「あまりにもひどい」 聖マリアンナ医科大の入試不正を“受験の現場”はどう見るか(1/2 ページ)

「女性差別はやむをえない」という声についても聞きました。

» 2020年01月27日 11時00分 公開
[青柳美帆子ねとらぼ]

 1月17日に聖マリアンナ医科大学(以下、聖マリ)が公表した第三者委員会の調査報告書は、大きな衝撃を与えました。2018年から続々と明らかになった医学部受験における女性差別。聖マリは「差別の認識はない」としていましたが、調査報告書には驚きの実態が書かれていました。

 第三者委員会の調査の結果、志願票・調査書に性別・現浪区分で配点がつけられており、2017年度入試からその差が大きくなっていることが判明。現役男性と現役女性では60〜80点差、現役と1浪では20点差――とほぼ一律で差がつけられていることが明らかになりました。

聖マリの志願票・調査書配点

2015年度:男女差18点 浪人減点

2016年度:男女差18点 浪人減点

2017年度:男女差60点 浪人減点

2018年度:男女差80点 ※多浪の女子にはマイナス点も


 聖マリの受験の実態をどのように考えるか。医学部専門予備校「ACE Academy」代表の高梨裕介さんに話を聞きました。

聖マリ 「ACE Academy」代表の高梨裕介さんに聖マリ問題について聞きました

「あまりにもひどい」

――高梨さんは医師免許を取得し、現在は医学部専門予備校で医学部を目指す生徒たちを教えています。聖マリの報告書をどう読みましたか?

 聖マリの報告書で明らかになったのは、「調査書・志願票」での加点です。これは出願時に受験生が提出するものですが、そもそもこれに配点があるとは明らかにされていませんでした。聖マリの入試の募集要項では、一次試験(英語100点・数学100点・理科200点)と二次試験(面接100点・小論文100点)で合計600点満点と記載されており、受験生から見れば「それ以外の配点はない」と思うのが普通。それが裏では点がつけられており、大きな調整がされていたわけです。それ単体でもあまりにもひどいと感じます。

 そしてこの調査書・志願票での点数調整操作が、2017年度から急激に大きくなっています。女子や一浪・多浪がマイナス調整され、現役男子と現役女子では80点差、現役男子と一浪女子では100点以上の差がついています。聖マリの数学の学科試験が100点満点ですから、調査書と志願票の加点でひっくり返ってしまうくらいの調整点……つまり、学科試験をどれだけ頑張っても挽回できないような点差なわけです。聖マリは報告書で「差別の認識はない」としていますが、明白な差別でしょう

聖マリ 志願票・調査書に得点が付けられていた(以下、第三者委員会の報告書より)
聖マリ

――もともと、聖マリは女子受験生が入りにくいイメージがあったのでしょうか?

 いえ、そこまで女子が入りにくいイメージはなかったですね。多少はあったかもしれませんが、推薦入学では女子の合格者のほうが多いこともあって、トータルで見ると他大学と比べても女子がいるという印象がありました。それよりも2019年に問題が発覚した昭和大学、順天堂大学、日本大学のほうが「男子が多い」と見られていたと思います。

 ただ聖マリの場合、報告書を見ると、ここ2年で得点調整が急激に拡大しています。2016年度までは18点差。この得点調整ももちろん差別ではありますが、受験生側や予備校側からすると違和感を覚えにくい、気づきにくい数字です。急激に変化した2017年度、2018年度の入試の時に「あれ? ちょっとおかしいな……」と感じたとしても、確証にはいたらない。報告書を見て“嫌な答え合わせ”をした印象です。それにしても、普通そんなことしないと思っていたら、想像していた以上にひどい調整でした。

聖マリ 2015年度。男女で18点差
聖マリ 2016年度。男女で18点差
聖マリ 2017年度から急激に点数差が大きくなり、男女で60点差に
聖マリ 2018年度。さらに点数差が拡大し、80点の差が付けられていた

――高梨さんが教えた生徒の中に、今回の調整の対象になったと思われる人はいますか?

 はい。2018年度入試で聖マリの補欠合格者になり、結果入学できず、ACE Academyに入った生徒がいます。彼女は女性で1浪でしたから、報告書によれば100点の差が付けられている。どう考えても調整点がなければ入学していました。彼女以外にも5人の生徒が不合格になっていて。中には女性や多浪生もいて、調整点の“被害”を受けていると思います。

――聖マリは受験料を返還する(返還方法は後日発表)と告知しています。この対応には誠実さを感じますか?

