子どもの方が、作り手より「心がエリート」 映画「クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」高橋渉監督&脚本うえのきみこインタビュー(1/5 ページ)

コロナ禍に生きる子どもたちへ伝えたいことがあった。

» 2021年08月21日 19時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 現在、「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」が劇場公開されており、各方面から大評判を呼んでいる。いかに本作が優れた作品であるかは、先日のレビュー記事を参考にしてほしい。

「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」特報

 今回は高橋渉監督と、脚本家のうえのきみこへのインタビューをお届けする。魅力的なキャラクターの制作秘話、影響を受けたミステリー作品、しんのすけと風間くんの関係性にスポットが当たった理由など、たっぷりとお聞きしたので、作品をさらに楽しむための補助線になれば幸いである。

※以下からは「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」のネタバレが含まれている。「犯人が誰か」など核心的なネタバレには触れていないが、未見の方はご注意いただきたい/※高橋渉の高は、はしごだかが正式表記

青春というテーマと、魅力的なキャラクターのあれこれ

――「全ての青春を過ごした人にささげる」作品のメッセージが素晴らしかったです。ご自身はどのような青春時代を過ごしていましたか?

高橋渉監督(以下、高橋) 僕は中学校も高校も「カス組」にいた机で寝てるメガネの生徒みたいな感じでした。青春を感じていたのは、日本映画学校(現・日本映画大学)に行ってからですね。

うえのきみこ(以下、うえの) 私は名もなきモブキャラで、何もない、何も起こらない感じの青春で、本当に何も言うことがないくらいなんですよ。

――映画本編は、生物部部長の「ろろ」ちゃんのように、そうしてキラキラした青春を過ごしていなかった人にも向けられていますよね。そのろろちゃんも含め、キャラそれぞれが本当に魅力的でした。彼ら彼女の裏設定や、「こういう子なんだよ」ということがありましたら教えてください。

高橋 作ってはいたけど、盛り込めなかった設定はあります。例えば、ろろちゃんは南の国から来た留学生だったとか、番長が初等部からあんな感じだったとか、ですね。

コロナ禍の子どもたちに伝えたいことがあった「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」高橋渉監督&うえのきみこインタビュー (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021

――そのろろちゃんはネットで、「もののけ姫」のサンが数字では「3」と書けるから、同じく野性的な少女だから倍の「6」に値するろろというネーミングにしたのではないか、という説がまことしやかにささやかれているのですが、いかがでしょうか。

高橋 すごい、そのつながりがあることには気付きませんでした。ろろちゃんは、風間くんのダイイングメッセージ(※風間くんは死んでない)である「33」からひらめいた名前なんです。

うえの そんな説があるんですね。ご想像と違っていて申し訳ないですが、面白いです。

――番長の「素顔」がああなっていたのも面白かったですね。

高橋 どんな素顔だったら面白いかな? というのはうえのさんといろいろと考えていましたね。例えば「鉄仮面を取ったら鉄仮面と同じ形の顔をしていた」とか。

うえの ずっと鉄仮面を被っているから、色白なんだろうなとも思っていました。

――スミコ先生も魅力的でした。彼女が、授業中のしんのすけと風間くんのやりとりを見て笑っているシーンがあるのですが、ひょっとして彼女にも似たような青春時代があったり、友達がいたりしたのでしょうか。

高橋 スミコ先生は「地顔から笑っている」ようなキャラだと思うんですよ。学園長に叱られた後にも、実は笑顔になっていたりもする、そんな性格でもあるんです。

――キャラクターだけでなく、青春映画としての演出も素晴らしく、特に夕日が差し込む廊下のシーンが印象的でした。

高橋 学園ものならではの空気感が味わえるシーン、例えば「屋上」という舞台を盛り込みたかったんですけど、なかなか入らなかったので、その廊下のシーンに集約したという感じですね。夕方の廊下は自分の情景というか、自分の青春時代を思い起こす場所でもあったんです。

「逆転裁判」や「サスペリア2」の影響も?

――ミステリーとして本当に面白かったです。何か参考にされた作品はありましたか。

高橋 シナリオを書くにあたって、特にコレだというものはありませんでした。ただ、僕が子どもの頃に読んでいた本の影響はあったかもしれないですね。

 赤川次郎の「三毛猫ホームズの騎士道」やアガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」とか、ミステリー用語で言うところの「クローズドサークル」の作品が好きで、今回の学園という閉鎖された場所で、事件が起こる物語ができればと思ってました。

 あとは、ちょっとポンコツな人たちがコミカルな推理をしているのも好きで、それはゲームの「逆転裁判」の影響もあったかもしれないですね。ああいう雰囲気がクレヨンしんちゃんでも盛り込めたらいいなと思っていました。

コロナ禍の子どもたちに伝えたいことがあった「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」高橋渉監督&うえのきみこインタビュー (C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2021

うえの 参考にしていると言うとおこがましいし、参考にできているかは分からないのですけど、「サスペリア2」という映画の「実はぜんぶ映ってた」ができたらいいなと。

――なるほど、「サスペリア2」は「映っているものをよく見たら気付ける」仕掛けがあって、今回の映画も「よく見ていたら真相が分かる」、2回目を見たら「あ〜っ!」と気付けて感動が増すものでした。

うえの そう言っていただけてよかったです。

しんのすけと風間くんの関係性が描けるチャンスだった

――しんのすけと風間くんとの関係性の描き方が素晴らしかったです。やはり原作の43巻(アニメでは「オラの心はエリートだゾ」)も意識して、そちらにあった風間くんの言葉を盛り込まれたのでしょうか。

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