イチジョウは“20歳前後のつらかった俺たち” 『上京生活録イチジョウ』原作者&担当編集インタビュー(2/2 ページ)
Twitterで行っていた「上京生活録」というタイトルを伏せて何禄かを当てるキャンペーンの正解者はいたんですか? 当てた方に担当が御礼の電話をするという。
ドンズバはいなくて。よく考えたら確かに難しいですよね。でも、近い方がいらっしゃったのでその方に電話しました。めちゃくちゃ優しい方でした。
良かった。
イチジョウは連載まで来るのが大変だったという話を打ち合わせ中もよくしていたんですけど、なぜトネガワ、ハンチョウがやりやすくて、今回は悩んだかっていうと、原作で一条ってすでにブレてる。利根川や班長はポリシーがしっかりあるから、その裏側を描くとギャグになるんですけど、一条はすでに「バリバリいくぞ……いや、だめか」みたいな両面があるので、それをどう生かすかがめちゃくちゃ頭を悩ませました。
そのブレが一条の良いところですが、難しいところでもありますね。
はじめの数話はどういう方向性でいくのか模索しました。一条のキャラクターがつかめて、何を描けばいいかわかってからはわりとポンポンできています。もちろん難航するときはあって、それは大体一条が1人で話を進めているときで、深刻になりすぎちゃう。
なるほど。
ただただつらくなるだけで。だから、いかに村上やナレーションで一条をフォローしてあげるかを考えています。
以前にトネガワとハンチョウは萩原さん、村松さんの日記帳みたいなものだと伺いましたが、イチジョウはどんな感じでしょうか?
若い頃ってまだ未成熟というか、言葉をあまり選べないし、剥き身の自分と剥き身の相手でぶつかりあうところがある。まさに自分が上京したての頃そんな感じだったので、そのへんのことを思い出しながら、村松さんと昔話をして、それを種にしています。
等身大の若者らしさという意味では、大阪人とのすれ違いの回がすごく好きです。
僕と萩原さんに、大阪の人に煮え湯を飲まされた共通体験があって(笑)。
(笑)。自転車だと東京が意外と狭いと感じるところも、すごいリアルでした。自分の世代って、まだトネガワほど社会を経験していないし、ハンチョウのように休日を中年らしくエンジョイもしていない。イチジョウの若々しさは10代後半や20代に響くので、すごくうれしいなと思って読んでいます。
まさしく、そう読んでもらえるのがうれしいです。イチジョウって境遇を考えたらハンチョウより自由なのに、若さゆえにめちゃめちゃ精神が不自由ということを描いてるんです。大槻たちは地上に24時間しかいられないけど、一条・村上に時間制限はない。それなのに不自由に生きているのがままならない。
気持ちはわかります。焦りだけがあって……。
エネルギーもあるし、インプットもあるんだけど、アウトプットする手段がまだ与えられていない。なにやっていいのかわからないから膿んでくるというか。
自分の時代にはインターネットでアウトプットする選択肢があったので、一条が本編でTwitter始めたのはうれしかったです。こういう発言するよなって(笑)。
全員:(笑)。
萩原さんはmixiで積極的に動いて大変な目にあったことがあるんですよね。
上京したてで四畳半に住んでいたとき、全然友達もいなくて、これは自分から動かねばダメだと。そうしたらmixiで、女性からメッセージが来たんですね。ちょっと怖い気持ちもありましたが、会ってみなきゃわからない。漫画家を目指しているしネタになるかな、友達できるかな……と考えていたら、この先はイチジョウで描いた通り。ネタバレになるので詳細は伏せます。
(笑)。
つらい過去を漫画にして供養する、お焚き上げみたいな。
ハンチョウは楽しかった思い出で、イチジョウはつらかった思い出を……。
そうですね(笑)。ハンチョウを打ち合わせするときに重視していたのは“原初的な喜び”があるかどうかでしたが、イチジョウでは「あのときの俺たちを救いに行く」という思いがあって。20歳前後のつらい気持ちを抱えていた自分たちが、イチジョウによって救われるというか。
【原初的な喜び】例:目の前にでかいハムが置かれていたら単純にうれしい。
いいはなしですね……。連載にあたって、カイジ本編の再読、いわゆる“聖書研究”はしたんですか?
