クレしん映画の新たな傑作「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」レビュー 「オトナ帝国」「戦国大合戦」と単純比較するべきではない理由(3/4 ページ)
5作目「暗黒タマタマ大追跡」以降の原恵一監督が手掛けた作品は、オトナに向けたギャグや作風やメッセージが濃くなっていった。しかし、京極尚彦監督は今回では特に親世代を意識せず、子どもに楽しんでもらえるよう、気取らず、難しくしないというコンセプトで制作に挑んでいたのだという。
近藤プロデューサーもクレしん映画のお気に入り作として「ヘンダーランドの大冒険」を挙げて、「自由奔放なしんのすけが大好きなので、ヘンダーランドのような映画を作れたらいいな」と思っていたのだそうだ。
そのため、本作は「ヘンダーランド以前の、純粋に子どもに向けたクレしん映画の再来」ともいえるのだ。それでいて、終盤にはオトナがドキッとしてしまうとある風刺も込められていて、クレしん映画が好きだった人に向けたファンサービスも盛り込まれていた。子どもに向けた作品でありながら、一緒に映画館に来たオトナも楽しめるという意味でも、本作は理想的なクレしん映画といえるのだ。
4:「宝石の国」の監督へのオファー
近藤プロデューサーは、テレビアニメ「宝石の国」を見て、なんとしても京極尚彦監督にお願いしたいという思いでオファーをしたのだという。それは「しんのすけは、“動いてなんぼ”というおもしろさのあるキャラクター」であることも理由だったそうだ。
「宝石の国」はダイナミックなアクションシーンがすさまじく、豊かな表情をつくるキャラクターみんなが魅力的という、並々ならぬクオリティーを誇った作品であった。
近藤プロデューサーは、「宝石の国」で京極監督が「“キャラクターを動かす”ということを大事に考えている方だな」とほれ込み、また「ラブライブ!」の第1話の後半の“ぶっ飛び方”を見て、「すごく映画らしい表現ができる方だ」と考えていたのだという。
そのかいあって、「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」は、アニメとしての表現、そして躍動感のあるアクションにおいても、とても見ごたえのある作品に仕上がっている。特に、クライマックスのアイデアと、それを実現させた作画、そしてしんのすけの心理描写には、言葉にならない感動があったのだ。
ここでも、「過去作品にとらわれない」気概を感じさせる。実力のある監督にオファーをして、それがアニメとしてのクオリティーを底上げし、大胆なアクションも見どころであったクレしん映画の“らしさ”を取り戻してもいるのだから。
ちなみに、中田譲治や黒沢ともよといった、「宝石の国」のメインキャラクターを務めた声優が、今回の「激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者」にも参加している。その他、冨永みーな、平田広明、玄田哲章、三ツ矢雄二、井上喜久子、能登麻美子、諏訪部順一など、脇役を含めた声優陣も超豪華だ。きゃりーぱみゅぱみゅ、りんごちゃん、山田裕貴というゲスト声優も文句なくハマっている。声優ファンにとってもうれしい作品だろう。
5:“クレしん映画らしさ”を突き詰めた内容に
クレしん映画は、確かに「オトナ帝国」と「戦国大合戦」で、作品としての完成度が頂点に達していたのかもしれない。その後に続く作品では、この記事の最初に掲げた中島かずきの言葉でも分かるように、明らかにその2本、または初期作を意識しながら、試行錯誤を続けていた時期があった。
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