「どれだけ研鑽を積めばウメハラの領域にいけるのか」 東大卒プロゲーマー・ときどが語るeスポーツ界の新たな課題と“最強”への道筋(1/4 ページ)
人気・実力ともにトップクラスのプロゲーマー。
プロゲーマーの「ときど」といえば、今やゲーマーなら知らない人はいないほどの有名プレイヤーだ。東京大学を卒業したインテリでありながらプロ格闘ゲーマーとして生きる道を選択し、栄光と挫折を味わいながらも2017年に世界最大の格闘ゲーム大会Evolution(EVO)で優勝を果たし一気に飛躍。その優勝に至るまでの劇的な展開は、格闘ゲーマーの枠を超えて大きな話題となった。
人気はもちろん実力も世界トップクラスであり、メインで活動する「ストリートファイター」シリーズのランキングでは常に上位を維持している。元々コアゲーマーからは知られる存在だったが、近年ゲーマー以外からの知名度が上がったことで、2017年には「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」に、2018年には「情熱大陸」に出演するなど、ゲーマー界だけでなく一般層にも比較的知られた存在といえる。
ときどが周辺機器メーカーと契約し、プロゲーマーになったのは2011年。「eスポーツ」という言葉も浸透し、プロゲーマーの地位も向上しつつある中、プロ格闘ゲーマーの最古参の1人であるときどは、eスポーツ界の今をどう見ているのか。日本を代表するプロゲーマーの1人となったときどに話を聞くと「誰よりも強くなりたい」というシンプルな野望と、レジェンドプレイヤー・梅原大吾の領域に挑むチャレンジャーの姿が見えてきた――。
ときど(本名:谷口一)
現在34歳。ストリートファイターVをメインに活動するプロ格闘ゲーマー。ストリートファイターシリーズの公式ランキングでは常に上位を維持しつづけ、2017年には世界最大の大会「Evolution」において劇的な展開を経て優勝したことでも有名。人気・実力ともに国内トップクラスのプロゲーマー。東京大学出身。
「一番強いプレイヤーになりたい」
――EVO2017での優勝以降、ときどさんへの注目度が非常に上がっていますよね。ご自身の目から見ても環境は変わりましたか?
ときど:変わりましたよね。それまではテレビで扱っていただけることはなかったですし、eスポーツという言葉も通用するようになりましたし。徐々にゲームが認知されるものになってきたと感じます。
――有名企業からスポンサードを受けたり、情熱大陸に出演したり、日本のeスポーツを象徴する人物の中の1人になっていると感じます。
ときど:ありがとうございます。そう言われるとありがたいですね。
ただ、プロゲーマーとしてあるべき姿みたいなのもあるんですけど、個人的な欲望としては「一番強いプレイヤーになりたい」というのが根本にあるんですよ
――そういう意味で言うと、「ストリートファイターV」のリリース以降は大会成績もずっと好調ですし、ランキング上でも常に上位を維持していますよね。
ときど:でも、ゲームに対して真剣に取り組むプレイヤーが増えたので、大会では勝ちづらくなってきていますね。それに、大会で勝てている人が一番強いプレイヤーかというとそうではないと思うんですよ。やっぱ今のルールだと、遊び尽くすことのメリットってあんまり出ないので。
――遊び尽くすことのメリット?
ときど:例えば梅原(大吾)さんは、“特定のキャラクターVS特定のキャラクター”という一つの組み合わせに絞って10先などの長期戦で戦うと、すさまじい戦績を誇ってるわけですよ。こういったルールでは既存の大会のルールと比較して、より“ゲームを深堀りする力”が問われるんです。自分も昔ゲームセンターでやってきた身なので、そういうゲームを遊び尽くして強さを発揮するスタイルに憧れてるんですよ。いまだに。
※梅原大吾:格闘ゲームというジャンルの黎明期から活躍し、数多の伝説を残してきたレジェンドプレイヤー。日本における最初のプロ格闘ゲーマーとしても知られる。
※10先(じゅっさき):「10セットを先取した方が勝ち」というルールで行われる試合のこと。梅原選手はEVO2013王者のXian選手に10-0で勝利、EVO2012王者のInfiltration選手に10-2で勝利するなど、特定の相手に絞った10先で驚異的な戦績を残している。
でも深堀りしすぎてしまうと……例えば「リュウだけで戦う大会」とかそのぐらいシンプルなら良いですけど、通常の大会では一つの組み合わせに絞って攻略を深める価値は問われない。もちろん、エンターテインメントですし見せ方もあるのでそういうルールにしなければいけないんですけど、もう少し深堀りすることに意味をもたせるルールも……でも、そのためにエンターテインメント性を犠牲にするのも難しいですよね。
僕は(現在主流となっている形式の)大会向けの性格で、一定の期間の中で深堀りしすぎずに満遍なくやり込む能力は長けているので、大会の成績は安定しているんです。
――では、ときどさんは「現状の大会ルールでは“本当に強い奴”が上にいけるシステムにはなっていない可能性がある」と感じているわけですか?
ときど:昔に比べれば、強いプレイヤーはかなりの精度で上がれるようにはなったと思います。でももちろん乖離はありますよ。まあ大会ですし、ある程度ランダム性もないと新しい人も入ってこれないですし、今の大会ルールはそれなりのバランスにはなってると思いますけど。
――そういえば、私もときどさんのプレイ映像を初めて見たのは2003年の闘劇で梅原さんを倒して優勝したときでしたけど……。
ときど:年に1回しかない大会で、あのルールで勝ったって「最強」なんて言えないでしょ!?(笑) 今は大会の数も多いですし、だいぶ良くなりましたよ(笑)。
※大会ルール:現在の大会は2セットから3セットを先取すれば勝利となるルールで、かつ敗者復活システムが設けられているのが主流。2003年に開催された国内最高峰の大会「闘劇」では、1セット先取で負けたら即終了という過酷なルールだった。
――そういえば、ときどさんは「ストリートファイターIV」から豪鬼を使い続けていて、今では豪鬼使いのシンボルとなっていますが、豪鬼を使い始めるきっかけになったのは梅原さんだったそうですね。
ときど:そうです。梅原さんが「このゲーム、サガットとか豪鬼が強いから……豪鬼で良いんじゃない?」って。“どうせお前なんか豪鬼で良いだろ”みたいな意味だったかもしれませんけど(笑)。当時からポテンシャルを感じていたキャラだったんですが、使い込んでみたら結果的に超強かったですね。
梅原は「この領域まで行くのに、どれだけ研鑽を積んだのか」
――日本の格闘ゲームを象徴する存在といえば、誰もが挙げるのは梅原大吾。ときどさんはそれに次ぐ存在になっているように感じます。ときどさんにとって梅原さんはどういう存在ですか?
ときど:……生霊ですかね。亡霊でもいいですけど。
――……いや、さすがに分からないので説明してもらってもいいですか(笑)?
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