なぜ「フォートナイト」は子ども間のトラブルを引き起こすのか? プレイヤーの立場から解説してみる
フォートナイトが小中学校でトラブルの原因に。
8月に入り、ゲーム「フォートナイト」に関するセンセーショナルな投稿がTwitterを駆け抜けた。現在進行形で「Appleと全面戦争」のニュースが賛否両論を巻き起こしているが、この記事で取り扱いたいのは、それ以前に白熱した「小中学校でフォートナイトがトラブルの原因に」というテーマの方だ。
論争のきっかけは小学生のお子さんを持つ母親のツイート。「フォートナイト」を遊んだ子どもが、友達(と呼べるかどうかは分からないが)から課金していないことをバカにされたり、「下手くそ」と攻撃的な言葉を浴びせられたりと、相当にネガティブな思いをしたという。
この投稿を皮切りに、Twitterでは共感の声が噴出。学校から「多発するフォートナイトでのトラブル」と名指しで問題を指摘するプリントが配られた、という写真付きの報告ツイートもみられた。
そこで現職の教員に話を聞いたところ、ここ1〜2年で「フォートナイト」は特にトラブルの多いゲームのひとつとして名前が挙がっており、親からの相談も増えているそうだ。特に「課金」周りの問題は多く、親に無断で数万円もの額をつぎ込む子もいるという。自分が欲しいものを買うならまだマシで、人気取りのために購入したアイテムをクラスメイトに配って回るケースもあるそうだ。
さて、これを書いている私は「フォートナイト」にどっぷり熱中した経験を持ち、現在進行形でしばしば遊んでいる“プレイヤー”の立場にあるが、そんなファンの目線から見ても、上記のようなトラブルは起こりうると断言できる。「フォートナイト」の構造が、子どもの問題行動を誘引する点は否めない。
だが同時に「フォートナイト」は、賞金総額3000万ドルのeスポーツ大会が開かれるだけあって非常に競技性の高いゲームである。上達のためには、複雑な操作技術の会得はもちろん、「どうすれば勝てるか」頭を使って考える練習が必要で、時にはチームメイトとの適切な連係も求められる。
身体の発達には役立たないが、本気で取り組めば“成長の喜び”と“ひたむきな努力の価値”に気付かせてくれるだろう。運動が苦手な子でもスポーツの楽しさを疑似体験できる、まさしくeスポーツのお手本のようなタイトルといえる。
たしかに「フォートナイト」は前述したようなリスクをはらんだタイトルだ。しかし「フォートナイトというゲームが危険らしい」という漠然とした知識で子どもの可能性を潰してしまうのはもったいない。
例えばサッカーだって、転べばケガをするし、「下手くそ」と陰口を叩くチームメイトがいないとは限らないし、親の金を盗んででも欲しいスパイクに出会うかもしれない。それでもクラブチームに通わせるのは、親や監督が「どんな問題が起こりうるか」経験則で知っていて、対策を講じることができるからだ。
この記事では「フォートナイト」の抱える危うさを解説したうえで、「禁止」ではなく「安全に楽しむ」方法はないか考える。とはいえ問題は多岐にわたるため、今回は特にセンセーショナルな“課金”にフォーカスを当てて論じたい。
「フォートナイト」における課金:“スキン”って何? なんのために課金するの?
そもそも「フォートナイト」は基本無料のタイトルであり、ゲーム機やPC、あるいはスマホさえあれば、お金を1円も払わず遊べてしまう。では子どもたちは、どのような目的でゲームにお金を払うのだろうか?
