世紀の駄作か、新たなマスターピースか―― 賛否両論の問題作「The Last of Us Part II」をそれでも評価したい理由(2/2 ページ)

» 2020年07月12日 13時30分 公開
[イッコウねとらぼ]
前のページへ 1|2       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

虐殺の代償と凄惨すぎる映像

 「殺したいほど人を憎んだことがあるか」という問いに対し、「YES」と答える人間は、きっとそう多くないのだろう。だが、誰かに大事な人を殺されたり、平穏な生活を奪われたりしたら、しかも荒廃した世界であるがゆえに社会的な制裁を一切与えられないとしたら、その誰かを自分の手で殺したいと思うのではないか。「The Last of Us Part II」はそういう物語だ。


画像 以下、画像はThe Last of Us Part II公式サイトより

 前作「The Last of Us」は、パンデミックを起こした寄生菌に対する免疫を持った少女・エリーと、20年前に娘を亡くしたジョエルが旅をする物語だ。おぞましい感染者がのさばるホラーゲームとしての側面もあるが、メインの魅力は明らかに2人のヒューマンドラマにある。当初はぶつかり合っていた2人は、さまざまな窮地を乗り越える過程でお互いを信頼するようになっていき、最終的にジョエルはエリ―の死によって得られる寄生菌のワクチンを諦め、エリーと共に生きていくことを決断する。ワクチンを作ろうとしていた医師たちを虐殺しながら


画像

 2人の旅が続くことを期待したファンは多かったはずだが、「Part II」では物語の冒頭でジョエルが殺される。前作で鬼のような強さを見せつけていたジョエルは、複数人に囲まれ、至近距離から膝をショットガンで打たれ、ゴルフクラブで顔面をメッタ打ちにされる。

 このとき、画面にはNaughty Dogならではの完成度の高いグラフィックで、膝がえぐりとられ、殴られてゆがんだ顔となった血まみれのジョエルが映る。エリーはジョエルが拷問される場にたどり着くが、敵に押さえつけられてしまう。エリ―は無残な姿となったジョエルを見て「殺さないで」と懇願するが、聞き入れられることはなく、ゴルフクラブで頭部を潰されたジョエルはそこで絶命する。

 目を覆いたくなるような映像の臨場感も見事だが、特に胸を打ったのはエリー役を演じた潘めぐみさんの演技だった。ゴルフクラブが振り下ろされた瞬間の怒りと悲しみを込めた叫びはあまりにも恐ろしく、痛ましく、悲しい。凄惨なシーンには耐性があると思っていた筆者でも、できれば二度と見たくないシーンだ。


画像

 多くの「Part II」を楽しみにしていたプレイヤーにとって、ジョエルの死は予想外だったに違いない。なぜなら、「Part II」でもジョエルとエリーの旅が続くかのような映像が発売前に発表されていたからだ。凄惨な展開はもちろんだが、この狡猾にミスリードを狙った映像を見ていたからこそ、ジョエルの死は受け入れがたく、衝撃的なものになったといえる。なお、この“フェイク”に関しては批判的な意見もあるが、その意外性を評価しているプレイヤーもいる。

 だが、前作を感情移入しながらプレイし、エリーとジョエルの幸福を願っていた人ほど、ジョエルの死は受け入れがたいものだっただろう。

アビーを操作させることで伝えたかったものと、自傷行為的な構造

 プレイヤーが操作するのは、前作から登場するエリーと、ジョエルを殺した張本人であるアビーの2人。アビーは前作でジョエルが殺した医師の娘であり、ジョエルへの復讐を強く望んでいた。


画像

 ジョエルの死をきっかけにアビーとエリーは敵対することになるが、復讐の原動力となる背景はほぼ同じと言っていい。2人とも父性を失い、敵を強く憎んでいて、復讐のためなら手段を選ばない残酷さも持っている。プレイヤーは敵対している両者の目線からプレイすることになるが、これは憎悪の対象をプレイヤーの分身だったエリーやアビーに向けなければならなくなることを意味する。斬新ではあるが、なんとも自傷行為的な構造でもある

 正直に言えば、筆者もアビーを好きにはなれなかった。ジョエルとエリーに愛着を持ったプレイヤーにとって、アビーは急に現れた敵キャラにすぎないのだから、それを急に操作させられたところで感情移入など簡単にはできない。中盤以降長らく続くアビーのパートは、退屈でこそなかったがどこか憎しみをもって操作していた

 だがアビーの残虐行為は、ジョエルとエリーが散々繰り返してきたことでもある(アビーの方が慈悲のある選択をしているようにすら思う)。アビーの視点は、エリーとジョエルを愛するプレイヤーたちに対して「エリーたちがやってきたことはこういうことだ」「エリ―が死んでワクチンを作っていれば、こんなことにはならなかった」という胸糞が悪すぎる現実を示唆してくる。

