ニンテンドーDSのWi-Fiコネクションは、軽々と障壁を飛び越えるGame Developers Conference 2006(3/3 ページ)

» 2006年03月27日 03時30分 公開
[加藤亘,ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

「無料」というコンセプトについて

 従来は「オンラインゲーム=お金がかかる」というイメージを持つ人も多いと、先に挙げた「モバイルシステムGB」を例に挙げる。「モバイルシステムGB」もそうだが、ゲームを遊ぶためにはオプション機器や通信回線を必要とするものもあり、毎月お金がかかるなどを理由に購入を諦める場合もあると議論した。こうしてそれを取り除くためにも、“カンタン”でも述べた北米でのマクドナルドや日本のソフト販売店への無料接続ポイントの提供へとつながっていく。無料で体験版などを遊ぶ機会が増えることで、実際ソフトを購入するキッカケを増やせるのではないかと考えたわけだ。

 こうして障壁を取り除いていったことが、これほどの短期間で多くのユーザーを獲得できた理由であると確信していると大原氏。これが任天堂の言うところの破壊的イノベーションなのだと。

ニンテンドーDS開発時の技術的課題

 ニンテンドーDSの開発当初から、P2Pで通信を行う際のNATネゴシエーションが問題とされていた。「おいでよ どうぶつの森」や「マリオカードDS」で実現しようとしていたサービスの多くは、ユーザー同士がインターネットを介して直接通信を行う、P2P方式のモデルだった。ニンテンドーDSの場合は無線LAN接続になるため、必ずルーターのローカル側からインターネットから接続することになる。

 つまり自宅などにあるルーターの下にある、プライベートなIPアドレスしか持たないニンテンドーDS同士が、必ずルーター越しにインターネットに接続&経由して通信しなくてはならないのだ。「もちろん、ルーターなどを越えて通信を行う技術もあるが、我々の都合で世の中に出回っているすべてのルーターをカバーするのは難しい」と大原氏。任天堂はそのため、選択した技術で世界中どれだけカバーできるかのテストを行ったと一例を紹介する。

 「どうぶつの森」をモチーフにしたPCのディスクトップに置く用の時計ソフトを雑誌の付録などで配布。NATテストを行うためのプログラムを入れ、ユーザー合意の上で、自宅の環境をPCからテスト。それを任天堂が集計した。任天堂がスパイウェアを送り込んできたと勘違いされては、Wi-Fiコネクションのコンセプトに影響があるので、発売前ということもあって趣旨説明には細心の注意を払ったと大原氏はエピソードを披露する。結果はもちろん予想を上回るよい結果だった。

 ただし、すべてがうまくいったわけではない。実作業でもっとも大きく影響が大きかったのは、2004年から進めていたニンテンドーDS用のPCPIソケットライブラリだった。ほぼ完成し修正作業をしている段階で、「おいでよ どうぶつの森」や「マリオカートDS」のプログラム開発が進むにつれ、準備していたPCPIライブラリではメモリが足りなくなってしまったというのだ。急遽、別のメモリの消費量の少ないソケットライブラリの開発をスタートさせ、下位のソケットライブラリに変わった時から上位のライブラリと差し替えなくてはならなくなったと、ライブラリのリソースが遅れたことを明かす。GDCが開発者向けのカンファレンスということもあり、その場で改めて開発者に向け謝罪する。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションの開発は社内を横断したプロジェクトチームで進められ、コンセプトレベルに関しては発表の前から議論していたが、具体的な仕様の検討がはじまったのは2005年になってからという。時間もないので社長直下のプロジェクトとなり、週2回、開発各部門から担当者が集まってミーティングを行いながら具体化を進めたとのこと。岩田氏もほぼすべてに参加し仕様検討に加わっていたので、現場と経営者間の相互理解も早く、これもローンチに間に合った大きな要因だったというから興味深い。ただし、大原氏はそれはそれで緊張を強いられたとも。これもすべて効率のよい、いい結果となったと会場を笑わせる。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションでは、すべてのゲームが任天堂の認証サーバーを通っている。認証サーバーの開発も日本とアメリカとの共同作業で進められていた。日本ではニンテンドーDSに実装するためのクライアント側のライブラリを。アメリカではサーバーのコーディングを担当するなど分担。時差などを克服しながら、はじめてのワールドワイドな開発に苦労したことも吐露する。

 大原氏が特に印象に残っているのは「マリオカートDS」を使用しての、世界同時βテストだったと振り返る。現在のように100万人が使っているわけではないので、対戦の時間を合わせるのも大変だったとのこと。特に世界同時となるとなおさらのこと。しかし、テストとはいえ楽しかったのだとか。フレンド登録をしている人との対戦はさらに楽しく、テスト中にアメリカ勤務の同僚と偶然マッチングした際には、相手の表情も想像でき、自宅でテストに参加するのがすごく新鮮だったそうだ。

 このβテストには岩田氏も参戦。社長だからといって誰もが手を抜かず、「みんな真剣で手加減してくれない」と岩田氏がぼやくほどだったとか。このようなエピソードからも分かるように、経営側と開発側との距離が近いということが、最良の結果に至ったのかもしれない。