「Pay to Win」という言葉がある。直訳すると「勝つためにお金を払う」。例えば多くのスマートフォンゲームにおける「ガチャ」は、より強いキャラクターを手に入れることで、ゲームを効率よく進めたり、対戦に勝利したりすることを目的とした「Pay to Win」の仕組みである。
そして「フォートナイト」の課金はこの「Pay to Win」ではない。Twitterでは誤解している保護者も多かったのだが、「フォートナイト」にお金を払った所で、強力な武器が手に入ったり、キャラクターが強くなったりといった、競技に勝つための利点は得られない。
では何のために課金するのか。子どもたちがゲームにお金を払うのは「スキン」と呼ばれる“かっこいい服装”を手に入れるためだ。
重ねて言うが、こうした服や持ち物にゲームで強くなるための特殊能力は一切ない。ただ見た目がかっこいい、かわいい、それだけである。
となると「じゃあお金を払う必要はないじゃないか」「無料で手に入る服で我慢しなさい」と言いたくもなるが、課金せずに使える唯一の衣装はそこそこ野暮ったい。とはいえ服の印象には個人差もあるだろう。もっと問題なのは、この初期衣装は着ているキャラクターの「見た目の性別や肌の色がランダムに決定する」仕様を持つため、自分が望む性別でプレイすることも許されない点だ。
みんなが対等な条件ならまだしも、自分だけ望まない見た目で遊んでいては、いたたまれなさを感じる子どももいるだろう。お金を払わなければ身体的なアイデンティティーすら自由に選べないというのは、いくら最低限度の課金を求めるためとはいえ、いささか趣味の悪い仕様だと思う。
「かっこよくなりたい」「かわいくなりたい」。あるいは周囲の友達と比較して「みっともないと思われたくない」「バカにされたくない」。これが子どもたちを課金に走らせる最もシンプルな理由である。
スキンの価格はレアリティの低いもので約800円〜2000円程度。スキンが数点セットになった「バトルパス」と呼ばれるアイテムも1000円足らずで購入できるため、場当たり的で身もふたもない意見だが「好きなスキンを1つ買ってあげる」ことはひとつの解決策になるだろう。
特にバトルパスはかなりお得で、セット内容に約1500円分のゲーム内通貨が含まれている。つまり、1000円払えば実質無料で衣装が手に入り、条件を満たせば“お小遣い”まで返ってくる。もし子どもが「他のスキンが欲しい」と言い出したら、この1500円でやりくりするよう伝えてもいい。
ただし「バトルパス」を購入しただけでは全てのアイテムが手に入らず、ある程度ゲームを遊んで“解放”しなければならない。毎日コツコツ遊んでいれば無理なく全て手に入る範囲ではあるが、“シーズン”と呼ばれる期間が切り替わると、それ以前に購入したバトルパスのアイテムを解放できなくなってしまう時間制限もある(記事公開日に販売されているバトルパスの有効期限は8月26日まで)。もし購入するにしても、公式サイトの説明をよく読み、事前に家庭内のルールを話し合うよう勧めたい。
もちろんスキンを手に入れたことで「他の子をバカにする側」に周ってしまっては本末転倒である。課金のトラブルにかかわらず、「フォートナイト」を始めてから子どもの口が悪くなったと感じる保護者もいるかもしれない。負け続けてストレスが貯まり、悪態をついている我が子を見るとやるせない気持ちにもなるだろう。
だが、当然「フォートナイト」側がそうした攻撃的な発言を推奨しているわけではなく、むしろバッドマナーとして嫌われる行いだ。一度、プロとしてゲームに取り組んでいるトップ層の動画を見てみてほしいのだが、彼らのほとんどは“暴言を吐かない”ことを徹底し、子どもたちの規範であろうと努めている。
大切なのは、ゲームの中だって現実の延長線上なのだと子どもに理解してもらうことだ。大人ですらゲームやTwitterの画面越しに生きた人間がいると想像できない人はたくさんいる。難しいことかもしれないが、バーチャルの世界でも悪口を言えば相手は傷つくのだと、それぞれの家庭の事情は介入してくるのだと、子どものうちから教えてあげてほしい。
ゲーム内のトラブルを見つける難しさ:「親に無断で高額課金」を発生させないために
