ある意味「ジョーズ」超えのサメ映画! 映画「ザ・スーサイド・スクワッド」レビュー(2/3 ページ)

» 2021年08月14日 12時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 しかも、人気キャラのハーレイ・クインが次々に人を血祭りにあげるときに「お花」が広がるドラッギーな演出があったり、前述したようにサメちゃんが人を食い殺しても「いっぱいおたべ!」と全肯定したい気持ちが生まれてきたり、「やべ!死んじゃった!」な状況そのものがギャグになっているなど、不謹慎も特売状態となっている。

 青少年の健全育成に適しているかは不明だが、何ごとにも我慢を強いられる現代社会の大人にとっては、スッキリ爽やかな清涼剤になることだろう。


元々「そちら側」の監督だった

 ジェームズ・ガン監督はアメコミ映画「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が特に有名だが、エログロナンセンスな内容でカルト的な人気を誇る「トロマ映画」の出身者であり、むしろこっちのグロたっぷりの方が本来の作家性とも言える。

ジェームズ・ガン監督と樋口真嗣監督の対談動画

 大金をかけたハリウッド大作、しかもファンも多いアメコミを原作とした映画で、ここまで「好きなようにやってね!」と許されて、作家性を爆発させ、そして絶賛の嵐となっているのは何とも夢のある話だ。

 そんなジェームズ・ガンが監督(クレジット無し)・脚本・製作総指揮・出演を手がけたトロマ映画「トロメオ&ジュリエット」が現在U-NEXTで見放題配信されている。こちらは露悪的な登場人物ばかり、物語にもクセがありすぎで、「そんな解決でいいのかよ!」という良くも悪くも驚きの展開で、正直あまりオススメしないが、その作家性の源流を知りたい方は見てみるのもいいだろう。

 さらに愉快なのは、この「ザ・スーサイド・スクワッド」におけるクライマックスが、「別のジャンル」へと転換していくこと。これは公式の宣伝や予告編でもアナウンスされているのだが、個人的には知らずに見てびっくりしてほしい。ここでも「ジェームズ・ガン監督、自分の好きな映画を好きなように作れて、本当に良かったね!」と笑顔になれた。

「命を使い捨て」にされる者たちの感動の物語

 そんな風にグロくて人の命が大売り出し状態になっていることは、実はテーマおよび物語と不可分でもある。主人公チームは自殺部隊という名の通り、重要な作戦という大義名分を盾にして「命を使い捨て」にされている。ポップな演出と良い意味でギャップのある「ひどい話」が前提にあるのだ。

 そんな、社会のはみ出しものどころではない、人間の尊厳などない状況に追い込まれていた彼らが、どのように自己実現を果たし、そして仲間との絆が生まれていくか? というドラマも見どころになっている。メインキャラは全員が終身刑のクレイジーすぎる悪党ではあるが、彼らはそれぞれトラウマを持っていたり、今の生き方にも悩んでいたりするが、譲れない矜持もある。そんな彼らが希望を探し見つけ出す物語は実に痛快で、そして大きな感動がある。

 つまり、劇中で人死にが冗談みたいに多いことは、ただ悪趣味なギャグというだけでなく、メインキャラたちの「人間性」を相対的に際立たせるために必要なことでもあるのだ。それもまた、グロいモンスターホラー「スリザー」や、中年男が通り魔になる「スーパー!」で、「上手く生きられない人」を優しく、でもシニカルに描いたジェームズ・ガン監督の作家性なのだろう。

人は間違いを犯してもやり直せる

 ジェームズ・ガン監督は、過去のSNSでの不適切なジョークが大問題となり、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3(仮題)」の監督から解雇されたことがある。それは客観的に見ても完全にアウトな発言であり、擁護はできないものだった。

 前述した通りジェームズ・ガンは悪趣味上等のトロマ映画の出身者であり、作品だけでなく、彼のパーソナリティそのものに、「不謹慎を売りにする」ところはあったのだろう。だが、昨今のいろいろな騒動でもわかる通り、現実における「許されない一線」は確かに存在している。処分としては致し方がないものではあっただろう。

 そんなジェームズ・ガンが、ライバルのDCコミックスを原作とした「ザ・スーサイド・スクワッド」の監督に抜てきされ、ものすごい製作費をかけ、作家性を全開にして作り上げたことは、劇中でどれだけうとまれようとも自己実現をしていくキャラたちの姿に重なるようでもあった。

 しかも、ジェームズ・ガンは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Vol.3」の監督復帰も決まっている。「人は大きな間違いも犯すが、それ相応の罰を受け、深く反省すれば、いつかはやり直せる」ことを、作品の内外で証明したといえるのではないか。

 そんな部分も含めて笑って感動できて、ポップなグロ描写に驚き、史上最高にかわいいサメちゃんに癒される「ザ・スーサイド・スクワッド」を、ぜひ劇場で楽しんでほしい。

ヒナタカ

おまけ

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