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» 2020年09月22日 20時00分 公開

「装丁の“構想だけ”で約1年」「1冊6000円」 現職デザイナーがコスト度外視で美しさを追求した同人誌『幻想夜行 complete selection』

「内容・組版・装丁が1つの表現目標に向かい相乗効果を生むことで、本という1つの完成された創作物が生まれる」。

[ねとらぼ]

 同人誌制作者さんに作品へのこだわり、思い入れなどを伺う読者応募企画「装丁にこだわりまくった同人誌、教えてください」。今回は“小説の執筆”ではなく“すでに執筆済みの小説を本に落とし込む作業”だけで1年以上を費やした作品についてインタビューしました。たぶん商業誌だと不可能なコストの掛け方。




表紙は写真ではなく3DCG

『幻想夜行 complete selection』

  • 制作者名:RF(Twitter:@hal1929)、駒代みよせ
  • サークル名:RED FOREST、Argent vierge
  • 小説・漫画・音楽・デザイン・映像・考古学など幅広く遊んでいる集団です。いろんな技術者と一緒に4Kハイレゾ5.1chのMVを作ったり、プラネタリウムライブしたりしてました。

『幻想夜行 complete selection』

 2019年に作った「秘封倶楽部」(「東方Project」原作・ZUNさんが作っていらっしゃる別作品に登場するサークル)の二次創作同人誌『幻想夜行 complete selection』なのですが、装丁の構想に約1年、編集作業に約4カ月を費やしました。

 特殊装丁的には400ページ超のハードカバーの小口染め、ベルベットPP、部分ニス塗りカバー他いくつかと、普通(?)なのですが。

―― 普通なんですか?

 世の中には特殊装丁を盛りに盛っている同人誌が数多く存在するので、それと比べるとオプションの量は見劣りしてしまいますね。しかし、この本のデザインには可能な限りの労力をつぎ込み、“僕の思う最も美しい装丁”を目指して制作しました。

―― 内容的にはどんな同人誌なのでしょうか?

 あくまでも二次創作作品なのですが、原作を知らなくても分かるように説明しますと。物語は、数年前より昔の記憶がない少女と、主人公が出会う場面から始まります。

 少女のミステリアスさ、自分の記憶を取り戻そうと躍起になってくれる主人公の姿に惹かれ合う2人。そんなとき少女にもう1つの人格が現れ、主人公は「少女の多重人格を治療するということは、自分の恋人を殺すことだ」と知る。選択を迫られた主人公の下した決断は―― というのが第1話の内容です。

 2014年から小説、漫画、ボイスドラマなどジャンルを変えながら1つのシリーズ作品として制作を続けていたのですが、友人がそれを全て小説に書き直してくださったので、その総集編を作ることにしました。それが今回の『幻想夜行 complete selection』で、本筋4本+幕間の物語2本を収録しています。

 中には小説→漫画化→再度小説化→この総集編と計4回発行しているエピソードも。そのたびに内容、装丁のデザインなども改良しており、今回は「以前より良いものでないと、リメイクする意味がない」という過去の自分との戦いの終着点になりました。

 ところで、6年にわたってこういった作品群を作っていくなかで、物語を小説以外でも多角的に表現したくて、デザインなどを学びました。現在は職業デザイナーとして独立開業しているんですが……。

―― さらっと同人活動で人生変わった話が挟まりましたね。

 それで、デザイナーとしては「内容・組版・装丁が1つの表現目標に向かい相乗効果を生むことで、本という1つの完成された創作物が生まれる」と考えています。

 例えば、私は趣味でフォントの収集をしていて、自分で調べた範囲で手に入れられる明朝体はほとんど所有。小説本文向きな明朝体だけで数十種類あります。『幻想夜行 complete selection』の収録作品6本はいずれも登場キャラクターの日記、手記形式なのですが、語り部の性格の違いに合わせてそれらのフォントを使い分けていて。「1つのキャラクターに1つのフォント」ではなく、同じキャラクターでも漢字、平仮名で違うフォントを組み合わせて使ったりしています。


「組版は、作品の場面によって切り替わります」


「一段組になったり、フォントが変わったり」


「背景が切り替わったりなど……組版でも世界観を演出できるはずなのです」


デザインなどについて勉強したことで「他人への依頼もスムーズなコミュニケーションで行えます」「例えば、この『水鏡夜行』のロゴはデザイナーのレクさんという方が担当してくれたもの。苦手な分野は、より強い人に……」


「このページは、作品の内容を理解しているデザイナーがいないと成り立たないページです」

 それから場面に合わせてもフォントを変えたり、段組みを切り替えたり、背景をアレンジしたり……と組版でも世界観を演出していて。そういった作業を事細かに430ページ分やっていたら、全ての編集が終わるまでに4カ月近くかかりました。

 校正・組版・装丁という3つの仕事は分業するものなのですが、同人ではなかなかそういうわけにもいかなくて。完璧を求めだすと時間がかかってしまいますね。

―― 全部1人で作業していたのですか?

 いえ、自分の苦手な分野はより得意な人にお願いするなど、信頼できるクリエイターの手を借りています。音楽に加え、校正、デザイン、歴史監修まで含めると……数えられていないのですが、たぶん50人くらいでしょうか。

―― 本屋さんに並んでいるたいていの本より多そうですね。

 そのように制作コスト完全度外視で自分の納得が行くまで作り込み、かかった金額を頒布価格に反映した結果、同人誌なのに1冊6000円になりました。

ちなみに:装丁とは関係ありませんが、各収録作品にはテーマ曲も

―― さっきチラっと「信頼できるクリエイターの手を借りています。音楽に加え〜」というお話が。同人誌なのに、音楽?

 『幻想夜行 complete selection』に収録されているそれぞれの物語にはテーマ曲が添えてあって、本記載のURLからストリーミング、もしくはハイレゾ音源のダウンロードができるようになっています。「物語を小説以外でも多角的に表現」するために、これがやりたくてデザインだけでなく音楽を勉強したんです。

 この同人誌は二次創作なのですが、ベースとなった「秘封倶楽部」はブックレットに物語が書いてある音楽CD『ZUN's Music Collection』シリーズに登場します。その楽曲を編曲して、これまでに多くの楽曲が作られてきました。このあたりは「東方Project」の二次創作と同じですね。この本に付属している楽曲も、それらと同じように僕たちが編曲したものとなっています。



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