映画「100日間生きたワニ」レビュー 大方の予想を裏切る傑作 「カメ止め」監督が描いた“死と再生”(1/3 ページ)
映画版には、原作の炎上騒動に失望した人が「納得」できる理由があった。
2021年7月9日より、アニメ映画「100日間生きたワニ」が公開されている。
本作は、言わずと知れたTwitter発の漫画「100日後に死ぬワニ」を原作とするアニメ映画化作品だ。正直に言って、筆者は発表時に「この原作を映画化するってどういうこと?」「流行ったからって短絡的に映画化して成功するわけないじゃん」と、企画自体を疑問に思っていた。
だが、実際に映画本編を見て、その考えはガラリと変わった。内容に素直に感心した上、コロナ禍でこそ響くメッセージに冗談抜きに落涙し、「『カメラを止めるな!』(2017)の上田慎一郎監督またがやってくれた!」と褒めたたえるしかなかったのである。しかも、原作の炎上騒動に失望した人こそ「納得」できる理由も、本作にはあったのだ。大方の予想を裏切る傑作に仕上がった理由を、たっぷりと記していこう。
ネタバレ皆無でお伝えできる魅力はここまで!
まず本作の魅力はボイスキャストの豪華さにある。純粋無垢で天真らんまんな神木隆之介のワニと、ちょっと軽いようで実は誠実に恋路を応援してくれるネズミの中村倫也による、親友の掛け合いは永遠に聴いていたくなるほどの尊みにあふれている。他キャストの木村昴、新木優子、ファーストサマーウイカ、杉田智和などもバッチリとハマっている。彼らのファンも大いに楽しめるだろう。
63分という上映時間の短さも、筆者は大いに支持したい。この時間でキャラの関係性は存分に描けているし、過度にウェットな演出でテンポを削いだりもしない、全く過不足のない内容になっているのだから。
アニメーションとしては「ゆるめ」にも見えるが、だからこそ見ていて疲れない、アロマのようないやし効果も存分にあった。それでいて、作画の崩れなどがなく、背景も描き込まれた丁寧な作りであり、スクリーン映えする見せ場もしっかりと用意している。アニメーションディレクトを務めるのは「さらば宇宙戦艦ヤマト」「伝説巨神イデオン」などを手掛けたレジェンドアニメーター・湖川友謙だ。
さて、本作はできれば、これ以上の情報は一切入れずに見に行った方がいい。それこそ「なんかTwitterで流行ったけど、最後に炎上してぶっ叩かれたアレでしょ?」な印象のままの方が、意外な展開に衝撃を受け、そして感動できるだろう。
ここで伏せようとしている情報は、実は公式サイトや予告編でも示唆されているし、さまざまなインタビューで上田監督自身が既に明かしていることでもある。先に知ったとしても、大きく面白さを削ぐような仕掛けではない。だが、「カメラを止めるな!」と同様に、なるべく「まさか」の驚きを堪能してほしいため、筆者個人としては全く知らずに見てほしいのだ。
そんなわけで、本作を最大限に楽しみたい方は、公式サイトなどは「劇場情報」を見るのに留め、この記事もここまででストップ。
以下からは、本作についてより踏み込んだ紹介をしていく。重大なネタバレはしていないつもりではあるが、予備知識なしで作品を堪能したい方は、先に劇場で本編をご覧になってほしい。
※以下、本作の軽微なネタバレを含みます
大胆な構成と、映画オリジナルキャラの重要性
前述の通り、本作で多くの人が懸念していたことは、「そもそも映画化に向いていない」ということではなかっただろうか。何しろ原作「100日後に死ぬワニ」は死までの100日をカウントする、リアルタイムで1日ずつの投稿を待つTwitterのフォーマットありきの作品でもあったのだから。短い時間で一気に見る映画という媒体で、そのまま原作をなぞるだけでは面白くならないのではないか、という疑問は当然だろう。
だが、この映画版の構成は非常に大胆である。原作で描かれた「100日間生きたワニの日常の前半パート」(そこにも大いにアレンジあり)と、そこから映画オリジナルの「それから100日後の大切なものを失った仲間たちを描いた後半パート」の2つに分かれているのだ。
なるほど、さすがは上田監督、原作をそのまま映像化するような、凡百なアニメ映画を世に送り出すはずがないとは思っていたが、まさかの「カメラを止めるな!」をほうふつとさせる2部構成である。
その構成を存分に生かした脚本が、これまたとても良くできている。全編に渡り全く説明的になることなく、それぞれのキャラクターたちの心情の変化が見事に描かれている。そして、ワニが生きていた100日間の前半パートで積み重ねた伏線が、その死後における「変化」として次々に回収されていく。原作でも描かれた「何気ないギャグ」が、後半の映画オリジナル展開にもつながっていく流れにも大いに感動させられた。
何より、映画オリジナルキャラのカエルの存在がとても大きい。彼は「どうも、どもども どうもー!」とあいさつをする空気の読めないウザキャラであり、仲間たちの関係性に不協和音を生じさせるのだが……。詳しくはネタバレになるので避けるが、原作とは全く異なると同時に、その「延長線上」にもある、尊いメッセージを受け取ることができたのだ。
なお、そのカエルを演じたのは、上映中の「ヒノマルソウル〜舞台裏の英雄たち〜」と「東京リベンジャーズ」にも出演している山田裕貴。普段はマジメな役もこなす彼が、心の底から「ウザッ……!」となるイライラと、「こいつ、実はそんなに悪いやつはではないのかも?」と希望も感じさせる、絶妙なバランスの好演をしている。山田裕貴の新境地を堪能したい方も必見だ。
コロナ禍を受けて生まれた2部構成
上田監督は原作である「100日後に死ぬワニ」から、映画の「100日間生きたワニ」へとタイトルを変えた理由について、「死という言葉を避けたわけでも、ワニが生後3ヶ月しか生きなかったという意味でも、大人の事情があったわけでもなく、新しい物語に合う、新しいタイトルに変えた」のだと明言している。これはどういうことだろうか?
実は、前述した2部構成は、制作が始まった矢先に新型コロナウイルスの感染拡大で世界が一変したことを踏まえ、上田監督自身が脚本を大幅に書き直したからこそ生まれたものでもある。
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