賃貸情報で隠されている「AD」ってなんのこと? 部屋を借りる時に気をつけたい「情報の非対称性」
疑問を持ったらすぐ調べよう!
転勤で引っ越しをする人も増えるこの季節。しかし、不動産には顧客が知ることのない情報もたくさんあります。納得して物件の契約をするためには、どのような姿勢が大切なのでしょうか? 元国税局員のさんきゅう倉田が解説します。
さんきゅう倉田
大学卒業後、国税専門官試験を受けて東京国税局に入庁。法人税の調査などを行ったのち同退職、芸人となる。芸人活動の傍ら、執筆や講演で生計を立てる。好きな言葉は「増税」。公式サイト、Twitter
不動産業界は悪い人ばかり?
以前、上場企業が運営する不動産仲介サイトでコラムを書いていました。そのサイトは資金も潤沢で、半年に1回コラムニストを集めたパーティーをやっていました。
このパーティーをきっかけに、たくさんの不動産関係者と知り合いました。脱サラをして不動産投資を行う夫婦や不動産会社の営業マンから独立して社長になった人など、経歴はさまざま。しかし、この質問は誰もが「イエス」と答えます。
「不動産業界は、悪い人が多いですか?」
みなさんの周りの不動産関係者と言えば、不動産の仲介や不動産の売買を行う人でしょうか。もしかしたら、物件を案内してくれた際に、とても親切だったと感じたこともあるでしょう。
しかし、そう感じたのは、もしかしたらあなたに情報と知識がなかったからかもしれません。
賃貸物件の「AD」 あなたは知っていますか?
先日、知人の女の子が一人暮らしを始めるということで、友だちの紹介で横浜市内の不動産屋を訪ねていました。
その不動産屋は広告を一切出さず、一見の客の仲介はせず、紹介だけでやっているそうです。女の子が物件を契約すれば、友達にはお金が入りますが、女の子はそれを知りません。もちろん、不動産屋も言いません。
不動産屋の男性は、親切丁寧に物件を紹介してくれましたが、同時に「この物件は今週中に決めないとなくなってしまいます」「すぐ、契約しましょう」と契約をせかしてきました。
不動産屋さんの勢いを受けて、女の子はその物件をそのまま契約することにしました。後日、女の子の話を確認したところ、どうやらその物件は「AD100」の物件だったようなのです。
AD100とは、家主や管理会社から家賃1カ月分の広告料(Advertisement)が入る物件のこと。仲介手数料が無料となっている賃貸物件の多くは、このADのお金が入る前提なので無料にすることができるのです。
もちろん、AD付きの上で仲介手数料も掛かる場合もあります。これを不動産業界では「両手」の利益と言います。
ADは物件の見取り図に書かれているのですが、多くの場合お客さんに見せる段階ではその表示が消されています。これは、ADが付いていることがお客さんに知れると、仲介手数料など値引きの交渉をされやすくなるからです。
このように、借りる側からは不動産屋が見ている情報の一部が見えないため、本来は値引きできたのに、そのまま契約をしてしまったというケースは数多くあるでしょう。
問題は業者と顧客の「情報の非対称性」
不動産の契約には、このように顧客の間に情報の非対称性がある場合が少なくありません。
不動産業者は不動産の価値を知っていますが、買う側はわからない。これは、先ほどのADの例だけでなく、立地や間取りのデメリットなども同じです。
買う側は専門家ではないので、そのことに気づくこともできない。それを知った上で、大切な情報を知らせなかったり、嘘をついて利益を得る不動産業者が存在するのです。
家を借りたり買ったりするために、不動産業者と頻繁に会っていても、取引を終えて再び会うことはほとんどありません。
家の近くのコンビニやスーパーに週に何度も行くのと違い、通常、不動産の取引は一生に数えるほどしか無く、同じ業者や同じ担当者を使うことはまずないでしょう。
この状況は、不動産業者からすれば、不適切な販売方法に対するリスクが少ないと言えます。
疑問点はすぐに調べよう
どんなにがんばっても、日々の業務で情報に触れている業者よりも不動産に詳しくなることは難しいでしょう。
しかし、不動産のことや不動産業界の常識を知れば、自ずと不動産業者の本音や真実が分かります。大切なのは、分からないことをそのままにせず、すぐ調べることです。不動産の賃貸借契約や売買契約の前には、知識を蓄えることがとても重要なのです。
また、少しでも気になったことがあればすぐに聞くのも大切です。この物件がそんなにいいなら、担当者自身はなぜ買わないのか? 退去後のクリーニング費用の明細はどうなっているのか? ……疑問に思ったことはすべて確認しましょう。
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