一手一秒!? CEDEC CHALLENGE「超速碁九路盤AI対決」CEDEC 2010

CEDEC CHALLENGEと題する枠の中で行われた「超速碁九路盤AI対決」一手一秒、最大対局時間は二分までと、物凄く回転の速い「早碁対決」だが、その内容とは……。

» 2010年09月06日 15時09分 公開
[山本大樹,ITmedia]

囲碁としては珍しい試み。参加者自慢のAIが集うイベント

 「超速碁九路盤AI対決」は、参加者が自作したAIを用いて碁による対局を行い、優劣を競う。一手にかかる時間は一秒、ルールで定められた対局時間は2分までと、AIならではの早碁対決になっている。

 今回この「超速碁九路盤AI対決」は、AIの対局のみではなく、王 唯任・万波 佳奈 両プロによる囲碁入門教室も開かれており、AI同士の囲碁対決という主旨の中、囲碁のルールが分からないという方にも、プロによる簡単な手ほどきを受けられるようになっていた。

 「超速碁九路盤AI対決」は初日から2日目まで予選を行い、予選の上位四名が決勝進出となる。AI同士という異色の対局ではあるが、このイベントはかなりの注目を集めていたようだ。

予選トーナメント表。やはり強いAIはずば抜けて成績がよい印象がある
9路盤を用いての入門教室。基本的なルールを覚えることができる

予選を勝ち抜いた四つのAIによる決勝戦。気になる結果はいかに

 CEDEC3日目には、上位四名による決勝大会が行われた。この決勝大会では、プロの解説つき公開対局というなんとも贅沢なものである。

 筆者は開場前に大会が行われるホールに入ったが、驚くべき事に満席であった。囲碁の対局イベントは、CEDECの数ある講演の中でもかなり異色な雰囲気は否めないが、ここまでの人気ということには、主催されていたスタッフも参加者の皆さんも驚かれていた。しかも参加者の方々の9割近くが、囲碁のルールを知っている経験者だという。

 決勝大会第一試合は「nomitan」対「hope」で、AIの早碁というだけあってか、解説が始まるよりも早く局面が進んでいく。1分も経たない間に、「hope」が投了。「nomitan」の勝利となった。対局後にプロ棋士お二人の検討が始まると、AIの打ち筋についての解説がされていった。

 どうやらAIは、定石などの型にそった打ち方を学習しているらしく、解説する棋士のお二人に「進行として美しい形」と誉められるほどであった。「hope」は攻めにいく碁を打ち筋とし、相手に切り込んでいく棋風であったが、9路の狭い中、詰め碁のような形になってしまい、相手の「nomitan」に正しい手を打たれた後、切り込んだ手が死に石となって投了、白番nomitanの中押し勝ちとなった。

 第二試合は「tombo」対「kasumi」の対局。AIの開発者のお二人は同じ電気通信大学の出身で、「tombo」が先輩「kasumi」が後輩の、先輩後輩対決とのこと。対局の流れでは、序盤で白が妙手を打ったが、AIが変化を読みきれていなかったのか、白が妙手の後に手抜きをした箇所を黒が咎め、隅の白を死に石にして、黒の勝ちとなった。

 今までの試合を振り返るに、AIはまれに局面の急所をつく手を打っては来るものの、9路の中では石の死活がほぼ一本道ということが多く、死活を読み間違えた片方が負けるパターンが多かった。これもAIの特徴だろうか。石の厚みや地合を計算して勝つというよりは、石を取りにいく事で勝ちを得るスタンスが多いらしい。

 決勝戦に残ったAI「nomitan」と「tombo」の対局も、超早碁というだけあって、一分経たずに終局を迎える。結果は黒の中押し勝ち。序盤で白は悔しい思いをした後、何とか地を取りに行ったが、石を取りに行くのが強いというAIの特性もあってか、黒番の「nomitan」は上手い具合に上辺6子・下辺3子と白石を取り、それによって白の「tombo」は投了した。

 さてここで、終局後は開発者のお二人を交えての検討となったのだが、驚くことに開発者のお二人は囲碁に詳しくないらしい。しかし、知人に碁の経験者がいるらしく、碁のAI開発をするにあたって、囲碁の基本的なアドバイスは受けていたそうだ。

 プログラムの中身についての質問が出ると、2007年ごろ「モンテカルロ法シミュレーションを使った囲碁プログラム」というのが世界的に流行っており、それを素直に取り込んだものとのことだった。これは「nomitan」と「tombo」のどちらも同じとのことで、勝敗がついたのは若干のチューニングの差なのだろうか。プログラマーの方には面白い結果になったのかもしれない。

この参加者のほとんどが囲碁を知っている「プログラマー」である。囲碁を知るプログラマーというのも面白い
対局終了後に、プロ棋士お二人による解説が行われる。たまにAIが打つ妙手に、プロが感心する場面も

プロ棋士と自作AI夢の対決。優勝プログラムはプロ棋士にかなうのか?

 優勝AIが決まると、プログラムの最後にエキシビションとして万波 佳奈プロと「nomitan」の対局が行われることになった。

 石を取るのが上手いAIと、地と囲いに行く人間の思考では、どのような局面が展開されるのか、どのような棋譜が出来上がるのかは、開場の期待を一身に集めた。

 碁の棋風には、その人の性格が表れるとよく言われる。その事について「万波先生の性格」を質問されたのだが、王 唯任先生によると、普段は可愛らしいが碁になると凶暴極まりないとの事。凶暴な棋風をほこるプロ棋士を相手に、「nomitan」が黒番、万波先生が白番で対局がスタートし、終局する頃には黒地はゼロ、完膚なきまでにAIを打ちのめした万波プロに拍手が送られた。

 AI相手に完全勝利を収めた万波プロは「プログラムのことはよく分からないけれど、今後が楽しみ」と、AIの強さを認める一方で、今後発達するであろう囲碁のAIに期待を寄せて、「超速碁九路盤AI対決」は幕を閉じた。

「nomitan」対 万波 佳奈プロの最終局面。黒石は全て死んでおり、万波プロの容赦のなさが伺える
優勝者にはAI対決の場だけにPCソフト「天頂の囲碁」が送られた。このソフトもAIにモンテカルロ法を用いて作られており、二段の棋力があるという

関連キーワード

囲碁 | CEDEC | 開発者 | イベント | プログラマー | 学習


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  2. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  3. しぶとい雑草“ドクダミ”を生やさない超簡単な方法が115万再生! 除草剤を使わない画期的な対策に「スゴイ発見」
  4. 天井裏から変な音がする→スマホを突っ込んで撮影したら…… 映った“とんでもねぇ”モノに「恐ろしい」「何これ」と騒然の196万表示!
  5. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  6. 誰も教えてくれなかった“裁縫の裏ワザ”が目からウロコ 200万再生のライフハックに「画期的」と称賛【海外】
  7. 「電車の中で見ちゃダメ」「笑ったww」 実家からLINE「子ヤギがすばしっこくて捕まらない」→送られてきた衝撃姿が320万表示!
  8. 顔の半分は童顔メイク、もう半分の仕上がりに驚がく 同一人物と思えない半顔メイクが860万再生「凄いねメイクの力」
  9. 元「AKB48」メンバー、整形に250万円の近影に驚きの声「整形しすぎてて原型なくなっててびびった」
  10. スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評