今も昔も、女の子たちはそれぞれの戦場に立っている 『だから私はメイクする』劇団雌猫×『日本のヤバい女の子』はらだ有彩
『だから私はメイクする』刊行記念イベントレポ。
私たちはどうしておしゃれをするのだろう。何と、誰と戦っているのだろう?
10月24日発売の書籍『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(柏書房)。その刊行を記念して、著者である劇団雌猫のメンバーのかんさん&ひらりささん、そして『日本のヤバい女の子』(柏書房)の著者・はらだ有彩さんが登壇するトークイベントが11月4日に行われた。テーマは「私たちがおしゃれをする理由」、Twitterのハッシュタグは「#私おしゃ」だ。
登壇したはらださんは語る。「おしゃれをする理由が『自分のために』『他人のために』『何かを探して』って、もうそれは人生ですよね」。
印象に残った「○○の女」
『だから私はメイクする』は、劇団雌猫が発行した同人誌「悪友DX 美意識」を書籍化したもの。女性たちがなぜおしゃれをするのか? 何のために可愛くなろうとするのか?――を、15人の女たちが“告白”していく。「自分のために」「他人のために」「何かを探して」の3章構成。女性を中心に大きな反響があり、発売2週間で3刷が決定した。
「あだ名が『叶美香』の女」
「大人になってもロリータ服を着る女」
「会社では擬態する女」
「アイドルをやめた女」
「整形しようか迷っている女」
こんな目次を読んで、どんな女性の姿を想像するだろうか。「私のことだ!」とハッとする人も、自分には全然関係のない話だと思う人もいるだろう。でも、ここに書かれているのは一人一人が実在する、いまを生きている女性の胸の内。今日、駅ですれ違ったあの女のことかもしれないと思うと、その存在はグッと現実味を帯びて自分に近づいてくる。
はらださんは、15人の女性たちのエッセイの中で「会社で擬態する女」にまず共感したという。
はらだ: 私は、普段はメーカーでデザイナーをしています。デザイナーって内勤なので、今日のような自由な服装で出社するんですが、おしゃれしている日は「あれ、今日どっか行くの?」と聞かれるんです。
「会社では擬態する女」は、職場の男性陣からの“ファッションチェック”に疲れ果て、“会社では自分の好きな格好を見せない”と決めた女のエッセイ。彼女は会社で「あれ? 今日なんかいつもと違くないですか?」「デートですか?」と声をかけられるたびにうんざりしている。「てか俺ポニーテールの方が好きだわ〜!」なんて言われることも。
かん: なんかないとおしゃれしたらあかんのか! って思いますよね……。
ひらりさ: 会話の糸口が、服装くらいしかないのかな?
かん: 「誰か狙っている男でもいるの?」なんて言われるけど、ひとまずあなたではない!
はらだ: 人のおしゃれに茶々を入れるマインドって「自分たちと同じように暮らしていて、同じ仕事をして、同じような用事しかないはずなのに、すごい張り切っちゃってるじゃん」みたいな同調圧力から生まれている気がします。おしゃれを見せる対象が自分以外の誰かだということへの不満と牽制(けんせい)もあるかも。「会社では擬態する女」がうんざりしたのも、そういう空気だと思ったので、彼女のエッセイは刺さりました。
逆に、全く知らない世界の話で驚いたのは「芸能人と働く女」。芸能事務所でマネジャーとして働く彼女は、自分のためではなく担当している女優やタレントに充実した仕事をしてもらうためにおしゃれをする。
はらだ: 他人のためにおしゃれをすると言い切るって、すごい切り口ですよね。一見、自分を殺すようなネガティブな話かと思ってしまうんですけど、実は最終的にはポジティブになる話で驚きました。自己実現をしないことが自己実現につながっていくっていう複雑な構造になっていて、それがすごい。
反対に、そうしたマネジャーやスタッフに支えられていた立場として「アイドルをやめた女」のエッセイも収録されている。アイドル時代はアイドルらしさを求められて、いつも「愛想がない」と叱られていた。しかし、アイドルの世界を出てみると今度は「愛想が良すぎて媚びている」と注意を受けるようになる。
