映画「シャン・チー」レビュー シリーズで1、2を争う面白さにぶっ飛ばされる傑作(2/3 ページ)
ストーリーで面白いのは、敵の大ボスが「自分を育て上げた実の父」であること。シャン・チーは肉親への情もなきにしもあらずだが、自分の親しい人や世界をも巻き込む陰謀を企む父に反発し、ある理由から殺害も辞さないほどの感情を抱くようになる。
荒唐無稽なヒーロー映画でありながら、「毒親」に対しての複雑な感情を描く物語にもなっているのだ。
これだけ聞くと重く苦しい話にも思えるが、実際はコメディー色も強めで、大いに笑いながら見られるのも本作の良いところ。その理由の筆頭が、シャン・チーの親友を演じる、ラッパーであり、「オーシャンズ8」(2018)や「ジュマンジ/ネクスト・レベル」(2019)などでもインパクト抜群な役を演じた女優のオークワフィナだ。
劇中でオークワフィナが演じるのは、いつもジョークを絶やさない明るい性格で、それでいて間違ったことに対しては毅然として抗議もしたりする、シャン・チーとっては心から信頼をおける存在だ。
シャン・チーは当然のように自分1人で実の父と戦うことを望むのだが、彼女はそんなことを許すはずがなく同行する。その後も「親友以上恋人未満」な関係性が続き、オークワフィナの一挙一動が常に面白いのでついつい笑顔になってしまう。
さらに、途中からはめちゃくちゃ強いシャン・チーの実の妹も登場する。「平凡なホテルマンかと思ったら犯罪組織の最強の後継者」「彼のことを心から心配する明るいサバサバ系な親友」「クールで超強い妹」という、ヒーロー映画の中でも異色なパーティーメンバーの掛け合いが楽しい。きっと、彼らの冒険をワクワクしながら見られるはずだ。
余談だが、MCUでは実力派の監督を抜擢し、その資質がばっちりと合う作品に起用することが多い。今回の「シャン・チー」のデスティン・ダニエル・クレットン監督は「ショートターム」(2013)や「ガラスの城の約束」(2017)で、「親に恵まれない子どもたちの話」を描いていた。今回のような毒親との確執を描く物語には最適な人選だったと言えるだろう。
また、本作は物語がほぼ独立しているのでMCUを全く見ていなくても問題なく楽しめるのだが、一方でMCUを追ってきた人だけが楽しめる要素もある。例えば、犯罪組織「テン・リングス」はシリーズの原点である「アイアンマン」(2008)において、主人公トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)を拉致していたのだが、今回は「ある登場人物」が……いや、これ以上はネタバレになるので、秘密にしておこう。
「実験」ではない、シリーズ屈指のクオリティー
7月に公開されたばかりの1つ前のMCU作品「ブラック・ウィドウ」は、コロナ禍のために劇場公開とほぼ同時(日本では翌日)に「Disney+」で配信がスタートする措置が取られた。一方、今回の「シャン・チー」は45日間の劇場での上映後の配信となる。このことをディズニーCEOが「興味深い実験」と表現したため、シム・リウは「私たちは実験じゃない」と強く反発するコメントをTwitterに投稿した。
「実験」と称したのはあくまで「コロナ禍における45日間先行の劇場だけの公開」という戦略のことであり、「シャン・チー」が初のアジア系のヒーロー映画であることへの揶揄ではないだろう。だが、差別的な響きを含み、何よりも「全力で作り上げた」作品に対してのこの発言に、シム・リウが憤りを覚えるのも当然だ。
実は筆者もシム・リウと同じぐらい怒っている。それはこのCEOの発言にだけでなく、本作がアクションもストーリーもMCUで1、2を争うほどの出来栄えにもかかわらず、世間の関心や反応があまりに低いように思えるからだ。
コロナ禍のために仕方のないところもあるだろうが、続くMCU作品の「エターナルズ」(11月5日公開予定)と「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(公開日未定)のほうにばかり注目が集まり、こちらがあまりに軽んじられていると思えてならない。
何しろ、この「シャン・チー」は「めちゃくちゃ面白い!」のだから。確かに、劇場で見られる短い予告編やポスターだけでは地味な印象を受けるかもしれないが、「本編も微妙かな?」「今回はいいや」などとは思ってほしくない。見ればきっと、主演のシム・リウやその親友役のオークワフィナの圧倒的な魅力、全編のアクション映画としての派手さとハイクオリティーぶり、さらに「予告編でいっさい見せていない大スペクタクル」などで、「こんなにすごい映画だったんだ!」と感動を覚えるはずだ。
物語がいったんの区切りを迎えた「アベンジャーズ/エンドゲーム」の後に、「ちょっとMCUへのテンション落ちたかな……」と思っている方も、「戻ってくる」こと必至だ。ぜひ、劇場の大画面でご覧になってほしい。
(ヒナタカ)
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