どうして私たちは化粧をするのか、しないのか? 今夜最終回「だから私はメイクする」をイラストで振り返る
これまでに登場した女性たちを振り返ります。
テレビ東京系で放送中「だから私はメイクする」 (水曜深夜0時58分)が11月11日に最終回を迎えます。メイクを通して浮き彫りになる女性たちの「社会」や「自意識」、「自分がどうありたいか」を描いたオムニバス・ストーリー。各話ゲスト主人公が変わる1話30分&1話完結のドラマです。
原作はシバタヒカリ作のコミック『だから私はメイクする』(祥伝社)。『浪費図鑑』などの著書があるオタク女性4人組・劇団雌猫によるエッセイ集『だから私はメイクする』(柏書房)を原案とした漫画で、『FEEL YOUNG』で連載中。
最終回を前に、原案エッセイ集『だから私はメイクする』(柏書房)のイラストを担当したkamochicさんに、これまでの5話を振り返ってもらいました。
kamochic(かもちっく)
ドラマ「だから私はメイクする」原案エッセイ集『だから私はメイクする-悪友たちの美意識調査-』(柏書房)のイラストを担当。劇団雌猫の同人誌「悪友」シリーズの表紙イラスト&表紙デザインを手がける。
「だから私はメイクする」に出てくる女性たち
「だから私はメイクする」は、「女性とメイク」にまつわるオムニバス。ドラマだけでなく映画やアニメなど幅広いジャンルで活躍する坪田文(アニメ『HUGっと!プリキュア(ABC朝日放送テレビ)』/シリーズ構成・脚本)が脚本を担当しており、監督に「君が世界のはじまり」で知られる若手監督ふくだももこ、山中瑶子・岸本鮎佳らが携わっています。
1話30分で描かれるさまざまな女性たちのディテールが、このドラマの楽しいところ。
まず、ゲスト主人公たちを支えるビューティーアドバイザーたち。全話を通して登場するのは、各話ゲスト主人公たちになんらかの形で関わることになる百貨店のコスメカウンターのビューティーアドバイザー(BA)たち。シリーズの主役であるカリスマBA・熊谷すみれを演じるのは人気美容家の神崎恵。Youtuber活動も行うBA山本織香をこれまた自身も美容系Youtuberとして活躍する吉田朱里(NMB48)、新人BA近藤芽生を志田彩良が演じています。
これまでの5人の女性たち
第1話には自分のメイク道を極め続けるうちにあだ名が「マリー・アントワネット」になったOL錦織笑子(島崎遥香)が登場します。自身のメイク道を極める――と言っても完璧な人間ではありません。同僚や気になる人から「ナチュラルメイクの方がいい」と言われ、ナチュラルメイクに挑戦するも、最終的に自分を変身させてくれるメイクを純粋に愛し、周りから褒められるメイクではなく自分のなりたい自分になりたい! とメイクに夢中になる笑子の姿は「好き」の気持ちにあふれていて気持ちがいい。
コスメカウンターで自分の「好き」を自覚した瞬間のほっとした笑子の笑顔には、見ているこちらも何か自分の「好き」に正直になっていいんだ、と許されたような気持ちに……。自分の気持ちに素直になり、ラストシーンで楽しげに自分のメイク道具について語る笑子の姿は、私の目にはなぜだか作中で一番輝いて見え、見ているこちらもついついメイク道具に手が伸びてしまいます。
ちなみにこの笑子、ドラマでは名言されていませんがBL漫画を読むのが趣味。ドラマのいろんなところにこっそりとBL漫画が登場しています。探してみるとたのしいですよ。
第2話の主人公は、メイクとは縁遠い生活を送る崖っぷち少女漫画家兼、アイドルグループBOYS AND MENのオタク川松奏子(阿部純子)。読者からもらったマニュキュアのプレゼントをきっかけに、ネイルに興味を持つ奏子だが――というストーリー。
1話から一転、メイクと聞くとハードルが高いと感じる人に響くような回で、「自己満足」というキーワードを巧みに忍ばせた脚本構成も見事ですがすがしい。小道具としてあちらこちらにBOYS AND MENのポスターやグッズ、出版社のシーンに祥伝社の漫画作品のポスターが登場するのもオタク心をくすぐる注目ポイントです。自己満足、生きていく上でものすごく大切だよね。
第3話でスポットが当たるのは、仕事で多忙な日々を送る中で自分を奮い立たせるためにコスメに大金を投じ、独自の戦法自論を持つキャリアウーマン北郷兎咲(太田莉菜)。今までの話に比べて高額なコスメが多数登場します。
