「CUBE 一度入ったら、最後」レビュー 特殊な事情で作られた「案外悪くない」日本版リメイク(1/2 ページ)
コロナ禍により実現した日本版「CUBE」。
「CUBE」のリメイク、しかも日本で――と聞いて、悪くないな、と感じたのは筆者だけではないかもしれない。無数に連なる立方体という非常にシンプルな舞台は低予算で設計可能。死の空間に複雑なストーリーテリングは必要なく、役者の演技力で場面を引っ張りつつ、合間に人間模様を見せていけば物語は完成する。原作となるナタリ版がシンプルであればこそ時代性を問わず、新しい観客にその驚きを届けることができるはずだ、と。
本作の原案となる「CUBE」はカナダの映画監督、ヴィンチェンゾ・ナタリによる四半世紀前のカルトホラー映画。謎のキューブ型建築物に閉じ込められた男女6人が脱出を目指すも、徐々に相互不信に陥り、互いの思惑がねじれて悲劇的な末路に進んでいく。同監督の短編映画「ELEVATED」をより不条理に進化させた作品は、その低予算に対して世界的なヒットとなった。
続編である「CUBE 2」「CUBE ZERO」では超技術を元に4次元的空間となったキューブを利用する組織、またキューブを“運営”する側の存在が描かれ、評価は散々だがいずれもナタリはノータッチ。公開されている本作のデジタルブック内インタビューでもことさらに「関わっていない」と言い続けている以上、ナタリ自身も気に入っていないのだろう。
それらの「CUBE」と比べ本作はナタリ公認……もとい、企画はハリウッド発である。本来は「セブン」や「アイアンマン」シリーズ、「GODZILLA」(2014)のタイトルバックを手掛けたカイル・クーパー率いる海外監督・撮影チームが「日本を舞台にしたCUBE」を想定して製作する予定だったものの、コロナ禍の影響で来日が不可能に。結果的にクーパーの企画資料をもとに現在の製作陣にて撮影・製作が行われたということもあり、きっちりと正しくリメイクとしての役割を果たしている。
冒頭に描かれる男の死に加え、素数やデカルト座標をもとにしたトラップルームの解析、登場人物同士の対立といった基本要素はそのままだ。ただしハリウッド版「REC レック/ザ・クアランティン」やマキノフ版「ザ・チャイルド」のように“原作と全く同じ”であれば、そこにリメイクが行われる必要はない。現にナタリ自身、アメリカでのリメイク企画に“オリジナルと同じものになりそうな感じがしたから興味が持てなかった”とコメントしている。
今回キューブ内部のキャラクター配置は原作とは全く異なり、数学の天才や陰謀論者、正義に熱い警察官は登場しない。会社役員、バイトの青年、ただの学生といわゆる日本的な登場人物に置き換えられ、結果彼らの対立も非常に飲み込みやすいものになっている。
限られた舞台の中、どうしても評価の中心とならざるを得ない役者陣の演技はいずれも悪くない。特に徐々に追い詰められていくフリーター役・岡田将生と、彼に高圧的な態度を取る会社役員・安東役を演じる吉田鋼太郎の関係は、それこそ2013年放送のドラマ「カラマーゾフの兄弟」での空気に似た、理由のある強い不愉快を観客に与えることに成功している。
納得しがたい、どうにかできなかったと思うシーンは確かに多数ある。原作では抑えられていたBGMの多用や、いかにも日本映画的な死や別れをことさらに悲劇的に描く演出、キューブ外での出来事を描いてしまい緊張感を欠く回想シーン、後半の展開。しかし今「CUBE」を再映画化する上で意味のあるものを脚本に持ち込んでいるのは非常に良いポイントだ。
それを時代の閉塞感と呼んでしまうのは陳腐であるし、そもそもの不条理さをウリにしている「CUBE」の魅力からは脱線しているともいえるが、日本版を製作するうえで明確なメッセージ性を盛り込んでいるのはオリジナリティーとして強く評価したい。
清水監督の過去作や「チーム万力」名義での諸作品に見られた少々とっつきづらいアート性もほぼ抑えられている。原作と並ぶ傑作ということは決してできないし、求めていた原作本来の悪趣味さに関してはやはり足りないものが目立つ。しかしきっちり仕上がっていると言っていいだろう。
「海外原作の日本リメイク」という手法がドラマ・映画で行われるようになって久しい。さきに触れた「カラマーゾフの兄弟」、三谷幸喜の「オリエント急行殺人事件」、「24 Japan」、近年では「夏への扉 ―キミのいる未来へ―」などがあげられる。中には「今更これか……」という作品もあるものの、このような流れ自体は喜ばしいことだ。
原作を輸入して国内向けにリメイクするのはそれこそハリウッドのお家芸であり、作品選びを間違えなければそれ自体が非難されることではない。むしろ、とにかくSHERLOCKを意識した「臨床犯罪学者 火村英生の推理」や、「セブン・シスターズ」「ジョナサン ふたつの顔の男」を元ネタにしているとしか思えない「水曜日が消えた」のように、オマージュの域を超えたインスパイア作品を無断で作るよりはよほど誠実である。
本作においてはその企画の成り立ちからかなり特殊であるものの、このような意義のあるリメイク作品については、強く歓迎したい。
(将来の終わり)
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