「クーロンズゲート」スタッフによるもう1つの怪作「プラネットライカ」 犬顔になった人類は火星で何を見るのか:どうかしているゲームの世界
幼き日に味わったトラウマ体験。
ライターの文章書く彦(@waniwave)さんがピックアップした、珠玉の「どうかしているゲーム」を気まぐれに紹介していく不定期連載(連載一覧)。第3回は、伝説のカルトゲーム「クーロンズゲート」のスタッフによる、犬顔になった人類が火星をさまようSFサイコスリラー、「プラネットライカ」(1999年/エニックス)を紹介します。
幼き日のトラウマ的体験ゲーム
さかのぼること数カ月前、ねとらぼの方に「どうかしているゲームについて書いてみないか?」というお話を頂いたとき、僕の脳内に最初によぎったゲームがこの「プラネットライカ」でした。おしゃれなタイトル画面のデザイン、スマートな感じがするシンプルなタイトルがもたらす印象とは裏腹に、本作はかなりブッ飛んだ設定を持ったゲームです。それゆえ少年期にプレイした筆者にとって本作は、半ばトラウマ的な体験になっています。
最初にあらすじといいますか、設定を説明します。はるか昔、地球人は火星人との間に「顔の契約」を交わしました。顔のない火星人に顔をプレゼントすることによって友好関係を約束したのです。
その結果人類は犬の顔となり(何で!?)、程なくして(理由は不明ですが)火星人は滅亡してしまいます。その結果なのかどうなのかは分かりませんが火星にはよこしまなエネルギーである「イーブルマインド」が満ちるようになりました。僕が何を言ってるか分かりますか? 「じゃあ犬はどうなっちゃったんだ!?」という疑問もあるでしょうが、そんなことで一々引っ掛かってるとこの先進めませんよ!
主人公一行はそんな火星の「地球化計画」のために派遣された調査隊です。火星には「顔の化け物」が出るなどの物騒なうわさがあり、また、先遣隊も消息を絶ってしまっているため、それらの事象の調査をしなければなりません。調査といっても、地球化計画の進行を妨げないために「火星は平和である」という調査結果を上げなければならないという結論ありきの出来レースなのですが……。察しのいい読者の方ならお気付きかと思いますが、こういうのって大体ロクなことにはならないですよね。
主人公は調査隊の新人無線技師「ライカ」です。ライカはニックネームであり、本名はプレイヤーが入力することが出来ます……が、勝手に末尾に「ノフ」がつきます。例えば「タカ」と入力すれば「タカノフ」、「カクヒコ」と入力すれば「カクヒコノフ」というように、ちょっとロシアナイズされた本名になります。
「ライカ」という名前や「犬の顔の登場人物が宇宙にいる」というモチーフは宇宙犬ライカが着想元でしょうし、他にもロシアっぽい名前の登場人物(「セルゲイ」とか「ウラジミール」とかおなじみのやつです)がいっぱい出てきたりなど、全編にソ連の宇宙開発っぽいイメージがちりばめられてます。
めっちゃ余談ですがオタクなんで書いてもいいですか? 本作にはザ・フェイスという火星人による地球人の顔のモニュメントが登場しますが、これは「火星の人面岩」が元ネタであり、おそらく「火星人に顔がない」というストーリー上のアイデアはここから来ているものかと思います。子どものころは分からなかったですが、大人になってプレイしてみるとなんとなく論理的なつながりが見えてきて今回再プレイするのが非常に面白かったです。ただ単にどうかしているというわけではなかったんだ!
「悪」に触れることで人格が変わる
前述の通り火星にはイーブルマインドが満ちていますので、当然、接近するとヤバい幻覚を見ることになります。火星に着陸寸前の主人公一行は邪悪な力によって心の中のトラウマのようなものを引きずり出されることになり、みんなどんどんとおかしくなっていくことになります。火星には住民もいるのですがそいつらもみんなおかしな人たちなので、普通の人がほとんど登場しないというのも本作の大きな特徴になっています。みんな犬の顔ですしね。
もちろんそんな場所ですから、主人公であるライカもまともではいられません。ライカは火星の「悪」に触れることで人格変容していくことになります。
見栄っ張りで虚栄心にまみれた「ビジュアル系」の人格「ヨランダ」、人をあざけり自分を一番賢いと思う「サイコ系」の人格「スペーサー」、気に入らないことがあると全て力で解決しようとする「アニマル系」の人格「アーネスト」という、3つの人格をうまいこと使い分けることでストーリーを進めていくというのが「プラネットライカ」の基本的なゲームプレイです。「悪」は火星の表面にある霧のようなものに触れたり、他人と会話をしたりすることで貯めることができます。同じ質問何回もして申し訳ないんですけど、僕が何を言ってるか分かりますか?
諦めずにもうちょっとだけ説明させてください。例えばサイコっぽい人に話しかけまくるとライカの中にはサイコ系の悪が蓄積していきます。そうやって十分にサイコ系の悪を貯めたあと、鏡に触れることでライカはサイコ系人格であるスペーサーに変容することができるというわけです。そしてサイコ系でなければ見れないオブジェクトを調べることができるようになります。同じようにアニマル系ならその腕力を使って問題を解決することができます。己の中に存在する悪をうまくコントロールして使いこなすことでストーリーを進めていくわけです。悪をライカの中に蓄積しすぎると「人格暴走」が起きてゲームオーバーになってしまいます。
ちょっと真面目なことを言うと、「世の中にあふれる悪いものに触れていくことでどんどん人格に支障をきたしてしまう」みたいなのって、現代のTwitterなどでもよく見掛ける光景ですから、寓話として普遍的なものがあるなあなどと再プレイしながら感じたりもしました。
みんなおかしかった1999年(特にエニックス)
ライカは火星での調査を通して、自分の過去のトラウマや、調査隊のメンバーたちのトラウマに直面していくことになります。本作のジャンルは今風にいえば「SFサイコスリラーRPG」という感じでしょうか。RPGらしく一応戦闘やアイテムなどの要素もありますが、テキストを読む場面が多いのでアドベンチャー要素も色濃いです。
制作は初代プレイステーションを代表するカルト作「クーロンズゲート」を手掛けたメンバーによって結成された企業である「是空」で、脚本・監督も同じく木村央志氏です。また偶然にも今まで紹介してきた「せがれいじり」「UFO」と同じ1999年発売で、「せがれいじり」とはパブリッシャーまで同じです。たぶん1999年には世紀末の空気感で人間みんなおかしくなってたんだと思います。特にエニックスの人が。
最後に、またちょっとした余談ですが「クーロンズゲート」っぽい世界観を持つゲームセンター、「ウェアハウス川崎店」が11月17日に閉店してしまいます(関連記事)。全国に7000万人いるといわれているどうかしてるゲームファンのみなさまには必ず刺さる場所だと思いますので、閉店前になんとしてでも行ってきてみてください!
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