大学研究機関から見るインタラクティブ・エンタテインメントとは国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」

12月2日、京都の立命館大学衣笠キャンパスにおいて、ゲームの過去と未来を語る重要なシンポジウムが開催され、「Pong」を世に送り出しゲームの父と呼ばれるATARI創業者のノラン・ブッシュネル氏や任天堂の宮本茂氏などそうそうたるメンバーがゲストとして参加した。

» 2005年12月03日 07時50分 公開
[加藤亘,ITmedia]

 立命館大学衣笠総合研究機構/映像文化学部(仮称)設置委員会主催のもと開催された国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」は、文部科学省より採択を受けた文部科学省21世紀COEプログラム「京都アート・エンタテインメント創成研究」と、文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業「デジタル時代のメディアと映像に関する総合的研究」の補助事業について研究活動の一環として実施、その成果を公表する場として設けられた。

 大学研究施設でコンピュータ技術を駆使した「遊び」が産まれて半世紀、一部の知識層のものだったデジタル・インタラクティブ・エンタテインメントは多様に変化し、今や巨大な産業にまで成長している。今回のシンポジウムでは、今なお発展し続けるデジタル・インタラクティブ・エンタテインメントの代表格となるゲーム(テレビゲームやコンソールゲーム、携帯、オンラインなどを含む)について、大学側からの学術的アプローチと、原点から現在まで、実際にゲーム開発に携わった開発者からの経験談という2部構成となっていた。

 ゲストには研究機関からは立命館大学チェアプロフェッサー/札幌市立大学設置準備室教学研究担当部長の武邑光裕氏をはじめ、アタリ創設者であるノラン・ブッシュネル氏、NHK衛星放送局制作部チーフ・プロデューサーの大墻敦氏、パックマンの生みの親である岩谷徹氏、現立命館大学教授であり任天堂アドバイザーの上村雅之氏が登壇。また第2部には、任天堂の宮本茂氏やValveのロビン・ウォーカー氏、コナミの小島秀夫氏やエンターブレインの浜村弘一氏などが登場し、活発な意見を交換した。

 ここでは、午前に行われた基調講演を中心に、大学研究機関からのゲームへのアプローチを紹介する。午後の部となった第1部「ゲームデザイン・テクノロジーの源流」と「ゲームデザイン・テクノロジーの今と未来」は、それぞれ別項を参考のこと。

開会挨拶に代えてシンポジウムの意義について

 冒頭挨拶に立ったシンポジウム総合チェアマンの細井浩一氏は、自身が責任者を務める産官学でテレビゲームの保存と活用を目指す「ゲームアーカイブ・プロジェクト」に触れ、立命館大学が進めるデジタル・インタラクティブ・エンタテインメントへの研究に対する関心の高さを引き合いに出し、ゲームの学問的フレームワークの現状を歴史から紐解くところからはじめた。

 基本となる“遊び”と“人間と社会”との関係を考察する学問的フレームワークが非常に貧弱であり、学問としてのアプローチをしている専門書も、ホイジンガによって著された「ホモ・ルーデンス」(1938年初版)やカイヨワの「遊びと人間」(1958年初版)など古典といって差し支えないものしか久しくなかったと驚いてみせる。ごく最近になりやっとチクセントミハイの「フロー体験 喜びの現象学」や、エリスの「人間はなぜ遊ぶか」などが出版。1990年代以降、特にここ2〜3年はビジネスや心理学など別領域からのフレームワークも多彩になり、「Rules of Play」「INTERACTIVE DESIGN」、ハンドブックの形式を取っている「computer game」など、質の高い専門書が世に出始めたと現状を語る。アカデミックの世界では、ハンドブックが出版されるとその学問が完成したと見る傾向があることから、いよいよゲームも学問として形成されたと昨今の潮流を歓迎すべきことだとした。しかし、残念ながらこれらの研究成果はすべて外国のもので、日本におけるフレームワークは翻訳にとどまっており、その先駆けとなるべく立命館大学はこのようなシンポジウムを開くに至ったと経緯を述べる。

 先行する研究者たちの考えを咀嚼したうえで、ゲームデザインという領域はゲームに関する要素研究として独立したものと捉えるのではなく、ゲームをめぐる社会科学的な研究領域と、人文科学的な研究領域、工学的な研究領域と重なり合ったところに存在する研究フレームとして捉えるべきであるとの持論。従ってゲームデザインという観点からゲームの成り立ちを理解するためには、絶えずゲームを成立させているテクノロジーと、それを社会的・人間的受容させている、制度や心理といった要因との関連性を問う形で議論するのが正しいと考えていると今回のシンポジウムの意義を改めて語った。

