「アベンジャーズ/エンドゲーム」より長い2019年の傑作映画4選 “見るマラソン”を制してこその感動があった!
「『アベンジャーズ/エンドゲーム』の3時間2分は短い! と思わせてくれる傑作映画たち。
突然だが、“上映時間の長い映画”の鑑賞に躊躇してしまうことはないだろうか? 忙しい現代社会、娯楽も多様化し、誰しも時間に追われる中、わざわざ劇場へ足を運ぶとなれば、長尺映画は選びにくくなっているのかもしれない。
2019年のメジャー公開作での長尺映画には「アベンジャーズ/エンドゲーム」(3時間2分)、上映中の「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」(2時間49分)、12月20日公開の「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」(2時間35分予定)などがある。それぞれが人気シリーズの最終作であり、きちんと“終わらせる”ために上映時間が伸びるのは致し方ないが、それでも見る前に「冗長になってしまうのは避けて欲しい」「主に膀胱が心配……」と心配になってしまう方もいるだろう(筆者含む)。
しかし、やはり世の中の長尺映画には長いなりの理由が十二分にあり、その長い時間を(“見る”というよりも)“体感”してこその感動があるのも事実だ。ここでは、2019年に公開された映画から、相対的に「『アベンジャーズ/エンドゲーム』の3時間2分は短い!」と思えるかもしれない、知る人ぞ知る4本の傑作長尺映画を紹介しよう。
1:「象は静かに座っている」
まず紹介したいのが「象は静かに座っている」だ。上映時間は3時間54分。休憩(インターミッション)なしでの上映のため、事前のトイレはもはや必須事項だ。
内容を端的に記せば、鬱屈した人生の真っ只中にいる4人の男女の1日を描くというドラマだ。友人をかばって不良を突き落としてしまった少年、家に居場所がなく教師と関係を持つ少女、親友を自殺に追い込んでしまった青年、娘夫婦に邪険にされ老人ホーム行きを拒もうとしている初老の男と……それぞれがジョーカーになってもおかしくないほどに人生がどん詰まり状態になっている。
そんな4人は、2300キロも離れた遠くにいる、一日中ただ座り続けているという奇妙な象のうわさを耳にする。それは彼らの人生とは何の関係もないはず……そう、“はず”なのだ。その座っている象のうわさが、彼らにとって希望になるのか、はたまた関係のないまま物語が終焉するのか……そこも見どころとなっている。
長い上映時間は、“長回し”に由来するものがほとんどだ。カットを切り替えることなく、人物の歩む道のりや表情をじっくりと映すショットそれぞれが、地方都市の閉塞感と、彼ら彼女らの“最悪の1日”を描くために必要不可欠だったのだ。
2:「サタンタンゴ」
「サタンタンゴ」の上映時間はなんと7時間18分! 途中休憩も2回用意されており、休憩時に軽食を口にしなければ確実にお腹が空いてしまうという、どうしたって1日仕事になる尋常じゃない上映時間だ。
物語を端的に記すと「経済的に行き詰まって疑心暗鬼が蔓延している村に救世主がやってくる」というもの。後ろ向きで暗い物語ではあるのだが、なぜか観終わった後にはすっきりとした心持ちになった。おそらく、内容が退廃的すぎて逆説的に現実で前向きに生きようと思えたこと、何よりも8時間近い時間を乗り切ったという達成感があったことが、その理由なのだろう。
筆者は休憩時に「全然いけるわね!」「余裕よ余裕」といった会話を聞くことができ、“みんなでマラソンしている感覚”も味わうことができた。
・関連記事:上映時間7時間18分の映画「サタンタンゴ」を見ると人間は「サタンタンゴを見た状態」になれるという話
3:「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」
「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」の上映時間は3時間26分で、途中休憩が1回用意されている。実在の図書館の舞台裏を描くというストーリー性のないドキュメンタリー作品なのだが、「えっ? 図書館ってそんなことまでするの!?」という驚きの連続だ。
図書館は地域貢献や教育にがっつりと関わっており、学芸員たちは予算の捻出のために会議を重ねる。奴隷や宗教など人類史に根ざしたアカデミックな講演や会議も展開され、その全てが興味深い。作中では「図書館はただの本の置き場ではない」という主張もあり、まさにその通りだった。
蔵書にはさまざまな歴史が集積しており、図書館は“文化”や“人”と切り離せない存在である。そんな図書館の意義と可能性を知る意味でも、見ていただきたい一作だ。
4:「読まれなかった小説」
最後に紹介するのは、11月29日に公開となる「読まれなかった小説」。上映時間は3時間9分。
主人公は作家を夢見て小説を出版しようするが誰にも相手にされず、現実的な就職先である教職も倍率が高く……と、夢も、現実も進退窮まる状況に追い込まれてしまった青年。そんな彼はイライラの原因でもある父親、高校時代の同級生の女性、地元で著名な小説家などと、ひたすら問答を繰り返していく。
一見すると文芸的でとっつきづらい印象を受けるかもしれないが、実際は夢と現実の間で苦悩する青年と、彼から疎ましく思われている父親との関係をリアルに描いた、普遍的なドラマだ。展開は淡々としており物語の起伏は少ないが、哲学的な問いかけは全てが既知に富み濃厚であるため、興味が尽きない。その末に導き出されるラストシーンには、言葉にならないほどの感動があった。
「アベンジャーズ/エンドゲーム」は短い?
この他の2019年公開の長尺映画には、リバイバル上映された「東京裁判」(4時間37分)や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」(2時間45分)、11月15日公開の本編尺が10分間拡大した「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド エクステンデッド・カット」(2時間51分)、11月15日一部劇場公開/11月27日配信となるNetflix映画「アイリッシュマン」(3時間29分)、約30分の新規場面が追加された11月20日公開の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(約2時間40分予定)もある。
さらには、日本未公開であるが第72回カンヌ国際映画祭で途中退席者が続出したという「Mektoub, My Love : Intermezzo」は、3時間32分の上映時間のうち3時間は女性たちが振り続ける尻がクローズアップで映るという(色んな意味で)すさまじい内容らしい。
どうだろうか、「『アベンジャーズ/エンドゲーム』の3時間2分は短い!」と思えてこないだろうか(思えてほしい)。本当にそう洗脳……じゃなかった、そう認識できるほどに、本稿で挙げた4作は劇場の椅子にどっしりと座り、長い時間をかけて見届けてこその感動がある、掛け値なしで素晴らしい映画だ。いずれも上映期間および劇場が限られているため、公式サイトから劇場情報を確認し、機会があればお近くの映画館に駆け込んでほしい。
(ヒナタカ)
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