瀬戸康史「デジタル・タトゥー」は匿名の悪をどう描く? ユーチューバー、Vチューバー、匿名ブロガー……NHKが迫る“ネット世界の現在”(2/2 ページ)
「デジタル・タトゥー」の意味と、逃れられない匿名の暴力性
タイガ「こういうの、“デジタル・タトゥー”っていうんでしょ。何年も何十年も前の、もう忘れちゃいたいようなことがネットの中に残っていて、自分を追いかけてくる」
一度インターネット上で公開された個人情報や記事、書き込みなどは、公開した人が削除したとしてもコピーが出回ったりログが残ったりして、完全に削除するのは難しい。その現象を、一度入れたら完全に消すことが難しいタトゥー(入れ墨)に例えて「デジタル・タトゥー」と呼ぶ。作中では、父親の名前や過去に起こした傷害事件のことが文字となり、タイガの首筋から頬にかけてタトゥーのように浮かび上がる演出があった。
個人情報を暴かれても顔を出して反論したタイガに対し、本作では、匿名の人々はとても悪し様に描かれる。その筆頭は、近藤公園が演じる緒方智紀だ。
緒方は、「月食仮面」というハンドルネームで匿名掲示板にタイガの個人情報を載せる。さらに、「ジーザス」という名で匿名ブログを運営し、美少女のアバターを使ったVチューバー「ともちん」としても活動している。
タイガは過去に、教師からいじめを受け、耐えかねて彫刻刀で刺す事件を起こしたことがある。政治家の父・秀光が多額の示談金を払ったため、タイガは少年院に入らなかった。
緒方「そんなのズルいじゃん。だからこそ、名前と顔を晒して叩いてやる必要があるんだよ。そのためにネットがあるんだよ。ネットは正義だよ!」
岩井「それは正義じゃなくて暴力だろう!」
SNSの文字列として考えると、よくある詭弁だとスルーできる。しかし、緒方という実体を持った人間の口から聞くと、ウッ……と胸が焼けるような生々しさがある。ヘッドセットが落ちるほど取り乱した近藤公園のうわずり声が、その実存性をさらに強くする。きっと実際に、緒方のような思いでパソコンやスマートフォンの画面を見ている人はいるのだ。
また、緒方に対する「正義じゃなくて暴力だ」という岩井の反論にも、そうだそうだと乗ることができない。他人の個人情報をインターネットに公開した緒方の行動はとがめられるべきだ。しかし、よく知らない他人の善悪を頭ごなしにジャッジするという点では、緒方と岩井の判断がそこまで遠いものではないように感じてしまう。
岩井の「正義じゃなくて暴力だ」というシーンに安易に乗っかって緒方を吊るし上げたくなる気持ちもまた、見ている者の匿名の暴力の芽生えである気がしてならない。
懐かしの「トリビア」コンビ八嶋智人&高橋克実
ところで、国選弁護士のくじびきシーンはうれしかった。岩井を演じる高橋克実の横に並んでいたのは、かつてテレビ番組「トリビアの泉 素晴らしきムダ知識」(フジテレビ系)で高橋とともに司会を務めていた八嶋智人だった。
八嶋が演じる田村正義は、岩井と同じ弁護士会に所属している弁護士。おせっかいで、ちょっとしたことにも口を挟む様子の場違い感に笑ってしまう。ストーリーの本筋に直接絡むことはないかもしれないが、和ませ役として今後も出演シーンがあるかもしれない。
また、唐田えりかが演じる岩井の娘・早紀は、キー局の女子アナになるために大学のミスコンに出場し、「国境のない教師団に入りたい」などと方便も使えるイマドキのちゃっかりした女の子だ。NHK制作のドラマで、「キー局の女子アナになりたい」ってこんなにはっきりと言っていいんだ! と驚きがあった。
早紀「正しいことと、そうじゃないこと。黒と白。世の中そんなにはっきりわけられると思う? お父さんは、頭が固いの。一緒にいると息が詰まるの」
早紀はこう言うが、岩井が早紀のミスコン優勝を祝おうと、柄でもないおしゃれな店を予約していたことは素直に喜び、歩み寄る姿も見せていた。「ちゃっかりしている」というだけで、根は良い子なんだろうな。
他にも、すでに俳優として頭角を現しまくっている今野浩喜が雑誌編集者を、久保田紗友が早紀に不穏な視線を向けるミスコン準優勝者・奥村ミサを演じる。2話以降のゲスト俳優陣には、徳永えりや矢田亜希子らが名を連ねているのも楽しみだ。
匿名はそんなに悪なのか、ネット上に個人情報が存在することでどんな不都合や苦しみが起きるのか。岩井とタイガが「デジタル・タトゥー」にどう向き合っていくのかを、見守っていきたい。
むらたえりか
宮城県出身のライター・編集者・ハロヲタ。 Twitter
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