オタクの孤独死、現場に取り残されるペット…… 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人に聞く「終活」
若いうちから遺書は用意しておこう。
「孤独死が誰にとってもひとごとではないことを伝えたい」という思いから、自身が見てきた孤独死の現場を題材にしたミニチュア模型を作っている遺品整理人、小島美羽さん。2019年8月に出版した初の著書『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』(原書房)は、発売後2週間で重版がかかる大反響となりました。
ねとらぼ編集部は、小島さんの働く遺品整理・特殊清掃の会社「遺品整理クリーンサービス」を訪れ、直接お話をうかがいました。連続インタビュー最終回となる本記事では、孤独死の現場に残されるペットや、オタクが生前やっておくべきことについて考えます。
この企画は全3本の連載記事です。
第1回
【試し読みあり】遺品整理から、日本全体が見えてくる 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人はなぜこの道を選んだのか?(2019年9月21日公開)
第2回
遺品整理ってどうやって頼めばいいの? 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人に聞く「現場」の話(2019年9月22日公開)
第3回
オタクの孤独死、現場に取り残されるペット…… 「孤独死のミニチュア」を作り続ける遺品整理人に聞く「終活」(2019年9月23日公開)
依頼人の心も整理する
――依頼人の方にかけられた言葉で印象に残っているものはありますか。
乳がんで亡くなってしまったお姉さんのお部屋の片づけを依頼してくださった方の言葉でしょうか。作業が終わった後にお姉さんの亡くなるまでの話を聞いたんです。「姉はずっとつらいのに全然泣かなくて、でも亡くなるときに『みんなより先に亡くなっちゃってごめんね』と言うので、(依頼人も)泣いた」という話をされながら泣いてらして、つられて私も泣きました。話をした後に「ありがとうございました、救われました」と言われたのが印象に残っています。「力になれてよかった」と思いました。
――依頼人の方との心の距離感はどういう形になっているんでしょうか。一緒になって泣くというのは共感がないとできないことだと思いますが、気持ちを引っ張られるのも苦しいことですよね。
そうですね……私も姉がいるので、(お姉さんを亡くした依頼人の状況に)重なるところはありましたね。重なるところがなくてもその人の立場になって聞いてしまうというか、感情移入してしまうんだと思います。つらかっただろうな、と思うと自然と涙があふれてきます。お客様には我慢しないで泣いていただいたほうが私も気が楽になりますし、泣いてほしいです。
――小島さんの遺品整理にはある種心のケアの側面があるというか、依頼人の方の気持ちも整理していますよね。
それはあるかもしれないです。そのお客様と会えるのは今だけじゃないですか。だから整理している時に、亡くなった方との思い出や好きだったものについて、いろいろお話したいんです。遺品整理の場は故人と遺族のためだけの空間なので、やっぱり私は他人ですけど、ご遺族の話を聞いて、楽しかった思い出を思い出してもらいたいと思っています。
最初は、その場の雰囲気がすごく暗いんです。やっぱり遺族にはまず悲しい思いが先にあるので、たいてい黙っておられるんですけど、遺品整理していくなかで……例えば着物があったら「踊りをされてたんですか」と尋ねるとか、会話をしていくうちに「そうなんです」って自分から話してくださるんですよね。そうすると依頼人の方が不思議と笑顔になって、抑え込んでいた感情が前に出てくるんです。中には本当に話しかけないでほしい依頼人の方もいるので、そういう方はそっとしておきますけど。
ゴキブリの幻覚が見えた
――葬儀会社に勤めている方で、「プロとしてできるだけ気持ちを動かさないようにしようとしている」とおっしゃってる人がいました。つらい式の時でも泣かないように努力する、仕事で感じた気分を家に持ち帰らないように心掛けるなど、その仕事の現場で気持ちを切り替えて帰らないと飲み込まれてしまう、と話していたのが印象に残っています。小島さんもお仕事で気持ちを揺さぶられることが多いと思うのですが、仕事と日常は切り離していらっしゃいますか。
そうですね、仕事は仕事、プライベートはプライベートで切り離してます。でも(仕事で)感情的に泣くことは我慢しないです。意識しなくても勝手に出てきちゃうものなので。
ただ無意識に脳内に焼き付いていることがあると、夜眠れなかったりする場合はあります。私はいまだにゴキブリが苦手なんですけど、何千匹のゴキブリに囲まれるようなごみ屋敷状態の現場があって、そこで2、3日ぐらい続けて作業をしたんですね。それが終わって家に帰って、寝るとき電気を消して天井見るじゃないですか。ゴキブリがいるんですよ!
