「シン・仮面ライダー」ネタバレレビュー それぞれの「孤独」と向き合う優しさ(1/2 ページ)
もっとも深い「業」を背負ったのは緑川ルリ子なのかもしれない。
「シン・仮面ライダー」が公開中だ。本編の内容はもちろん、賛否両論の意見がネット上でたくさん交わされることでも「庵野秀明監督らしさ」を感じられる本作。リアルタイムで追う面白さが間違いなくあるので、ぜひ劇場で目撃してほしいと願うばかりだ。
ここでは、キャラクターそれぞれが「孤独」を背負っていることを踏まえ、ネタバレ全開で物語を読み解いてみる。
※以下、「シン・仮面ライダー」の結末を含むネタバレに触れています。また、石ノ森章太郎による漫画版のネタバレも含みます。
緑川ルリ子の孤独:家族と友人を殺そうとする
劇中のキャラクターの中で、もっとも深い「業」を背負っているのは、緑川ルリ子ではないだろうか。彼女は父である緑川弘博士を亡くした上、兄のイチローと、唯一の友人と呼べるハチオーグの殺害をもくろんでいるのだから。彼女は進んで家族も友人も失うという、「天涯孤独」への道を自ら選んでいる。
そもそも、ルリ子は「人工子宮によって生み出された生体電算機」であり、「エヴァンゲリオン」の綾波レイを思わせる「作られた存在」だ。ともすれば、彼女は「普通の人間とは違う」という疎外感も持ち合わせていたのかもしれない。
また、仮面ライダーこと本郷猛はもともと人間ではあるが、緑川博士に「勝手に作られた(改造された)存在」である点でルリ子と一致している。ルリ子は緑川博士への恩義を語る本郷に「あの男(緑川博士)のエゴをそこまで肯定的に受け取るとは、おめでたい男ね」と辛辣な物言いをしていたが、そこには「緑川博士への憎しみを共有したかった」との想いもあったのではないだろうか。
加えて、ルリ子はハチオーグにとどめをささなかった本郷と、同様の行動原理をも持っているとも言える。ルリ子はハチオーグの殺害を決意しているようで、実は彼女が生きたままショッカーを辞め、分かり合えることを願っていたのだから。
ルリ子は、境遇が似ているところもある本郷とバディを組み、共にショッカーの殲滅を目指す「戦友」となることで、つかの間でも孤独であった自分を癒せたのかもしれない。
一文字隼人の孤独:ひとりでいることも好きだが、友達も欲しかった
一文字隼人は「好きであることが行動基準」と公言する、ニヒルかつ軽妙な性格であるため、他キャラクターと比較すると悲壮感は少ない。群れることを嫌うジャーナリストで、趣味のバイクは「孤独を楽しめるから好きだ」とも言っていた。彼は「ひとりでいるのも悪くはない」と、孤独を包括的に肯定する立場でもある。
隼人と本郷はあらゆる点で正反対のようにも思えるが、コミュ障かつ無職の本郷もまた群れることが苦手だと容易に想像できるし、バイク旅での野宿を「不便だが面白い」と言っていたことからもかなり近い性質を持っていることがうかがえる。本郷と隼人は、親友になれそうな、似た価値観を持ち合わせているのだ。
隼人が「優しいやつは嫌いじゃないが、優しさと弱さは紙一重だぞ」とも語ったように、本郷は作中でしばしば「優しすぎる」との指摘がされていた。一方で、ショッカーの洗脳が解かれた際に涙を流していた隼人もまた、人の痛みに敏感な優しい人物のように見受けられた。
隼人が本郷の死を目の当たりにし、「なんだ、結局ひとりかよ」とこぼしたのは、(自分と同じように優しく、バイクの趣味も合う)本郷と親友になれたはずなのに……という無念も間違いなく込められている。
その後、隼人は「まあいいさ、人間、生まれる時もひとり、死ぬ時もひとりだ」と諦めのような言葉も口にしていた。彼は孤独を愛してはいるが、孤独であることに一抹の寂しさも抱いている。隼人が本作で屈指の愛されるキャラクターになったのは、彼がこうした孤独へのアンビバレントさという、普遍的な心理を抱えていたことも間違いなく理由にある。