しました。一条が高校時代の同級生に会う回想があって、あそこがめちゃくちゃ一条濃度が高いんです。
ありましたね。なるほど、そこから膨らませて……。
あそこにはやっぱり詰まっていて。ちょっとトイレへと席を立ち、盗聴器を仕掛けて自分の悪口を聞く。「覚えておけよ」「オレが得たシェルターに…おまえら及びおまえらの家族は絶対に入れないっ……!」と。
村上も本編ではそこまで情報量ないはずなのに、とてもリアルになっていてすごいです。
やっぱり一条が若者特有の「成功しなければ」「出し抜かなければ」という業のようなものを背負ったキャラなので。一条自身は気付いてないかもしれないけど、村上という存在は対照的です。一条と一緒に居るにはそういう性格じゃなければ無理でしょう。
村上がいることで一条のキャラが際立つんですね。余談ですが、雑誌の表紙が遊び心あるというか、『きのう何食べた?』と似ていました。あれは連絡とりあっていたんですか。
【『きのう何食べた?』と似ていました】モーニングの人気料理漫画『きのう何食べた?』(よしながふみ)。21年8〜9号、13〜14号の表紙で、同作とイチジョウが妙に連動していたため、SNSで注目を集めていた
完全なる偶然みたいです。
表紙なので季節感を重要視するじゃないですか。連載開始時は冬だったんで、こたつでドテラ着てみかん食べてるのがいいんじゃないかとなったら、『きのう何食べた?』もたまたま同じシチュエーションで。
13〜14号で服の色が似ていたのはアンサーだったんですか。
あれも偶然です。春だから桜だろうと、漫画担当の三好さんがピンク色から逆算してキャラクターの服の色をカラーバランス的に選んでくれたと思うんですが、おそらく同じ理由で偶然被ったんだと思います。
おもしろいですね。いまモーニングはDCもやってて、『OH!MYコンブ ミドル』もあってカオス。雑誌的に元気な感じなんですか。
【DC】「スーパーマン」「ワンダーウーマン」「バットマン」などを生み出してきたアメリカの出版社DCコミックス。講談社と2019年秋から話し合いを重ね、モーニング誌上で2020年末から共同制作プロジェクトを開始した
【OH!MYコンブ ミドル】『コミックボンボン』で1990年〜1994年に連載していたグルメ漫画『OH!MYコンブ』(企画・監修:秋元康、漫画:かみやたかひろ)。前作から30年後の世界が舞台で、小学生だった主人公・コンブも40歳となって、酒の肴になる「リトルグルメ」を作る
元気だと思います。新作がみんな調子よくて。
それはとても素晴らしいですね。これからも期待しております。
いろいろとお話が聞けて面白かったです。ありがとうございました。
ありがとうございました!
ありがとうございました!
一言コメント
関連記事
- “安易ではないスピンオフ”はどう作られるのか 『1日外出録ハンチョウ』×『闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん』担当に聞いた
より面白いマンガが世に出てくることを切に……切に願うばかりである……! - 新海誠「『ハンチョウ』大好きなんです」→『君の名は。』パロディ回が圧倒的感謝の無料公開
大槻は陽菜のチャーハン作ってそう。 - 売上1億円超えのオタクホスト「阿散井恋次」さんとオタク話をしたら完全にガチ勢だった回
オタク対談初のゲスト。思いっきり意気投合しました。 - オタクたちがただ『五等分の花嫁』について語り合うだけの回
5人のヒロインが大人気の同作。5人のオタクが「推し」と「誰が花嫁か」について語った。 - カイジの謎スピンオフ「中間管理録トネガワ」でまさかの「黒服キャラ図鑑」大公開……って全員ほぼ一緒じゃねえか!
「どいつもこいつも紛らわしいっ」という利根川の気持ちが分かります。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
ryuchellさん姉、母が亡くなったと報告 2024年春に病気発覚 「ママの向かった場所には世界一会いたかった人がいる」
-
「見間違いかと思った」 紅白歌合戦「ディズニー企画」で起きた“衝撃シーン”に騒然「笑った」「腹痛い」
-
巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに……衝撃の経過報告に大反響 2024年に読まれた生き物記事トップ5
-
星野源がNHK紅白歌合戦で着用? 「1270万円ネックレス」に騒然 「家買える」「集中できなかった」
-
「衝撃すぎ」 NHK紅白歌合戦に41年ぶり出演のグループ→歌唱シーンに若年層から驚きの声 「てっきり……」
-
軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後……驚きの姿に大反響 2024年に読まれた猫ちゃん、ワンちゃん記事トップ5
-
大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→“子どもの予定は?”への回答に再注目 「優しすぎ」「素敵すぎる!」
-
大谷翔平、“2500万円超の高級車”ショットに恍惚 「カッコよすぎる」「助手席に乗せて下さい」
-
知らない番号から電話→AIに応対させたら…… 通話相手も驚がくした最新技術に「ほんとこれ便利」「ちょっと可愛くて草」
-
巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに…… 衝撃の経過報告に「死なないで」
- 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
- 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
- 「すごい漢字!」 YouTuberゆたぼん、運転免許証公開 「本名の漢字」に衝撃の声続々
- 「麻央さんにそっくり……」 市川團十郎の11歳息子・勸玄の成長ぶりに驚きの声 「大きくなってる!」「すでに貫禄がある」
- チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
- 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
- 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
- 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
- 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
- 「デコピンを抱き寄せたのはもしかして」 妻・真美子さん第1子妊娠発表で大谷翔平の発言と行動に再注目 「“もう帰る?”は気遣っていたのかも」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
- 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
- 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」