「うわ〜〜!」と思って電気をつけると、それがどこにもいないんです。探してもいないんですよ。幻覚でした。分けるようにはしていますけど、分けきれないことはありますね。
――特殊清掃や遺品整理の仕事をしていて、一番やりがいを感じる瞬間はいつですか。
最初は暗い顔だった遺族の方が、帰るころには明るい顔になって……明日のこと、明るい未来のことを考えているのがわかるときは、「やっててよかったなあ」って思いますね。「力になれた」と実感できます。
現場に取り残されるペット
――ペットが残されている現場もあるそうですね。
いますね。もう息をしていない子が多いんですけど、生きている子が残されていることも結構あります。でも生き残っても、遺族の方が「殺処分してください」とおっしゃることもあって……。
「殺処分」なんですよ。「新しい飼い主さんを見つけます」ではなくて、保健所か殺処分かの二択しかない。死しかないんですよ。そこで「殺す」選択肢になるのはおかしいのかなと思います。少しでも飼い主を探してほしいですし、ペットを飼う方には、その後自分が死んでしまったり、世話ができなくなったときにどうするかまで考えて飼ってほしいです。
――この本の中でも、現場にいたネコちゃんを引き取った話がありました。
はい。里親を探して、みんなもらわれていきました。そのうち1匹はうちの実家にいます。……写真見ますか。
――見たいです! おいくつなんですか。
今6歳ぐらいかな。引き取ったときにはすでに5歳ぐらいでした。……この子です!(写真を見せる)
――かわいい! 美ネコですね。ライオンみたいにふさふさです。
かわいいですよね! 最初は毛玉がすごかったんですよ。全然取れなかったのでネコを洗って毛玉取ってくれるところを探して、私も実家もネコを飼うのが初めてだったので、実家にネコちゃんのケージとトイレと、全部置いて……。
――すごい労力ですね……。それは遺族の方が動いてくれるわけではないんですね。
そうですね。遺族の方は「もう保健所で」という感じだったので、「じゃあこっちで飼い主を探します」と言って、探しました。そのときは奇跡的に友人や家族のつながりで里親が見つかったのでよかったのですが、ペットをもらってくれる方は本当に少ないです。ネコは特に。
自分でも残された三毛ネコを飼わないといけないと思って、わざわざペット可の物件に引っ越したのですが、結局そのネコは別の人にもらわれていきました。
ネコ、飼いたい気持ちはまだちょっとありますね……。ただ、今後また引き取り手のいない動物に出会うかもしれないので、引き取り手のいないペットに巡り会うまでは動物を飼わないようにしようと思って、今もペットがいないペット可の部屋に住んでいます。
オタクの孤独死
――近年まんだらけの生前見積サービス(関連記事)が話題になるなど、オタクの終活に注目が集まっています。小島さんから見たオタクならではの現場の話や、気を付けるべきことがあれば教えていただけますか。
本でも紹介しましたが(※1)、遺品を(売却目的で勝手に)持っていく方がいるんですよ。
これは実際にあったことなのですが、社宅で亡くなった方のお部屋に同僚がみんなで来たんです。亡くなった方の遺品にはフィギュアがとても多かったのですが、その同僚の方が「これ売ろうぜ」とか、遺族の方もいらっしゃるところで話してるんですよ。
※1……『時が止まった部屋』では、亡くなったオタクの部屋にどこからともなくやってきて故人の友人を名乗り、売却目的でフィギュアやグッズを持っていく正体不明の人物に遭遇したエピソードが紹介されている。
――うわあ……。
結局どんなに信頼していた人でも、遺品を勝手に持っていってしまうことはあるんですよね。若い方でも生きている間に、これはどこで売ってほしい、誰にあげてほしい、というのをリストにして、パソコンや紙に残したり、家族に話しておくのがいいのかなと。
――突然亡くなることもあるわけですもんね。
そうなんですよね。突然死は30代の方が多いです。20〜30代の方は自分が亡くなるなんて思っていないので、遺書がない場合がほとんどですからね……。もう生前に売っておく、というのも一つの手ですけど、それでは宝物を手放すことになるし……。「この人だったら譲ってもいい!」という人に「きみにあげるよ」と事前に話しておくのがいいかもしれないですね。
――若いうちから備えはしておくに越したことはないですね。私も家に帰ったら、自分の遺品リストを書いてみます!(了)
この企画は全3本の連載記事です。
第1回
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