オーグたちの孤独:人類の幸福を目指すアプローチがバラバラ
本作ではショッカーの構成員ことオーグたちの孤独もまた描かれている。まず、“SHOCKER”という組織名は「人類の持続可能な幸福を目指す愛の秘密結社(Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling)」の略称であり、それは組織全体の指針そのものだが、オーグはそれぞれ完全に単独行動をしていて、そのアプローチもバラバラだ。
例えばコウモリオーグは疫病を流行らせ優れた人間だけ選別する優生思想的な計画を、ハチオーグは全人類を奴隷化し完璧に制御された管理社会を、イチローことチョウオーグは全人類を本音でしか語り合えない「ハビタット世界」に送ることを目的にしている、といった具合だ。
オーグそれぞれの人類を幸福へ導くための独善的なアプローチは、自身の幸福への考えを他人どころか全人類に押し付けようとしているにすぎない。それは、“政府の男”の「絶望の理由は人それぞれ、乗り越え方もそれぞれだ」という言葉と相反するものでもある。
翻って、彼らが組織に属していながらも、独善的な行動原理のためにそれぞれの孤独を深めていた、悲しい悪役たちにも思えてくる。
また、ハビタット世界はどうしたって「エヴァンゲリオン」の人類補完計画を思わせるが、それに対しルリ子が「俗に言う地獄よ」とはっきり告げることに本作の迫力を感じる。ほぼ一貫して作品の中でディスコミュニケーションの問題を描いてきた庵野秀明監督が、コミュニケーションの問題が存在しない世界を完全に否定したのだから。
本郷猛の孤独:暴力を押し付けられても優しさを貫く
本郷は勝手に改造され、暴力を制御できない存在にされた悲しい人物だが、そのことに憤ることはほぼなく、常に他人のために尽くそうとする。例えば、全人類を巻き込むショッカーの計画は、ルリ子にとっては「家族の問題」でもあるのだが、本郷はそれに対しても「もう巻き込まれている」などと言ってのける。
たびたび「優しすぎる」と評される本郷は、その優しさゆえに、やはり孤独だったのだろう。そして、同じく「親を殺された」共通点を持つイチローとは合わせ鏡のような存在でもある。それでも優しいままで、ルリ子や隼人と想いを同じく共闘できた本郷は、やはり一時的にであれ、孤独ではなかったのだろう。
想いを受け継ぐことで、人は孤独ではなくなるのかもしれない
「シン・仮面ライダー」の結末は、隼人が「(本郷と)ふたりでショッカーと戦おう」と宣言する、石ノ森章太郎の漫画版を踏襲したものだった。これから隼人が「ひとりじゃない」まま戦いに身を投じる、その後の活躍を想像したくなる、切なくも感動的なラストだ。
劇中の生命エネルギーである「プラーナ」は、ほぼ魂のような状態で存在し得ることが示されている。つまりファンタジーの設定ありきの結末とも言えるのだが、実は現実にもフィードバックできる考え方でもあるように思う。
なぜなら、劇中でルリ子が動画で遺言を遺していたように、「想いを託す/受け継ぐ」ことは現実でもできるからだ。遺した言葉は決してなくならないし、ルリ子が「(ヒーローとしての象徴の)マフラーが似合っていて良かった」と直接伝えられたことは、本郷とルリ子にとって双方の救いになっていたはずだ。
何より、「想いを同じくする人がいる」ことを知り、その想いを受け継ぐことができれば、人はたとえひとりでいても、実は孤独ではないのではないか。そう考えれば「シン・仮面ライダー」の物語は決して絵空事ではない。誰もが遭遇する親しい人の死を経ても、「ひとりじゃない」ことを肯定できる、とても優しい結末だったのだから。
(ヒナタカ)
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