インターネットのあけぼの「ありす in Cyberland」:ゲイムマンの「レトロゲームが大好きだ」(2/3 ページ)
バーチャル世界へダイヴ!
事件が進展すると、ありすたちはサイバーランドへ向かう。
サイバーランドは、インターネットが進化した電脳空間(サイバースペース)だ。現代のインターネットと同じく、端末を使って情報のやりとりができるのはもちろん、ダイヴシステムを使うことで、サイバーランド内に構築された、バーチャル空間の中に飛び込むこともできる。
ありすたちは、人知を超えたシステムプログラム“ルシア”(CV:井上喜久子)を使って、通常の人は到達できない、サイバーランドの深い階層まで潜れるようになった。ただしサイバーランド内で活動できる時間には制限があり、その時間内に脱出しないと、現実世界に戻れなくなってしまうのだ。
この世界ではあらゆるものがデジタル化されており、それらはサイバーランド内で管理されている。ありすたちがダイヴする場所は、テレビ局のデジタルスタジオや、区役所の個人データを管理する場所や、銀座のデジタル画廊。
いずれも、別に電脳空間である必要がないような場所ばかりだが、あえてそれらをバーチャル空間内にあると設定することで、あらゆるものがデジタル化された世界観を表現していると考えられる。
学園内でありすが、後輩の今井由香(CV:菅原祥子)からサインを求められるシーンがあるが、このサインですらデジタル(携帯端末のタッチパネルに文字を書き込む)という徹底ぶりだ。
もちろん、電脳空間ならではのストーリー展開も見られる。途中で樹莉が巨大化したり、にたにたと笑う猫がイタズラをしたりするというのは、現実世界が舞台では成り立たない。
これらのイベントはいずれも、「不思議の国のアリス」が基になっている。アリスが迷い込んだ不思議な空間を、サイバーランドという設定を使って表現したともいえよう。エンディングでは、サイバーランドの住人の中に、トランプの人々がいることも確認できる。
サイバーランドは、「ニューロマンサー」などの小説に登場する、“サイバースペース”(電脳世界)をイメージしたものと思われる。
先述の千葉麗子さんの本によると、サイバースペースとはこうしたサイバーパンク小説に出てくる“もうひとつの世界”を意味するともに、「コンピュータネットワークを、現実の空間と対比する意味で使用されることが多い」単語とのこと。
ありす in Cyberlandのサイバーランドは、サイバーパンク的な別世界と、コンピュータネットワーク、この両方を兼ねているといえる。
戦闘モードはポリゴンで
敵が出現し、戦闘モードに入るのもサイバーランドのみ。
戦闘モードに入り、3人のうち誰が戦うかを選ぶ(状況によっては選べないメンバーもいる)。すると唐突に、グラフィックがポリゴンでの表示に変わる。電脳空間らしさを表現するためか、それともプレイステーションらしさを出すためか?
画面には双方のHP(体力)と、選べるコマンドが表示されている。攻撃、防御、キャラクターチェンジの中から1つのコマンドを選び、攻撃する場合は技の種類を選ぶ。
技はショートレンジ、ミドルレンジ、ロングレンジの3種類。じゃんけんのような3すくみの関係になっていて、ショートはミドルに勝ち、ミドルはロングに、ロングはショートに勝つ。
……普通に考えたら、リーチの長い攻撃の方が有利なはずだから、この3すくみは逆なんじゃないかと思うのだが(ショート対ロングでは、相手の懐に飛び込むという形でショートの勝ちにすれば、3すくみが成り立つ)。
とにかく、この距離じゃんけんに勝ったほうが攻撃できて、相手のHPを減らすことができる。どちらかのHPが0になったら戦闘終了。味方3人の誰かがHP0になったらゲームオーバーとなる。
3人にはそれぞれ得意のレンジがあり、そのレンジでの攻撃が成功すると、敵に与えるダメージが大きい。敵の攻撃傾向を読んで、誰をメインに使うか選び、メンバーのHPを見て、交代のタイミングを見極める。……といっても敵の強さは、そんなに真剣に悩まなくても勝てる程度。ストーリー後半ではありすたちの攻撃力が上がるので、ますます負けにくくなる。
時代を映すさまざまなファクター
ありす in Cyberlandには、発売された1996年当時に流行した作品からの影響がみられる。
例えば、ありすたち3人がサイバーランドへダイヴする時には、特殊なスーツに身を包んでカプセルへ入る。その後、カプセルは液体に満たされるが、これは「新世紀エヴァンゲリオン」を連想させる。同作品がテレビ東京系列で放送されたのは、1995年から1996年にかけてだった。
キャラクター設定にはもしかしたら、アニメ化されて1992年から1997年まで放送されていた、「美少女戦士セーラームーン」の影響もあるかもしれない。また、ギャルゲーがジャンルとして認知され始めたのもこの頃。「ときめきメモリアル」のPCエンジン版が発売されたのが1994年で、プレイステーションに移植されたのがその翌年だった。
ちなみに、ありす in Cyberlandの声優には、これら3作品で重要な役を務めた人が多い。もっとも、荒木香恵さんが男っぽいキャラ、宮村優子さんが天然キャラ、菅原祥子さんが幼い感じの下級生など、3作品のイメージとかなり異なる役柄を演じるケースが多かった。
第1話に出てくる“シムペット”ことデジタルペットが、「ポケットモンスター」を意識したものかどうかは微妙。ポケモンのほうが10カ月ほど前に発売されているが、本格的なヒットまでには時間がかかっている。
同じゲームフリーク作品の「パルスマン」は1994年の作品で、やはり現実世界とサイバースペースを行き来する設定で、最初のステージがテレビ局という点も共通するのだが……。
ちなみに「たまごっち」の発売は1996年11月なので、その影響を受けたとは考えられない。
それと1996年3月当時、「水無月えりさ」という女子プロレスラーがいたのは偶然だろうか? この選手はこの名前に改名した直後に一度引退し、再デビューした時には本名の「納見佳容」に戻っているので、「水無月えりさ」名義で試合をしたことはないけれど。
一方で、もっと過去の作品を意図的にオマージュした場面もある。先に述べた「ニューロマンサー」風のサイバースペースもそうだし、「不思議の国のアリス」をモチーフにした各シーンもそうだ。第1話のサブタイトルは「ジャバウォッキー」で、第2話は「マッド・ハッカーのお茶会」である。そもそも、異世界に落ちていくこと自体がアリスっぽい。
それから、ありすたちが通う学校の名前は「ミスカトニック学園」だが、これは明らかに、クトゥルフ神話に出てくるミスカトニック大学から来ている。「ネクロノミコン」のようなヤバい本が、図書館にあるのだろうか? ……いや、ありす in Cyberlandの世界なら、もしあってもデジタルデータ化されているだろうけど。
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