アラフォーが“失った青春”を取り戻す? 『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』がドライで面白い(1/2 ページ)

「グッドルッキング天国」での冒険。【冒頭試し読みあり】

» 2020年11月17日 20時30分 公開
[藤谷千明ねとらぼ]
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 「出会い系サイト」と呼ばれていたものが「マッチングアプリ」と名前を変えただけで、こんなにカジュアルになるものなのか。

 十数年前、出会い系サイトで知り合って結婚した知人夫婦は、親に「合コンで出会った」と説明していた。「違いは?」と思ったものの、当時のインターネットでの出会いは、まだ「親に説明できるもの」ではなかったのだろう。

 そして現代、その危険性はゼロにはなっていないものの、身分の確認などのルールもある程度整備され、筆者の周囲でも当たり前のようにマッチングアプリを利用しているという男女の声を聞く。当然筆者も例外ではないのだが。『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(松本千秋/幻冬舎)は、大マッチングアプリ時代(なんだそれ)を描いたコミックエッセイだ。

38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記 『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』(松本千秋/幻冬舎)

 幻冬舎×テレビ東京×note「コミックエッセイ大賞 」入賞作で、18日からテレビ東京にてドラマ放送もスタートする。主人公を演じるのは山口紗弥加、そしてマッチングする「イケメン」たちを、稲葉友や塩野瑛久ら、気鋭の若手俳優を中心に、2.5次元舞台俳優や、恋愛リアリティ番組出演者が登場することでも注目を集めている。

 フリーランスイラストレーター・チアキは、バツイチで結婚願望もとくにない。そんな彼女が、友人が利用していた「グッドルッキングだらけ」のマッチングアプリに登録するところから物語は始まる。

 なお、作中に登場するアプリは、イケメンが多いこと以上に、「ヤリモク」の者が多いことでも知られている。同年代男性はやたらとマウントをとってくる上に既婚者も多いこと、自身の性癖が年下であることなどを理由に、チアキは年下男性に対象を絞り、大学生やモデル、ネット配信者らといったイケメンたちとマッチングしていく。20代前半で最初に付き合った男性と結婚し、30代後半で離婚した彼女が「青春」を取り戻すために。

期待に応えてさらけ「ださない」、ドライな面白さ

 エッセイに限らず、SNSアカウントなどにおいても、女性が自分自身を語る場合、過剰に自意識や体験をさらけ出すことを期待されることは多い。もちろん、それが向いている人ならいいのだが、向いてない人まで読者の求められるまま期待に答えた結果、身を削ってしまうようなケースは少なくはない(男性は男性で別の「期待」があると思うが、字数もあるので言及しないことはご容赦願いたい)。

 とくに、本作のように「男をとっかえひっかえ」している場合は、性行為を自傷のように扱ったり、ある年齢を超えると「いい年して……」と内省する自虐や自嘲の描写が目立っていたり、一方で「女だって性を楽しんで良い!」「年齢なんて関係ない!」と宣言するのも、開き直りのように思え、逆に強固な抑圧の影を感じてしまう。ことに中年女性の性愛の描き方は難しい

 チアキは、そういった自意識のあり方に関する「期待」には、あまりこたえていない。

 年齢差に関しても、大学生と猫カフェのドリンクバーを飲むことになり、「アラフォーは太りやすいんだ…不味い糖分摂取している場合ではない…(中略)ああ、知らんうちになんて生き辛い大人になっているんだ!」とおののいたり、近所に住むモデルとの関係に悩むも、年齢差を理由に自分の願望を伝えることを躊躇(ちゅうちょ)したりする描写は出てくるのだが、端正な描線と品のある絵柄、コミカルなセリフ回し、テンポの良い構成もあって、あまり重たい印象を受けない。

 とはいえ、十数年恋愛から離れていたであろう人間が、アプリを通して急にひっぱりだこになるのだから、「手慣れた様子で軽やかに性を楽しんでいる」とはいかないが、その様子も過剰な被害者意識に基づくものではなければ、無自覚な加害者でもない。

 例えば、自宅のベッドで一緒に寝た際に、自分に手を出してこない大学生との関係を、「『セックスしなくても一緒にいて退屈しない女』でしょ? 人としての魅力がある的な?」と、女友達に自慢するも、結局迫られてセックスしてしまう。翌朝ショックでついつい泣いてしまうものの、チアキのとった行動は「他のマッチングした男性とデートする(しかもセックスする)」というタフさをみせる。

 他にも、出会いを重ねていく中で、それなりにすったもんだがあり、その都度チアキはそれなりに傷ついたり自省はするものの、また別の相手とマッチしていく。起きている事柄に対して、どこかドライな視点があり、ほかの誰でもない作者自身が「チアキ」というキャラクターの手綱(たづな)をしっかりと握っていることが伺える。読んでいて、そこに心地よさを感じるのだ。

 本作では「マッチングアプリは自分自身を大事にしていない人がやるもの」と結ばれているが、それも教訓めいたものではない。だって、それでもまた自問自答しつつ、チアキはアプリを使い続けるのだから。それを依存と感じる人もいるだろうれど(作中でも自己言及されている)、「自分を大事に」してなくても、「人に大事に」されてなくても、行きずりの人肌で癒やされることで生きていけることもある。このカジュアルさが、今のマッチングアプリブームを表しているように思う。

 最後に、大きなお世話だと思うが、避妊は相手任せにするのではなく主体的にしてほしい……! 同じチアキからのお願いとしてどうかひとつ。

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