まさに“プロジェクトX”――ゲーム黎明期を支えた男たち「ゲームデザイン・テクノロジーの源流」国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」:(1/3 ページ)

12月2日、京都の立命館大学衣笠キャンパスにおいて開催された「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」では、ゲームの創世記を支え、現在も活躍をしている「生き証人」を招いて、「ゲームデザイン・テクノロジーの源流」と題して、それぞれの視点に立った“歴史”が語られた。

» 2005年12月03日 07時55分 公開
[加藤亘,ITmedia]

 立命館大学チェアプロフェッサー/札幌市立大学設置準備室教学研究担当部長の武邑光裕氏による基調講演「インタラクティブ・エンタテインメントのデザイン展望」のあとを受け、ゲーム創世記を支え、後に登壇する宮本茂氏にして“妖怪”と賞賛されるゲームクリエイターたちが、自らの体験を踏まえてゲームの歴史とその作品のアイディアがどこから来たのかを語った。午前とは打って変わって和やかな雰囲気の中、まずは「Pong」を世に送り出し、ゲームの父と呼ばれるATARI創業者のノラン・ブッシュネル氏が登場した。

ゲームの創世記を生きるゲームの父がその歴史の源流を語る

 ここで「ゲームデザイン・テクノロジーの源流」と題しているように、ブッシュネル氏からはじめるのは、至極当然といえるだろう。1961年、スティーブ・ラッセルによって製作された「Space War」は、現在のゲームと比べるまでもなく、ただ宇宙船を操って相手を倒すだけの本当に簡単なものだった。しかし、当時のコンピュータは高価であり、大学などの研究機関でしか触ることができない限られた知識階級のものでしかなく、これでゲームをやろうとするものなど居なかったという。しかし、いざゲーム(と呼ぶにも単純すぎるが)ができるとなると、瞬く間に全世界中へと飛び火していくことになる。

 大学で勉強しながらピンボールなどで遊んでいたブッシュネル氏は、1966年に「Fox&Geese」というゲームを開発する。これは、当時一般的だったパンチカードプログラムで、3週間かかったそうだが、コンピューターが高価だった当時、25ドルの遊びに100万ドルのコンピューターを使うのは無茶な話だったようだ。こうしてブッシュネル氏は自らが「Pong」を開発するに至るまでの歴史を紐解いていく。

 ブッシュネル氏はその後、カリフォルニアの人工知能研究施設に入所し、安いコンピューターを購入。これを機に本格的にゲーム開発へ乗り出す。1970年には「Computer Space」を発売し、1972年、ついに「Pong」を発売する。

 1972年にATARIを設立し最初に開発された「Pong」は、その後類似品がごまんと世に出るほどの大成功を収める。「Pong」は、単純なテニスのようなもので、タマを相互に打ち合うゲーム。アーケードとして成功を収めたブッシュネル氏は、次に家庭用の「Pong」に着手する。Pong for consumers ship、通称「Home Pong」の誕生である。こうして家庭にゲーム機が登場した……とはうまくいかなかったようだ。当初、「Home pong」は玩具としても、テレビ周辺機器としても売れなかったようで、ピンボールやテーブルビリヤードテーブルなどとともにレクリエーション機器としてマーケティングを変更し、はじめて売れたと明かす。当時、まだ4bitだ8bitだと騒いでいた時代であった。

 ブッシュネル氏は1974年にナムコへAtari Japanを売却した際の写真をスクリーンに映し出し、若かった時代を振り返る。1976年にはブロック崩しの原型となった「Break out」を発売。1977年には家庭用ゲーム機の「Atari 2600 VCS」を発表、家庭へのゲーム機の浸透度合いが証明されることとなる。当初1人4〜8タイトルのソフトを購入したら御の字だと見立て出荷したのだが、それは大きな過ちだったのだという。ソフトが市場から消える現象が起きた当時を懐かしむ。ブッシュネル氏は“いいゲーム”とは、その時代にあった、明確な目的を持ったものであると持論を展開する。

 ブッシュネル氏は、現在のゲーム業界にも苦言を呈する。実物と見紛うばかりのリアルすぎるゲームばかりでは、その差別化を難しくしてしまう。また、ソフト製作のコストが上がっている現状では、開発陣が冒険することができず、革新性をも失わせるものではないかと現在の潮流を危惧する。米国でのライトユーザーや女性ユーザーが減少しているとしたデータからは、以前あったはずのシェアを狭めている原因を知るべきだと語気を強める。「ライトユーザーは昨今のインタフェースの複雑化に嫌気が差している。もっと操作に関しては単純なものでもいいのではないか」と提案した。奇しくも後に登場する任天堂と同じ主張を、ゲームの父は感じているようだ。だからこそブッシュネル氏に言わせると「レボリューションは面白いことをしている」とのこと。

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