意味がわかると怖い話:「ミサキの悪夢」(2/2 ページ)

» 2020年11月22日 21時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]
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「ミサキの悪夢」解説

 死ぬ人間の名前を告げる「夢の女」は、果たして語り手が思っていたような、「ミサキ=命を奪う呪い」だったのでしょうか? 女の夢は単に、語り手の周りで死ぬ運命の者の名を予言していただけで、「その命を助けるチャンス」を彼に与える一種の守護霊だったのだとしたら。

 彼は「2回殺されかけた」のではなく、「2回死の運命を回避した」のです。しかし霊能者によってはらってしまったことで、3度目の死の運命は予告されませんでした。彼は、自身を救う機会をみすみす手放してしまったようです。

 今回のお話のテーマは「七人ミサキ」(お話の中ではミサキではなかったわけですが)。実際の伝承は作中の設定とは少し違い、ミサキは7人1組で、誰か1人を取り殺すと、うちの1人が成仏して代わりに殺された者の霊が新たなミサキとして加わるという、卒業と新加入を繰り返すアイドルグループのようなシステムを取る妖怪です。「ミサキ」という語はそもそも「御先」と字を当て、神霊の使い、降臨の予兆を指していたそうですが、「小規模な神霊」というイメージが各地で転化し、概ね「眼に見えぬ精霊で、触るれば人を害すべきもの」(柳田国男)を表す意味の幅広い言葉になったそうです。

 ミサキになるのは、水難事故の犠牲者や主君の不興を買って自害させられた武士、殺された旅人や平家の落人などバリエーションはさまざまで、いわゆる「六部殺し」譚や「船幽霊」伝説などと有機的に習合している例が多いのが面白いところです。

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


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