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» 2020年05月20日 19時26分 公開

5月20日は「ローマ字の日」。日本語とローマ字の関係は意外と密接です

[日本気象協会 tenki.jp(http://www.tenki.jp/)]
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 身の回りに横文字やカタカナ言葉があふれる現代は、特に「ローマ字」を意識することなく生活しています。またの呼び名は「アルファベット」。A、B、C、と先頭の文字の名前をとったこちらの方がよく使うでしょうか。現在欧米の大多数の国をはじめとして、アジアではインドネシア、トルコ、ベトナムでも国語表記に採用されており、ヨーロッパ文化の元となった言語、ラテン語の表記に使われていた文字です。文字の歴史は人類の「知」の歴史でもあるでしょう。5月20日は「ローマ字」の日。身近にあって実はよく知らないローマ字についてひもといてみます。

ローマ字だから発祥はローマ? いえいえ歴史はもっと古く紀元前十数世紀まで遡ります

フェニキア人が活躍した地中海

 「フェニキア」という国をご存じですか? 地中海の東、現在のレバノンのあたりです。ここに紀元前3000年頃にペルシャ湾から移動してきた人々のことです。地図を見てみるとチグリス、ユーフラテス川に沿って地中海までやって来たようで、メソポタミア文明との繋がりを想像させます。フェニキア人は地中海を中心とした海上貿易で活躍し、紀元前14〜13世紀には当時の全世界に活動範囲を広げていました。各地に貿易拠点を作っていきましたが、最も重要な拠点となったのはカルタゴです。現在のチュニジアの首都チュニスの近くで目の前のシチリア島を経由すればイタリア半島、ローマへの最も近道となります。

 交易品としてはフェニキア人の本拠地レバノンに生育するレバノン杉。今でもレバノンの国旗に描かれていますが香の良さと耐久性で神殿の内装にも使われました。他にも染料や織物、確かな技術の職人が作る貴金属やガラス細工など、当時の地中海世界のお金持ちにはどれも欲しいものばかり。このような各地のネットワークを駆使した交易は、民族や言語の違いを越えて意思の疎通を図るために文字を必要としたのです。

 ローマ字は紀元前15〜14世紀に、このような地中海世界のグローバリゼーションの中から生まれました。

 フェニキアで生まれた文字はギリシアへ伝わりギリシア文字となり、ローマ人はギリシア文字をまねて自国のラテン語を表記する文字、すなわちローマ字を作ったのです。その後ローマはヨーロッパ全体を支配し、キリスト教を広めました。この時ヘブライ文字のキリスト教典をラテン語化して布教したので、キリスト教とともにローマ字はヨーロッパ全体に伝わっていきました。

 人と人とが出会うとき、ぶつかり合い、助け合い、いい意味でも悪い意味でもさまざまな交流を経て知恵を出し合って折り合いをつけていきます。正にローマ文字はその代表といえます。

参考:玉木俊明著『世界史を「移民」で読み解く』NHK出版新書

漢字が消える!? 日本語はローマ字で! そう真剣に討議されたことがありました

 それは明治維新、急速に西欧の文化を取り入れているときに始まりました。理由は漢字の読み書きの学習はアルファベットを学ぶより時間がかかり過ぎ、知識を取り入れる時間が少なくなるということでした。第二次世界大戦後はアメリカ教育使節団の勧告に従い「ローマ字教育の指針」による教育が開始されました。

 しかし、私たちは漢字と平仮名、カタカナを使って日本語を読み書きしています。「ローマ字教育」はどうも成功しなかったようです。小学生で初めてローマ字を習ったときは珍しさにワクワクして、一生懸命ローマ字で作文してみました。ところが読み返すのが一苦労です。ローマ字の音を漢字や平仮名に頭の中で置き換えないと文章の意味が理解できないのです。何という矛盾でしょう! やがて英語の授業が始まりローマ字は物珍しいものではなくなり、日本語とは切り離されていきました。誰もがローマ字にこのような経験を持っていらっしゃるのではないでしょうか。

 ところが、このローマ字教育が大切だったことを知るのが、コンピュータでキーボードを使うようになったときです。ローマ字入力の仮名漢字変換は、アルファベットのキーボードで日本語を入力するために多くの学者の方々が工夫を重ねた結果でした。ローマ字教育がきちんとされていることが前提となっているわけですから。ローマ字なんて日常生活に関係ないなぁ、と思いがちですが実はもっとも身近なところで誰もがお世話になっていたのです。

参考:『日本百科大事典』小学館

ローマ字で日記を書く! 読まれたくない? いいえ、文学への挑戦なのです

 ローマ字で書かれた本として石川啄木の『ROMAZI NIKKI』(ローマ字日記)が知られています。啄木といえば

「ふるさとの 訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく」

「たはむれに 母を背負ひてそのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず」

 歌集『一握の砂』のこんな歌を思い出します。肺を患って若くして貧乏のうちに亡くなった歌人、というイメージがありましたが、この日記は明治時代を生きた青年が日々の生活をありのままに吐露している点で、生身の人間の熱気を感じます。

 なぜローマ字で書いたのかについては、万が一奥さんに読まれてもわからないようにともいわれていますが、明治政府が考えていたローマ字の普及運動に真剣に取り組みたいという思いも書かれています。

 岩波文庫『ROMAZI NIKKI ローマ字日記』の編訳をされた桑原武夫氏は解説で「ローマ字で書くことは文学の実験である」と分析しています。さらに「ローマ字表記をすることで自身の抑圧から逃れることができた、精密な描写と深い心理分析は文学的な筆致となり短篇小説といってもよく、日本近代文学の最高傑作の一つに数えこまねばならない」とまで賞賛を贈っています。

 ローマ字という新しい表現手段で自身の文学を築こうとした啄木の心意気には、新しい日本を背負って行こうという明治のエネルギーが溢れていたのだと気づかされました。

 長い歴史を生きてきたローマ字は、これからも多くの人々の大切な言葉として使われていくのです。

参考:桑原武夫編訳『ISIKAWA TAKUBOKU ROMAZI NIKKI(啄木・ローマ字日記)』岩波文庫

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