「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」レビュー 挑戦的なテーマの確かな意義、だが危うさが付きまとう理由(1/3 ページ)

作り手のプレッシャーと原作リスペクトが大いに感じられた。

» 2023年03月11日 11時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 3月3日より「映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)」が公開されている。

「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」レビュー 挑戦的なテーマの確かな意義、だが危うさが付きまとう理由 「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」ポスタービジュアル (C)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023

 まず、本作は後述する今日的かつ挑戦的なテーマに、果敢に取り組んでいる。前作「のび太の宇宙小戦争2021」もそうだったが、おそらくは作り手も想定していなかった、タイムリーな内容になったと言っていいだろう。

 現在、映画.comとFilmarksでは3.9点を記録するなど、観客からの評価も高い。劇中で提示されるメッセージが良い意味で響いたり、親子で話し合うきっかけになるのであればとても喜ばしいと思う。

 だが、申し訳ないが、個人的には悪い意味での危うさや居心地の悪さを伴う、問題のある作品との指摘もせざるを得ない。以下、中盤のどんでん返し的な展開に触れることになるが、ご容赦いただきたい。

「映画ドラえもん のび太と空の理想郷」予告編

※以下、結末のネタバレはありませんが、中盤のネタバレを含みます。また、「ONE PIECE FILM RED」の一部ネタバレにも触れています。

夢をかなえてくれる「ドラえもん」でユートピアを描くという挑戦

 本作のあらすじは、空に浮かぶ謎の三日月型の島を見つけたのび太が、ドラえもんたちと共にその島を探しに出かけ、やがて誰もが「パーフェクト」になれる夢のような楽園「パラダピア」にたどり着くというもの。

 劇中で出木杉くんは「ムー大陸」や「竜宮城」など世界中にユートピアの逸話があり、それは完全に絵空事ではないのかもしれないという「可能性」を語っていたりもする。現実にある伝説や事象をベースにした冒険に旅立つというのは映画の「ドラえもん」の定番であるし、なかなかワクワクできる導入となっていた。

 そして、中盤では表向きには誰もがパーフェクトになれるというパラダピアで、実際は住民たちに洗脳が行われているという秘密が明らかになる。「光」を浴び続けたジャイアン、スネ夫、しずかがいつしか敬語を使うようになり、通り一辺倒の「良い子」になってしまう様はホラー的でゾッとさせられる。


 劇中のパラダピアは全体主義的な国家、あるいは日本でも問題となっているカルト宗教を連想させる。「表向きはユートピアとされていた場所が実はその逆のディストピアだった」というのはSFの定番の型ではあるし、2022年に大ヒットを記録した「ONE PIECE FILM RED」にも通じるポイントだった。

 そして、「パーフェクト至上主義」的な洗脳が行われる場に対して、人にはそれぞれ欠点があるように見えるが、それは決してダメなだけではない、「その人らしさ」でもあるのだというのが本作の主張だ。なるほど、それは個性や多様性が尊ばれる今の時代には大切なメッセージだ。

 堂山卓見監督は「SCREEN ONLINE」でのインタビュー記事で、脚本家の古沢良太はコロナ禍に入った直後に第一稿をあげており、子どもたちが遊びに出られないという当時の状況を強く意識していたことに触れている。そして、古沢は「今の子たちはいい子過ぎる気がする。周りの目を気にする時代になっていて、それは子どもも大人も同じ。それでいいんだろうか」という考えを持っていたとも語っていたそうだ。

 大人も子どもも、コロナ禍を経て将来に過剰にプレッシャーを感じやすくなっている。良い子になりすぎなくていい、パーフェクトを目指さなくてもいい。そんな世相を鑑みたこのメッセージは、とても志(こころざし)の高いものであることに、全く異論はない。未来道具で夢をかなえてくれる「ドラえもん」で、理想を現実にするユートピア(と見せかけたディストピア)を描くというのも、かなり挑戦的であり、支持をしたいアプローチだ。

洗脳を否定する過程で別の洗脳っぽさが生まれてしまう

 だが、本作の分かりやすい欠点は「説明的すぎる」ことだ。後半は同じ場所で延々と種明かしや状況についての会話をする場面が多くなっていて、せっかくの空という舞台での活劇の面白さがスポイルされている。もう少しだけでも言葉に頼らず、飛行機に乗っての戦いなど、アニメの楽しさを追求して欲しかった。

 さらに問題なのは、メッセージもまた説明的かつ直接的すぎて、説教くさくなってしまっていることだ。おかげで、劇中での洗脳のほかに、また別の洗脳がされているような危うさを感じてしまうのである。

 例えば、ジャイアン、スネ夫、しずかの洗脳が解かれる場面はかなり性急で、それぞれがすぐに自分の欠点を個性であるかのように次々に演説したりする。さらに、ドラえもんがゲストキャラクターのソーニャに「君には心がある」「友達のために生まれてきた」などと説得をする。そして、しずかがとある出来事を「運命」だと主張する。


 これらがキャラクターの言動として不自然で居心地が悪く、メッセージのために置かれているように感じられ、個性や多様性についての主張が押し付けがましく思えてしまったのだ。そこは説明的なセリフに頼らず、それこそ「らしさ」を大切にした行動や、アニメとしての演出で語るべきところだろう。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた