「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」ネタバレなしレビュー 史上最高の“「子ども時代の終わり」映画”(2/3 ページ)
ワッツ監督の言葉通り、今回の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の物語およびピーターの葛藤は「強大な敵をやっつけて解決できる」ような単純なものではない。もちろん詳細は書けないが、本作は複雑な選択を迫られることに対して、「親愛なる隣人」としてのスパイダーマンというヒーローだからこそ、そして前述してきた特徴を持つ「トム・ホランドが演じたスパイダーマン」だからこその、見事な回答をしてみせた、ということだけは告げておこう。
その結末は、スパイダーマンというヒーローへ思い入れがある方ほど感動ができるだろうし、「子ども時代の終わり」を描いた映画としても史上最高だと断言できるほどのものだったのだ。そしてそれは、責任を持つこと=大人になることという寓話としても読み取れるだろう。
ジョン・ワッツ監督の作家性のアップデート
「ホーム」3部作におけるピーターは、いつも「おじさんのせいで大変な目に遭わされる」ふびんな子どもだった。この点は、ワッツ監督の過去作を振り返ると、彼の作家性が表れた部分だったことが伺える。例えばホラー映画「クラウン」はピエロの衣装が取れなくなった男が子どもたちを惨殺していく話であったし、サスペンスアクション映画「コップ・カー」も生意気な悪ガキ2人を追い詰めるべく悪徳警官が奔走する内容だった。
そんな「子どもVS大人」の作家性に、今回の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」ではアップデートが見て取れる。何しろ、他の宇宙のヴィランたちを呼び寄せてしまったのは、ドクター・ストレンジのせいだけでなく、ピーターが自身の記憶を消してくれと頼んだときに、優柔不断にあれこれと要望を付け加えたせいなのだ。
これまで大人のせいで翻弄されまくりだった子どものピーターが、前述した通り「自分でまいた種だから自分で責任をとって解決しようとする」成長が見られるのだ。これまでのジョン・ワッツ監督作品では「だいたい大人が悪いじゃん」と良くも悪くも思えることもあったのだが、今回は子どものピーターにも重大な責任を負わせており、それがスパイダーマンというヒーローの真髄と、「子ども時代の終わり」につながっていくのが見事。何より、ワッツ監督の作家性そのものが進歩し、だからこそアメコミ映画史上最高の名作が誕生したと心から思える感動があったのだ。
登場人物が知らないことを、我々観客は知っている
映画のテクニックに「登場人物が知らないことを観客が知っている」というものがある。それは例えば、「殺人鬼がいるところに誰かが向かってしまっている」というハラハラドキドキのサスペンスとしても利用できるものだ。
今回の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」では、このテクニックが最高の感動を呼ぶ。スクリーンの中の登場人物は「そうは思っていない」のだが、映画を見ている、これまでの出来事を全て知っている我々観客だけは、映画の中の彼らとは違う心理を呼び起こされるために、もう涙がとめどなくあふれるほどに心を突き動かされるのだ。
本作はもちろん、派手な見せ場のあるアクション映画としての魅力も大きい。だが、それよりもさらに心に残ったのは、やはり「子ども時代の終わり」を迎えた、「親愛なる隣人」にして、「大いなる力には大いなる責任が伴う」格言を持つスパイダーマンというヒーロー、そしてピーター・パーカーという1人の少年の成長のドラマだったことだ。今はただ、スパイダーマンが大好きでよかった、この映画を作ってくれてありがとうと、感謝を告げたい。
おまけ:同日にちょっと似た作品が公開されている
くしくも、この「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の日本公開日である1月7日に、相反しているようで似ている中国映画「こんにちは、私のお母さん」が公開された。
こちらの物語は、母と共に巻き込まれた交通事故をきっかけに、20年前の1981年にタイムスリップするというもの。過去で家族や友人のために孤軍奮闘する内容であるため、母娘版「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とも呼べるだろう。
「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」との共通点は、大学進学間近の高校生が主人公であること。そして、ピーターが大学不合格の通知を見て失望するのに対して、「こんにちは、私のお母さん」のダメダメな主人公は母親を喜ばせたいがために合格の通知を偽造してしまうことである!
タイムスリップとマルチバースという違いがあるものの、「異なる世界を描く」SFとしても似ているし、「こんにちは、私のお母さん」もまた全世界で950億円の興行収入を記録したメガヒット作であったりする。何より、こちらはケラケラと楽しく笑えるコメディにして、思いがけない感動もある、タイムトラベル映画の快作だった。ぜひ、新年に相応しい景気の良い映画として、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」と合わせて劇場で楽しんでほしい。
(ヒナタカ)
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