基調講演「インタラクティブ・エンタテインメントのデザイン展望」

 続いて立命館大学チェアプロフェッサーとして、文部科学省オープンリサーチ、およびインタラクティブ・エンタテインメントの研究を行う武邑光裕氏による「インタラクティブ・エンタテインメントのデザイン展望」と題した基調講演が行われた。武邑氏はメディア美学、デジタル・アーカイブ情報学、創造性産業論などを専門としており、現在は札幌市立大学設置準備室教学研究担当部長も務めている。

 武邑氏は、デザインと領域からコンテンツの新しい教育のモデルが可能なのか。可能ならばどういった個性がありえるのかと推測を述べる。その一例としてあげたのが、韓国光州情報・文化産業振興院が行なっているゲーム産業創造人材教育モデルだ。ここでは、ゲーム開発のエリートを育成するために2年制のゲーム士官学校を2005年1月に創設し、ゲーム以外の専攻分野からのゲーム産業への人材流入を誘導していると紹介した。

 心理学や哲学専攻者ならばゲームシナリオ分野へ、社会学・人文学専攻者ならばゲーム社会学を、経営学専門者ならばゲーム経営・企画の分野、コンピュータ専攻者ならばゲームプログラミングへと“転換教育”を促している。既存の学問を貪欲に転換するこの試みは、国レベルで大規模に行われており、中国やベトナムからの留学生も積極的に受け入れているという。韓国でも盛んに飛び交う「文化産業(CI)」と「文化技術(CT)」というキーワードから武邑氏は、次に学術的アプローチでゲームの歴史を解説していく。

 60年代アメリカで誕生した「Sensorama」を、没入型のインタラクティブ・エンタテインメントの先駆けであったと紹介。現実とはまた違う別の世界を体験できるこれらの仕掛けは、のちに同開発者がパテントをとったヘッドマウントディスプレイ「TELESPHEKE MASK」へとつながっていく。この影響はダグラス・トランブル監督の映画「Brain Storm」や、ユニバーサルスタジオの「バック・トゥ・ザ・フューチャー ライド」への流れを作り、のちに没入型のバーチャルリアリティシステムとしてNASAが開発する「Telepresence」へと続いていったと、これらのアプローチが現代のゲームデザインにいかに浸透しているかと例に挙げたのが、水口哲也氏の代表作「Rez」であった。

 実は水口哲也氏は、武邑氏の日大時代のゼミ生であり、セガへの就職を斡旋するなどの師弟関係にある。「Rez」のエンドクレジットに、武邑氏の名前があるのもこれで合点がいく。水口氏は、「Rez」においての武邑氏が提唱する“トンネルビジョン”を実現してくれたと明かす。

 武邑氏はいたくこの手の没入型ゲームがお気に入りのようで、SCEEの「Wipeout」だけは今でも遊べるゲームだと紹介。現実を忠実に再現しても、なかなか楽しむことができないのならば、いかに現実を強度に編集するかがひとつのデザイン力が隠されているのではないかと推測する。

 今後考えられるのは韓国の例に漏れず、他分野、他コンテンツとの転換・相互継続的にデザインをすることではないかと、これらを促進できるゲームプロデューサーの登場を期待すると武邑氏。映画業界と同様、グローバル化によるラインプロデュースも注目できるとした。ここでフィンランドの学生が7年を費やし製作したフルレンジの映画「STAR WRECK」を例に出し、インディペンデントなプロデューサーなどをいかに大学で支援できるかが目標であると語った。

 武邑氏は、ゲーム法則世界との双方向的参入の価値、あるいは愛を形成し、人々が理解しやすい意味を生み出せることがインタラクティブ・エンタテインメントではないかとまとめた。最後に武邑氏は、アーサー・ケストラーの言葉「創造性とは、教師や生徒を超えた、それぞれの個体の中にあるそれを導き出していくプロセスである」を引用し講演を終えた。

 武邑氏の講演は学術的側面が強調されているため、特に後半は難解なものとなった。ただ、大学機関などの教育機関がこれからゲームについてもっと積極的に関わっていく姿勢と、そのアプローチ方法を聴講できる貴重なものとなったのではないだろうか。

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