ひらりさ: 自分がいる世界によって、見られ方も変わるし装いも変わる。そういう点では、メイクやおしゃれを切り口にしたお仕事エッセイ的な側面もあって、意外と広い読者層に楽しんでいただける本になったと思っています。
「高校生の頃に読みたかった本」自分と向き合う読書体験
改めて本書を読み返し、かんさんは「自分が何者なのかわからなかった高校生の頃に、この本を読みたかった」と話した。また、本書に寄稿している「デパートの販売員だった女」からもコメントが寄せられる。「高校を卒業したらメイクができて当たり前、じゃないですよね。何を選ぶのか、何を意識するのか、どう変わるのかは個人的な事情の話なのに、全然違う私も引き込まれて共感してしまう至福の読書でした」。
『だから私はメイクする』の刊行を決めたときの思いについて、ひらりささんが改めて振り返った。
ひらりさ: 私は、メイクやおしゃれをする自分の意識と向き合うこと自体が、なにかすてきな一歩になるんじゃないかと思っています。それを自分の中に留めていても良いのですが、他の人と話してみることも励まし合うパワーになるかもしれないと思って、今回こんな風にたくさんの寄稿者の方にエッセイを書いていただき、宇垣美里さん、長田杏奈さんにもインタビューさせていただきました。
かん: この本を読んで、自分のおしゃれに対する思いをTwitterやブログに書いてくれている人もいるので、そういう広がりがうれしいです。みなさんも、ぜひ検索して感想を読んだり、自分の思いを伝えたりしてみてほしい。
はらだ: 私も『だから私はメイクする』でエゴサして、感想読んでるんです!
かん: それはもう、ただのサーチですね(笑)。
別々の場所で戦っているから、女は支え合える
はらださんの著書『日本のヤバい女の子』は、かぐや姫や織姫、お菊さんなど昔話に出てくる女の子たちがその時代を賢明に生きた姿を、現代に引き寄せて再考したエッセイ集。彼女たちがいま生きていたらこんな言葉をかけてあげたい、というはらださんの優しさとシスターフッドの思いが詰め込まれている。
『日本のヤバい女の子』に登場する昔話の女の子と『だから私はメイクする』に登場する現代を生きる女の子たちには、どんな共通点があるのだろうか。はらださんは、『だから私はメイクする』掲載のライター長田杏奈さんのインタビューから、あるフレーズを引用した。
〈どれもタイトルの時点では、自分とは関係ない話に思えるじゃないですか。私のあだ名は「叶美香」じゃないし「擬態」もしていないし。〉
〈みんなバラバラで、多様でそれぞれ違う美意識を持っていて、リアルで会っても仲良くできるかわからない人たちなんですけど、そこにちょっとずつ繋がりを感じられる「何か」があって、すごく素敵だなと思いました。〉(p.84 長田杏奈インタビューより)
はらだ: 私が『日本のヤバい女の子』を書いたのも、これに近い思いがあったからだと思います。別にこれを読んだからといって、登場する女の子が毎日一緒にお弁当食べてくれるわけでもないし、会社のイヤな上司にキレてくれるわけでもないし、それこそ長田さんの仰るように仲良くなれないかもしれない。でも、自分と違う価値観で生きている女の子が存在しているということが大切で、それを伝えたかった。
ひらりさ: これは私の印象ですけど、“女性の生き方をもっと自由にしようよ”という話がネットで出たときに、みんな同じ意識、同じ考え方で頑張ろうみたいな方向になってしまうことが結構あると思うんですね。でもそうではなくて、みんな別々の考え方で、別々の戦いをしていて、それがちょっとずつお互いの支えになるよねっていうマインドを発信していきたいと心がけてます。
イベントで紹介されたコスメ、ファッションや、イベントの感想はTwitterのハッシュタグ「#私おしゃ」で探すことができる。女たちのおしゃれ心と戦闘力を、本と併せて覗き見てみては。
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