 ニンテンドーDSは2007年までにコナミのウイニングイレブン最新作など約40タイトルが開発中とされている。現在、すでにサービス提供がされているマッチング機能のほか、相手をダウンロードできるようにするなど、機能拡張を進行中とのこと。任天堂の次世代ゲーム機レボリューションにおいても、ネットワークを使用しての面白いことを考えていると発言。今後の展開にも目が離せない。

 大原氏は最後に冒頭の言葉を引用し、「一度はネットワークにつなげて遊んでくれる」という目標は、まだ完全に達していないと、障壁となるものを飛び越えていけるようにと希望を語る。ここがGDCという場所柄か、開発者に向けてWi-Fi対応のソフトの充実を呼びかける。どうか世界中で一番多くの人々が参加する仕組みとなるように。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2502/11/news033.jpg 妻「“157センチ、43キロが理想”と言う夫に、かわいいと言われたい」→プロに依頼したら…… 「エグッ!」「黒木瞳さんかと」
  2. /nl/articles/2502/11/news078.jpg “スーパーお嬢様”の現役モデル、実家で「総額3億円の15台の車」を所持 “18歳の時にもらった車”に驚きの声も
  3. /nl/articles/2502/10/news155.jpg 実家の間取り「5LLLLDKKBB」の超豪邸 “異次元お嬢様”が話題 専属使用人は「世界最強の兵士」で香取慎吾ら驚がく
  4. /nl/articles/2502/11/news025.jpg ←夫に出すやつ 自分で食べるやつ→ 目を疑うレベルの“落差”に爆笑「わ〜おw」「なんかとんでもないのいた」
  5. /nl/articles/2502/08/news015.jpg パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  6. /nl/articles/2502/09/news027.jpg マインクラフトで作った“超有名ゲームでおなじみの場所” 2カ月かけて建築した大傑作に絶賛「背景まで……」「全部ブロックだ!」
  7. /nl/articles/2502/11/news009.jpg 鮮魚店で瀕死の“巨大ガニ”を購入→家に連れて帰り、お風呂場に放ってみると…… まさかの展開に「こわっww」と800万表示
  8. /nl/articles/2502/11/news012.jpg 最初に軽く結ぶだけで…… 2000万再生された“マフラーの巻き方”に反響「これは使える」「素晴らしいアイデア」【海外】
  9. /nl/articles/2502/11/news044.jpg クラシック奏者「加工して絶世の美女にして」とAIに依頼→“とんでもない事故”になってしまい思わず二度見 「怖くて泣いた」
  10. /nl/articles/2502/11/news040.jpg 自衛隊で“ネットミームまみれの張り紙”が目撃され約1000万表示の反響 見覚えあるポーズに「めっちゃ笑った」「おもろすぎるww」
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされる娘、13年後の成人式に同じ場所とポーズで再現したら…… 「お父さん若返った?笑」「時止まってる」2人の姿に驚き
  2. 古いバスタオルをザクザク切って縫い付けると…… 目からウロコの再利用に「すてきなアイデア」【海外】
  3. 14歳のとき、親友の兄と付き合うことになった女性→13年後…… “まさかの結末”に「韓国ドラマみたい」【海外】
  4. リンゴを1年間、水の中で放置→顕微鏡で見てみたら…… 衝撃の実験結果に「これはすごい」「息をのみました」【海外】
  5. 海釣り中、黒猫に「ちょっと来い」と呼び出された釣り人 → 付いて行くと…… 運命のような保護から2年、飼い主に話を聞いた
  6. “駐車場2台分”の土地に、建築家の夫が家を建てたら…… “とんでもない空間”に驚き「すごい。流行る」
  7. 「なんだこの暗号は……」 マクドナルドの“大人だけが読めるメッセージ”が410万表示「懐かしい〜」「読める人同世代w」
  8. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」 投稿者に話を聞いた
  9. ズボラ母が5人分サンドイッチを爆速で作ったら…… 目からウロコの時短テクと美しい仕上がりに「信じられない」
  10. 【今日の計算】「7−2×0+9」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. ドブで捕獲したザリガニを“清らかな天然水”で2週間育てたら…… 「こりゃすごい」興味深い結末が195万再生「初めて見た」
  2. 「配慮が足りない」 映画の入場特典で「おみくじ」配布→“大凶”も…… 指摘受け配給元謝罪「深くお詫び」
  3. 母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
  4. 風呂に入ろうとしたら…… 子どもから“超高難易度ミッション”が課されていた父に笑いと同情 「父さんはどのようにしてこのお風呂に入るのか」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 衝撃の光景が340万表示 飼い主にその後を聞いた
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. DIYで室温が約10℃変わった「トイレの寒さ対策」が310万再生 コスパ最強のアイデアへ「天才!」「これすごくいい」
  9. 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  10. 岡田紗佳、生配信での発言を謝罪 「とても不快」「暴言だと思う」「残念すぎ」と物議