さて、無事に子どもがかっこいい衣装に着替え、ネットリテラシーにも目覚めたとしよう。これで一安心……とはいかず、今度はまた別の問題が待ち受けている。冒頭で軽く触れたように、フォートナイトでは衣装を“ギフト”として簡単に友達に買い与えることができてしまうからだ。
「お前んち、スキン買ってもらえるんだ。じゃあ俺にもプレゼントしてよ」「お金は渡すから代わりに買ってくれよ」
こうした誘いを断ることは、時として優しくするより難しい。「断ったことが原因でイジメられたら」「仲間外れにされたら」と不安になり、親に隠れて引き受けてしまう子もいるだろう。
被害者と加害者が存在するならまだ話は単純で、より困ったケースでは自分から進んでアイテムをプレゼントする子もいるという。今回話を聞いた教員は「お年玉を数万円課金してまで、友達にゲーム内アイテムを贈っていた子がいました。ゲームを止めようとしている友達を引き留めるために、自分から配っていたようです」と事例を述べる。
こうした事態を避ける最も基本的な方法は、ペアレンタルコントロールを導入することだ。Nintendo SwitchやPlayStation 4、スマートフォンで遊んでいるのであれば、まずは各プラットフォームに標準で搭載されている「課金制限機能」を活用したい。
こうした機能を使うにあたり注意したいのが、時として子どもの方が親よりもゲームに詳しく、そして賢しいということだ。例えばNintendo Switchのペアレンタルコントロールには、子どものアカウントで購入を制限していても、親のアカウントにパスワードをかけ忘れると買い物ができてしまう抜け道がある。また、検索すれば「クレジットカードが無くてもフォートナイトに課金する方法」といったページが何件もヒットする。デジタルネイティブの子どもたち相手に“課金を完全に防ぐ方法”などないのかもしれない。
さらに今回取材した教員は、「フォートナイト」も含めたオンラインゲームのトラブルの難しさを「教員の介入できる範囲は非常に限られていて、最終的には各ご家庭で解決してもらうしかないんです」と語る。
冒頭で「フォートナイト」とサッカーを比較したが、両者が決定的に異なる点は、問題が「外から見えるかどうか」である。校庭や公園でケンカが始まれば、教員や近くの大人が対応するだろう。しかし多くの場合、フォートナイトのトラブルは自宅、スマホやゲーム画面の中で発生する。保護者が気付かなければ、誰も止めてくれる人はいない。
子どもが大きくなるにつれ、親の目の届かない範囲は増えていく。そもそも常に子どもの遊ぶ様子を見ていられるわけじゃないし、結局は問題を事前に察知できるよう信頼関係を築いていくほかない。「ゲームの中だって現実の延長線上」――これは子どもに教えたいリテラシーであり、親が自分自身に言い聞かせたい留意点でもある。
だから子どもの同意を得られるのであれば「フォートナイト」をアンインストールすることはひとつの選択だろう。ともすれば友達と話は合わなくなるかもしれないが、それ以上のトラブルは未然に防げる。
だが、ここまで説明したような問題に根気よく取り組む用意が保護者にあるのなら、運動が苦手な子にとって、対戦ゲームは将棋やチェスのようなメンタルスポーツと同様に「勝利」の喜びを味わえる貴重な競技のひとつだ。
特に「フォートナイト」は、戦いの舞台となる地形や道具を「覚える」、その場その場で適切な行動は何か「考える」、複雑な操作ができるよう「練習する」、同じチームの仲間と「協調する」といった複合的なトレーニングが必要なゲームである。子どもがこうした努力の重要さに気付けるように、むしろ親の方から「どうすれば勝てると思う?」と声をかけてあげてほしい。
「フォートナイト」が原因で子どものトラブルが発生している現状は、ひとりのゲーマーとして非常に心苦しい。私は香川県にゲーム規制条約が浮上した際、真っ向から反対する立場で記事を書いてきた。それは条約が前提とする「ゲームを規制すれば問題は解決する」という説が科学的根拠に乏しかったからだ。だが、いま実際に起きている問題から目を背けたいわけではない。
ゲームを遊ばせるかどうか、課金を許すかどうか、全ては各家庭で決めることだ。だが、ゲームが原因で悲しい思いをする子どもを減らすために、同時にゲームで遊べず悲しい思いをする子どもを減らすために、この記事が役立てばうれしく思う。
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