この話においてコスメは「忙しい日々を戦うためのお助けアイテム」。会社ではバリバリに働く北郷だけど、仕事で落ち込むこともある。どうにもならなくなり、熊谷に助けを求めに行く姿は等身大で親しみやすさを感じます。そんな北郷にアドバイスとして投げかけられる「安いとか高いとか関係なく忙しい日々を戦うためにお金を使うことに罪悪感を感じなくていい」という熊谷のセリフは毎日を多忙に過ごす人の心をすっと軽くしてくれるのではないでしょうか。熊谷さん、優しい本当に大好き。
第4話では職場の同僚から受ける「クソバイス(知ったかぶりおせっかいアドバイス)」にうんざりするおしゃれやメイクが大好きな会社員亀山玲央奈(片山友希)&会社に内緒でメイクを楽しむ同僚の男性・吉成(井上祐貴)が登場。メイクは誰のためにするものか? 亀山と吉成の交流の中で、第1話とは逆に「メイクが大好きだけど、メイクをしない理由」を考えるようになる視点が新鮮です。
今までの主人公たちと違い、同僚・吉成と意見をぶつけあいながら自分の気持ちとの折り合いをつけていく亀山の姿はある種のジュブナイル作品のようで、大人になり、友人と意見をぶつけあうことなど久しくなった自身には胸が熱くなるストーリーでした。あと会社の人たちが亀山に向かって逐一おしゃれチェックしてきたり、いらないアドバイスをしてくるところが純粋におせっかいすぎて怖い。こういう人、いるいる……とテレビの前で震える。
第5話に登場するのは自分に自信が持てない謙遜女子ながら、ドバイからやってきたマダムのお手伝いとして働くことになった元絵画講師月野輪子(石川恋)。輪子の「謙虚」という名の「自虐ワード」の数々を聞いて、身に覚えがある……となる方も多いに違いない。自分の持ち物を褒められて「いやこれ安物なんで……」と言ってしまうの、誰しも一度はやったことがあるのでは。各話を通して悩み続けているBA近藤に投げられた「まずは自分を愛してみたら」という熊谷のアドバイスが心にしみます。
自分は何のためにメイクするのか
そして11月11日放送の第6話(最終話/Paraviで先行配信中)。特別ゲストは藤原紀香、主人公・熊谷(神崎恵)の憧れであり恩人でもあるBA・猫田ひかるを演じます。
この回は現在社会問題となっている新型コロナウイルス感染症の流行により、営業自粛を余儀なくされた熊谷たちBAの姿を中心にした“今”の物語であり、ドラマ版オリジナルストーリー。「自分は何のためにメイクするのか?」――人の数だけ理由があるこの問いに、熊谷たちが答えを出すストーリーです。
各話ごとに立場も目線も価値観も違う登場人物たちがたどり着く「メイクする理由」はさまざま。
多種多様な理由の数々に、共感、あるいは知らず自分の中にあった固定観念に気づかされる視聴者も多いのではないでしょうか。本作は匿名女性たちによる原案エッセイ本(本文中にイラストを掲載していますが、あくまで各登場人物の想像図として描かせてもらっていました)からコミカライズという新しい姿になり、さらにドラマ化。
エッセイ・マンガ・映像とメディアの情報量は変わっていきました。けれど一読者の目から見て(手前みそのようになってしまうかもしれないですが……)、メッセージ性は変わっていないと感じます。
ドラマの尺は一般的なアニメと同じである30分。かつ一話完結であるがゆえに各話のメッセージは簡潔で力強い。BA熊谷をはじめ登場人物たちのモノローグはポイントポイントで心に強く残るものばかりです。映像だからこそできる演出もあり、明るいメロディに、まるで各話の登場人物の心情をくみ取ったかのようなlolのエンディングテーマの挿入タイミングがいつもすがすがしい。原案エッセイ、原作コミックスを読んだ読者として、また新しい「だから私はメイクする」に出会えたと思っています。
ドラマは全6話で終了しますが、原作コミックスは『FEEL YOUNG』(祥伝社)にて連載再始動中、原案エッセイ本には他のエピソードも盛りだくさんです。ドラマから本作を知った方は、原作・原案本を手に取っていただいて、ちょっと違うけれど変わらない“彼女たち”に出会ってくれるととてもうれしいです。
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