 本当に不誠実です。聖マリの入試は一次と二次で2日あるので、日程的に他の医学部を受験できなくなることがある。受験料も6万円と高額です。聖マリを受けなければ他の医学部を受けるチャンスがありました。交通費や宿泊費を含めれば、金銭的被害だけで見ても大きなものになります。

 しかも聖マリは、大学側から該当者に連絡するのではなく、申し出た受験生に返金すると言っています。今回明らかにした報告書も、文科省に再三調査を求められて、ようやく立てた第三者委員会。会見する気もないようですし、まだ差別を認めてはいません。あまりにもひどくてあきれています。

聖マリ 「申し出のあった方に対して」返還するとしている(聖マリの発表より/赤枠は編集部の加工)
聖マリ 聖マリは「差別の認識はない」と一貫して主張するが、第三者委員会は「一律の差別的取扱いが認められる」としている

――今回の発表は、受験生にどのような影響があるでしょうか。

 報告書を公開したのは1月17日、センター試験の前日でした。報道を見て不安に思ったり、衝撃を受けたりした受験生はいるでしょうが、まずは目の前の試験に集中しよう、と気持ちを切り替えていると思います。ACE Academyの生徒にはそのように伝えています。

 不誠実さは報告書の公開日にも感じますね。1月22日が願書の締め切り日ですが、公開された1月17日は大部分の受験生の出願が終わっているタイミングです。また、聖マリ以外を受けようと思っても、出願を締め切っている医大もあります。2019年内に公開すれば、受験生は「他の大学にしよう」といった判断ができたはずです。

 実際、2018年に問題が明らかになった東京医大では、2019年度の出願が激減しました。ただ「膿を出したのでは」と考えられたのか、今年の受験生の数は復活しています。でも聖マリはどうでしょうね……認めていないわけですから、今年は世間の目を気にして得点調整をしなくても、ほとぼりが冷めたらまたやりかねないように思います。

――ネット上の声についても聞かせてください。SNSでは女性が一律減点(男性が一律加点)ということから、「聖マリの男性医師にかかりたくない」といった声も上がっていました。

 僕も見ましたが、それは明確な誤解です。聖マリについて言うと、一次試験後の加点ですから、みな学科試験は突破しています。また、ACE Academyでも2年前に聖マリに入学した男子生徒がいますが、ほかの医学部に複数合格した上で聖マリに入学しています。

 確かに結果を見れば“ゲタを履かされている”わけですが、男性受験者もフェアに受験に挑んでいたはずなのに、知らないうちにゲタを履かされているわけで、聖マリの男性医師や聖マリの男子生徒を非難するのはやめてあげてほしいと感じます。非があるのは調整した大学であって、調整された生徒ではない。批判するべき相手は集中させてほしいです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2408/17/news057.jpg 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  2. /nl/articles/2408/14/news020.jpg 愛犬を実家の父母に預けてペットカメラを見てみたら…… 飼い主も笑っちゃう光景に「楽しそうでよろし」「かわいすぎるんよ」
  3. /nl/articles/2408/17/news033.jpg 「昔のミスド食べたい」「めっちゃ好きだった」 ミスド、40年以上前の“ レアなドーナツ”に根強い人気 「復活待ってる」の声も
  4. /nl/articles/2408/17/news005.jpg 「ここ日本かよ!!」 長野の観光地の“息をのむほどの絶景”に思わず二度見 「こんなところがあったなんて」
  5. /nl/articles/2408/15/news102.jpg ママが飲み会から朝帰りすると、柴犬が…… 780万再生の出迎えに「娘の帰りが遅くて玄関で仁王立ちしているお父さんバリに怒ってらっしゃる」
  6. /nl/articles/2408/18/news012.jpg 「これは思わず……」 田舎のホビーオフに1万5400円で売っていた“まさかの商品”に仰天 「何でも売ってる」
  7. /nl/articles/2408/17/news010.jpg 救いはないのですか? とんでもない場所で育ってしまったスイカに「助けてあげたい」「むっちむち」
  8. /nl/articles/2408/17/news067.jpg 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  9. /nl/articles/2408/18/news019.jpg 鳥「もうダメです……」 パパとの再会がうれしすぎて限界を迎えてしまったオウムに「こっちまで泣きそう」「これはもう娘ですね」
  10. /nl/articles/2408/17/news002.jpg 【今日の計算】「8+2×2+8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. 日本地図で「これまで“気温37度以上”を観測した都道府県」を赤く塗ったら…… 唯一の“意外な空白県”に「マジかよ」「転勤したい」
  3. 「鬼すぎない?」 大正製薬の広告が“性差別”と物議…… 男女の“非対称性”に「昭和かな?」「時代にあってない」
  4. 17歳がバイト代を注ぎ込み、購入したカメラで鳥を撮影したら…… 美しい1枚に写り込んだまさかの光景に「ヤバい」
  5. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  6. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  7. ヤマト運輸のLINEに「ありがとニャン」と返信したら…… “意外な機能”に「知らなかった」と驚き
  8. イヌワシが捕えて飛ぶのはまさかの…… 自然の厳しさと営みに感動する姿が660万件表示「こんな鮮明に見えるのは初めて」
  9. “性被害”描くも監督発言が物議の映画、公式サイトから“削除された一文”に「なぜ」「あまりにも……」
  10. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない