際にランダ―のシューズを履く。そして、その経験を踏まえた案を結衣は提案した。しかし、この案にクライアントはあまりいい反応を見せなかった。
後日、来栖は改めて「異動願」を持ってきた。結衣は「私は来栖君がいる意味はあると思ってる」と来栖を評価。2人が仕事に戻ると、先日のランダーのプレゼンが通ったとの報告が。この案件は引き続き結衣がディレクターを務め、来栖も参加するよう指示を受ける。先方の部長は、スニーカーに詳しい来栖を気に入っていた。来栖は「頑張ります」と答え、異動願も撤回した。
今どきモンスターと来栖にレッテルを貼らないで
早いもので5月に突入である。きっと、5月病患者が量産されている頃だろう。そんな時期にふさわしいエピソードだったと思う。
まずは、来栖ではなく人を育てる側の立場に注目したい。教育係の結衣は来栖の態度にうんざりだ。
「来栖君が何考えてるかさっぱりわかんないし、ああいうのを新人類っていうんですかね」
かつて、結衣の教育係だった賤ヶ岳八重(内田有紀)は口を開いた。
「教育係に必要なことは、新人類とかモンスターとかそういうレッテルを貼らないで、その人自身を見ていくことじゃないかな」
行きつけの上海飯店の店主・王丹(江口のりこ)は言った。
「一括りなしね。みんな色々よ、人生色々よ」
このドラマは来栖を“理解不能なモンスター”と扱わず、記号的に描かなかった。
ランダーとの打ち合わせ時、スポーツ経験がなく居心地の悪さを感じていた結衣を晃太郎はフットサルに誘った。結衣は初心者だ。ボールを蹴るも空振りし、すっ転び、全く戦力になれていない。「何とお詫びをしていいか……」と謝り倒す結衣に、チームメイトは優しかった。初めての人はできなくて当たり前だからだ。
来栖は「辞めたい」が口ぐせである。その根っこにあるのは、理解不能な今どきモンスターの性質ではなく、新人特有の悩みだった。
「正直、もっとできると思ってたんですよ。でも、働き始めてみたら全然で、だんだん自分に嫌気が差してきて……」(来栖)
理解不能じゃない。来栖の気持ちに強く共感できる。できる人に劣等感を抱き、プライドを保つため平気なふりをして虚勢を張る。マイペースで自分至上主義な新人社員の態度の裏には、自信を喪失し、どうしていいかわからない心理があった。今どきではなく、時代を超越した若者の普遍的な苦悩。「今どきの新人類は……」と言われる新入社員の多くは、心の中で来栖のように辛く苦しんでいるのではないだろうか。
そんな来栖のいいところをすぐに挙げられる結衣がいい。
「シュレッダーのゴミとかさ、まめに替えてくれたりしてるじゃん」(結衣)
あ〜、これは大きい。やってくれると助かるんだ……。
平成最後の日にこのエピソードが放送された理由
そして、向井理演じる晃太郎。叱るところは叱って反省を促し、絶妙なところで褒めて伸ばす。「一生勝てる気がしない」と仰ぎ見ていた上司から「やれるか?」と問われ、あからさまに来栖は意気に感じた。ユースケ・サンタマリア演じる“ブラック上司”福永清次と晃太郎の対比もくっきりである。このドラマ、新人の悪いところを描写しながら、昭和のまずい部分もしっかりクローズアップしている。フェアだと思う。
第3話が放送されたのは4月30日。軒並み、どの局も改元特番を放送していた。そんな中、このドラマだけは文字通り定時を守って放送されたのだ。令和に羽ばたく新人の未来を願っていた気がしてならない。新時代につながる平成最後の連ドラとして、見事に締めくくってくれたと思う。
1話見どころ
2話見どころ
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