万人受けを狙わなかったからこそ

 グラフィック・音楽・操作性などが圧倒的に優れていることはもちろんだが、ファンから嫌われる可能性を覚悟して今回のストーリーを採用したこともあえて評価したい。

 繰り返しになるが、否定的な意見が目立ちがちな「Part II」だが、今作のストーリーを高く評価する人は非常に多く「『The Last of Us』と匹敵するほどの傑作」との評価も少なくない。だが、これがもし万人受けを狙った無難なストーリーであれば、否定的意見こそ減るだろうが”極端に高い評価”を得ることも難しかったかもしれない。

 前作でジョエルとエリ―は希望に向けて行動していたが、今作は余りにも暗く、残酷で、目的を達成しても救いはない。エリ―とアビーは、暴力がまた別の暴力を生むこと理解した上で、平穏な生活を謳歌する権利も捨て去り、自分も傷つくことを理解した上で復讐に向かう。胸糞は悪いし、物語は1本道だからプレイヤーの選択でハッピーエンドにさせてあげることもできない。だが、だからこそ生まれる面白さもあった


画像

 「Part II」において“評価されている点”と“批判されている点”は表裏一体だ。ジョエルの死も、エリーの怒りも、アビーが突きつける胸糞悪い現実も全てつらい。エリ―にもアビーにもお互いを憎む心があるが、同時に慈悲もある。2人は相手の仲間の命を奪い、また奪われ、復讐を誓いながら、さらなる復讐を恐れている。

 2人の行動は矛盾しているようにも見えるし、この物語に根っからの善人など1人もいない。こういった暗いストーリーは「Part II」が批判される要因になっているが、同時にその暗さこそが多くの人の感情を揺さぶり、「Part II」を絶賛する原動力になったのだ。だからこそ、この物語は賛否両論となることから逃れられなかったのだろう。

 Naughty Dogは、偉大なる1作目に続編を作るというチャレンジをして、結果的に賛否を呼んだ。筆者は本作に対して“賛”の立場だが、もし「Part III」を作るのなら、「Part II」を上回るような挑戦をしてほしいという気持ちもあるし、エリ―の物語はここで終わってほしいという気持ちもある。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/29/news009.jpg 高校生のときに出会った“同級生カップル”→「親に頼らん!」と必死に貯金して…… 19年後、現在の姿に反響
  2. /nl/articles/2501/31/news120.jpg 大野智さん巡る悪質“逮捕デマ”巡りSTARTO社が発信者情報開示請求 「株式会社嵐」代表は「一呼吸おいてよく考えて」と心境吐露 
  3. /nl/articles/2501/31/news085.jpg “自分を醜い”と感じてきた49歳女性が…… “別人級の大変身”に感動 「衝撃的だった」「信じられない」
  4. /nl/articles/2501/30/news026.jpg 普通の折り紙1枚を、パタパタ折っていくと…… プレゼントにぴったりな美しいアイテム完成に「すげぇつくりたい」「かわいい」
  5. /nl/articles/2501/31/news185.jpg 大谷翔平、“消防士たちとの5枚のショット”に反響 「どの消防士より屈強」「これは期待の新人」
  6. /nl/articles/2501/31/news014.jpg 手芸で余った大量のハギレ → あまさず活用する“驚きの方法”に反響 「ナイスアイデア」「考えたこともなかった」
  7. /nl/articles/2501/31/news050.jpg 「許されると思ってんの?」 スマホのアラームを設定→翌朝…… “絶望の通知内容”が430万表示 「ほんとこれ」
  8. /nl/articles/2501/30/news047.jpg 「死ぬほど笑ったw」 “ほろよい”限定デザイン → 人気ゲームの“例のロゴ”に見えると話題に まさかの公式も反応「ほろよい うま」 投稿者に話を聞いた
  9. /nl/articles/2501/31/news019.jpg “部屋が汚すぎて”彼氏に振られた女性→1人孤独に片付けを続け、600日後…… まさかの光景に「感動しました」
  10. /nl/articles/2412/09/news077.jpg 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先週の総合アクセスTOP10
  1. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  2. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  3. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議
  4. スーパーで買った半玉キャベツの芯を植え、5カ月育てたら…… 農家も驚く想像以上の結末が1300万再生「凄い」「感動した」
  5. 東京藝大卒業生が油性マジックでサンタを描いたら? 10分で完成したとんでもない力作に「脱帽です」「本当にすごい人」
  6. 定年退職の日、妻に感謝のライン → 返ってきた“言葉”が約200万表示 大反響から7カ月たった“現在の生活”を聞いた
  7. 【ヤフオク】“3万円”で購入した100枚の着物帯 →現役着付師が開封すると…… “まさかの中身”に驚き
  8. 「立体的に円柱を描きなさい」→中1の“斜め上の解答”に反響「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」 投稿者に話を聞いた
  9. 「すんごい笑った」 “干支を覚えにくい原因”を視覚化したイラストが勢いありすぎで1700万表示の人気 「確かにリズム全然違う!」
  10. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議