“菓子パンだけ”の食事にもダメ出ししないでアドバイス 子育てフリーペーパーの優しい記事が生まれた背景
「悪者を作らないすてきな記事」と称賛された記事には、エネルギー不足から母子を救いたいという切なる願いが込められていました。
菓子パンだけの朝食でも「甘いものはとにかくエネルギーになる」と肯定して改善をアドバイス――妊産婦向けフリーペーパーの朝食に関する記事がネットで注目を集めました。栄養バランスが偏った食事でも否定しないスタイルに、妊産婦ではないと思われるアカウントからも、数多くの称賛コメントが寄せられていました。
話題になったのはフリーペーパー「babyco(ベビコ)」に掲載された、「ママと赤ちゃんの食事と栄養2『朝ごはん』こそ、エネルギー不足改善の決め手!」という記事。「菓子パン(だけ)」や「フライドチキンとミニサラダ(だけ)」など、妊娠中でなくても栄養バランスがいいとは言えないようなメニュー例に対して、「OKポイント」と「改善点」を挙げています。菓子パンだけというシンプルの極みのような朝食に対しても「甘いものはとにかくエネルギーになるので、朝から力を出したいときにはいいと思います」という「OKポイント」が!
記事では「OKポイント」を挙げてから「飲み物や汁物を合わせるといい」「肉を減らしてご飯を組みあわせるのはどうでしょう」と実行しやすそうなアドバイスを添えています。Twitterでは「いったんほめてくれるの優しい」「悪者を作らないすてきな記事」と読む人を責めない姿勢や、「食べる内容を否定せずにプラスポイントを提案」「すごく現実的」などバランスの取れた食事が難しい状況でも参考にできる書き方を評価する声が上がっています。
babycoは育児に関する知識や話題を掲載しているフリーペーパー。年4回の発行で、全国約1700カ所の産婦人科関連施設(クリニック、総合病院、助産院、母親学級など)、AEONのベビー売り場、AEON直営の「キッズリパブリック」約140店舗に置かれています。注目を集めていた記事はbabyco vol.49に掲載。一連の特集「ママと赤ちゃんの力をつける食事と栄養」の1つです。
この「優しい」栄養指導スタイルはどのように誕生したのでしょうか。記事の担当者に聞いてみました。
背景にはエネルギー・栄養不足問題
babycoで掲載されている食事や栄養に関する記事やレシピは、助産院で約20年間、産前産後の母親の食事を作っている管理栄養士の岡本正子先生が監修しています。岡本先生は、20〜30代の妊娠中の母親のエネルギー不足や栄養不足が多く見られることを問題視していたそうです。
原因として挙げられているのが、仕事が忙しく朝ごはんを抜きがちであることや、外食や中食(コンビニごはんやおそうざい)がメインで食品数が少なく、栄養不足を引き起こしていることなど。母親がエネルギー・栄養不足だと、赤ちゃんに十分な栄養が行き届かず低栄養・低体重になる危険性があり、また、出産に時間がかかって母子ともに命の危険に直面する可能性もあるといいます。
栄養満点な食事が理想。でも……
一汁三菜を心がけ、野菜、果物、肉、魚をバランスよく食べるほうが良いことは母親自身も分かっているものの、「便秘気味でおなかが空かず、飲みものだけになっちゃった」「すごくおなかが空いて、朝から高カロリーのものを食べたかった」「どうしても菓子パンしかなかった」など、体調や経済的な事情でできないこともあるのだそうです。
「こうした現状を理解した上で、岡本先生は『朝ごはんを食べようという意思をもっているだけでも、すごくほめてあげたい』と。取材をしていて、自分が読者の立場だったらこの一言にとても救われる気がしたのです」(担当者)
そこで特集のコンセプトを、いきなり栄養バランスの取れた理想的な料理が作れるようになることではなく、今食べている朝食に栄養をプラスする知識を伝え、食や栄養に対する意識を高めてもらうというものに設定したといいます。
「食事や栄養の話となると『妊娠中の理想的な食事スタイル』や『必要な栄養素』の話になりがちですが、若い母親の現状から問題提起し、babyco読者に考えてもらうきっかけ作りが必要だと考えました」(担当者)
“実例”を基にした記事作り
記事では、妊娠中の母親のエネルギー不足を問題視しつつ、最近の働き方や子育てのスタイルをふまえて食事の改善策を考えたと担当者は話します。掲載されている6つのメニュー例は、岡本先生が母親たちから栄養相談を受けたときに聞いた実例を参考にしています。
「お料理が好きなママもいれば、大変だと感じるママもいる。岡本先生とともに『一汁三菜は難しそうだけど、主食と汁ものならできるかも』『汁ものを作る時間がないときは、添加物や塩分が多めで具材の少ないカップスープでも、あるほうがすごくいい』など、いろいろな立場で『これなら私でもできそう』という目線で意見を出し合いました」(担当者)
その上で、最初から「これはだめ」と否定すると母親たちに信頼してもらえないので、まず、良いところを挙げてから改善点を伝えるのを大切にしたとのことです。
ネットでの反響を受けて
担当者は反響の大きさに驚きつつ、今まで地道にコツコツ情報を発信し、今年で14年目を迎えたbabycoが、子育て中以外の大勢の人に知ってもらえたことがうれしいと語りました。
「今回の特集をきっかけに食事や栄養について興味を持って、ごはん作りが楽しくなったらうれしいです。『親育(おやいく) 子育(こいく) ゆるまじめ』をコンセプトに、ママたちのリアルな声をこれからも大切にしていきたいです」(担当者)
担当者は自身の経験として、子どものころ、食事をしながら「ほうれん草は体にいいの?」「豚肉は体にいいの?」と気になったことを母親に聞くと快く答えてもらえたり、「おいしい!」と言うと、「食べるって幸せだね」「おいしいってうれしいね」と声をかけてもらったりしていたと話します。そうした経験から食べているものに興味がわき、食べることがどんどん好きになっていったといいます。
「今、自分が食べているものがどう体にいいのか。ママがその知識をもっていると、子どもへの食育にも深くつながると思います。babycoを通して『知りたい欲』がかき立てられて、食べものへの愛を深めながら、お子さまにも伝えたくなるような新しい食の知識を届けていきたいです」(担当者)
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