「高瀬舟」や「山月記」 シュールな“浮世絵風あるあるネタ”で人気のイラストレーターが名作を漫画化、その狙いは?(2/3 ページ)
親しみやすさを考えたチョイス
『山田全自動の日本文学でござる』では日本文学をテーマに、誰もが一度はタイトルを聞いたり、作家名を聞いたりしたことのある作品が取り上げられています。特に、現代的な感覚でも親しみやすいという観点で「近代文学」(明治〜昭和)を中心に選んだとしています。
メインターゲットとしては山田さんのファンが多い、シュールな笑いや味のあるイラストを好む20代後半〜40代前半くらいの女性を想定。さらに、知的好奇心が旺盛な人や、読書や文学好き、サブカルファンなどもターゲットとしているそうです。
当初は、シュール、エキセントリック、シニカルなテイストの作品を中心とした、よりサブカル色の濃いラインアップにする方向性もあったといいます。しかし山田さんから「誰もがタイトルを聞いたことがあったり、作家について知っているような有名な日本の文学作品」というコンセプトの提案があり、現代の感覚でも親しみやすい作品を選定。
山田さんは同書のプロローグで「初めて読む文学作品の内容がよくわからないと落ち込んだ」という経験を記しています。それゆえに、わかりやすさや親しみやすさにこだわったのかもしれません。「文学初心者も満足できるよう知名度の高い作品を取り上げるとともに、文学ファンも楽しめるよう、テーマやジャンル、時代設定の幅が広くなるようセレクトしました」と担当者は述べています。
もともとの山田さんの作風と親和性の高い「東海道中膝栗毛」のように滑稽な描写の多い作品だけでなく、イメージとは遠く感じる「蟹工船」のような社会派作品や、「刺青」のように耽美的なフェティシズムがテーマとなった作品、さらに「風立ちぬ」の切なさ、「人間椅子」の不気味さ、「人間失格」の陰鬱さを感じさせる作品も収録。バラエティに富んだラインアップとなっています。
気軽に読める程よい長さ
担当者に特に読者にお勧めしたいポイントを聞いたところ、「山田さんの親しみやすい世界観」「わかりやすい表現」、そして「ボリューム」が挙げられました。
「各作品10〜12ページ程度とコンパクトなボリュームなので、原作を読んだことがない人にも、気軽に物語を楽しめるような漫画作品となっています。『夜明け前』のような長編作品も『注文の多い料理店』のような短編作品も、おおむね10〜12ページ程度の漫画に仕上がっています」
本編に加え、作品に関するこぼれ話や作者たちの人物像などがわかるコラムにも読み応えがあるとのこと。「各作品ごとに、より深く楽しめるようなこぼれ話、たとえば『檸檬』に登場する店や、『こころ』はBL作品ではないかという議論、文豪たちの人物像や作品世界の解説も収録しています」。また、山田さんらしい「文学あるある」も収録。
同書を作り上げる中で、担当者は、原作を読んだことがある作品に、以前とは違う印象を受けることがあり、興味深く感じたと話します。既にストーリーを知っている話でも、山田さんのフィルターを通すことで「ある文学作品に対して感想を言い合ったり、意見交換をするような感覚にも近く、原作の新たな魅力が発見され、いっそう深みのある読書体験ともなるように感じました」といいます。
山田さんのファンも、これから日本文学を読み始めたい人や一度挫折して再トライの人、読んだことのある人にも目が行き届いた一冊。文学好きな山田さんの世界を通じて、もっと文学の世界を楽しめそうです。
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