カプコン辻本氏、スクエニ和田氏、バンナム鵜之澤氏が今後の戦略や展望を語る東京ゲームショウ2008

東京ゲームショウ2008初日に行われた基調講演の第2部として、「業界トップが語る グローバル時代におけるトップメーカーの戦略と展望」と題したパネルディスカッションが行われた。

» 2008年10月10日 02時51分 公開
[平澤寿康,ITmedia]

短期的な展望は楽観的だが、グローバル化については厳しい見方が

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 パネリストは、カプコン代表取締役社長の辻本春弘氏、スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏、バンダイナムコゲームス代表取締役副社長の鵜之澤伸氏の3名で、進行役は日経BP社執行役員の浅見直樹氏が勤めた。

 冒頭、浅見氏は、サブプライム問題を発端とする世界的な経済不安の中、今年後半から来年にかけてのゲーム業界の展望について3名のパネリストに尋ねたところ、「人間はつらいときこそ楽しい時間を共有したいという気持ちを持っており、安価に長時間、多人数で楽しめるものとしてゲームはもってこいであり、悲観的になる必要はない」(辻本氏)、「エンターテインメントは基本的に需要が落ちない産業なので、いくらでもチャンスはあると思っている」(和田氏)、「ゲームはいちばん手軽なエンターテインメントであり、妙な自信があるにはある」(鵜之澤氏)と、3名とも大きな影響はないという意見であった。

 次に、日本のゲーム業界が持続的に成長していく上で求められるのはグローバル化を突き進めることであると、基調講演第1部で和田氏が語った内容を踏まえ、パネリストが考えるグローバル化とはどういったものか、また各社のグローバル化が現在どの程度実現されているのか、ということが尋ねられた。それについて和田氏は、「今はまだ世界中の人たちにスクウェア・エニックスの名前や作品を認知しているもらっている段階であり、理想からするとまだ1合目から2合目ぐらい。危機感を持って相当なスピードでやらないと間に合わないかもしれない」と、やや謙遜気味な見解を示すとともに、グローバル化についてもかなり険しい目標を掲げて取り組んでいることを示唆した。

 また辻本氏も「まだ3合目ほど」と、こちらも欧米で多数のヒット作を送り出しているカプコンとしてはかなり厳しめの見解であった。この点について辻本氏は、「カプコンはグローバル戦略を掲げ、開発はその目線でしっかり取り組めているが、経営サイドの理解度が低く、全社的なグローバル化にはほど遠いから」と指摘した。

 日本と海外の売り上げ構成比については、和田氏、辻本氏ともに、世界のゲーム産業の売り上げ構成比に準じるようにしていきたいというのが理想とした。

 この2名に対し、鵜之澤氏のコメントは少々異なるものだった。キャラクターゲームに強いバンダイのゲームに関しては、単純に言えば番組が放送されているかどうかで大きく左右される。鵜之澤氏は、「世界的に人気のあるドラゴンボールのゲームは、日本で50万本、北米で200万本、欧州100万本といった数字が見込めるが、ゲゲゲの鬼太郎はどんなに頑張っても日本でしか売れない」と例をあげつつ、いわゆるグローバル戦略とは異なるアプローチになると指摘。それに対しナムコの作品には海外を意識したタイトルが多く、「ソウルキャリバーIV」などは海外で200万本を売り上げているにもかかわらず、日本では18万本しか売れていないという例を示しつつ、「(バンダイとナムコが)統合した結果うまく行っているように見えるが、達成度と言われるとまだまだ」との見解を示した。


photo カプコン代表取締役社長 辻本春弘氏
photo スクウェア・エニックス代表取締役社長 和田洋一氏
photo バンダイナムコゲームス代表取締役副社長 鵜之澤伸氏

各社ともまだまだ日本での販売比率が大きい

 次に、パネリスト各社の地域ごとの売り上げ構成比のグラフを示しつつ、解説が行われた。

 カプコンは、2008年3月期に日本、北米、欧州全てで売り上げを伸ばしているが、比率としてはまだ日本が最も大きくなっている。これに対し辻本氏は、「意識的にグローバルでの売り上げコメントを出しているので、海外での売り上げが大きいようなイメージがあるかもしれないが、実際には日本の比率が大きく、これを見ると言っていることを理解してもらえると思う」とコメントしつつ、まだまだ海外の比率を高めていく必要があると指摘。日本で爆発的なヒットとなった「モンスターハンターポータブル」シリーズについては、「海外からも注目はされているが、そのまま持って行って受け入れられるわけではない。公共交通機関を利用した移動時間や、どこかに集まってプレイするスタイルなので、北米や欧州などのライフスタイルに合わせた戦略が必要。しかしチャレンジはしていく」と語った。

 スクウェア・エニックスは、2007年3月期こそ、北米や欧州で比較的高い売り上げを達成しているが、全体的に見ると、日本での販売比率がかなり大きいことがわかる。和田氏は、「原則として世界で売ることを前提に企画を通している」としつつ、「海外の映画で変な日本人が出てくると反感を買う」という例を示しながら、「欧米向けだからこうだといって、大してわかりもしないのに小細工するのは最悪。自分がやれていくことを掘り下げていくことが大切」と指摘する。

 バンダイナムコゲームスは、発売するタイトル数が多いこともあり、販売本数も非常に多くなっているが、やはり日本が中心となっている。その中で、2008年3月期では北米での苦戦が見られるのに対し、欧州では大きな伸びを示している。これについて鵜之澤氏は、「マーケティングコストのかけ方など海外戦略について模索中だったこともある」と指摘。ただ、「いわゆる”洋ゲー”と呼ばれるジャンルを日本人が作るのは非常に難しい」という見解も示した。そしてこの背景には、「クリエイターも含めた日本の市場で、10年ほど前のやや大雑把な欧米ゲームのイメージがいまだに残っていて、実際には技術的にもすごいゲームがあるのに、いわゆる洋ゲーが売れないというイメージから抜け切れていない影響があるのでは」とも語った。

 この鵜之澤氏の”洋ゲー”という言葉をきっかけに、話題は洋ゲーのことへと移っていった。

 辻本氏は、海外で作られたゲームの進化について、「海外のゲームクリエイターは、欧米で受けるものという発想で作っている。特にアメリカのパブリッシャーは、映画に対抗していくという意識でストーリー性などを煮詰めて進化していった結果、日本と異なる年齢層のユーザーを獲得している」と指摘。ただ、日本で洋ゲーが売れないという点については「変わってきている」とも語る。カプコンではグランドセフトオートシリーズが日本で50万本以上売れたり、東京ゲームショウにおいても、海外タイトルでは待機列ができることが少なかったが、最近では1時間待ちになるタイトルも登場しているとしつつ、「日本のユーザーも徐々に海外のゲームに慣れ親しんできているのではないか。今後は一般消費者の方々の意識的な部分も含めてグローバル化していくと思う」と語った。

 また和田氏は、「海外ゲームは非常に良くできている。海外ゲームをプレイしている時間の方が長いんじゃないかと思うぐらいだ」と語る。海外ゲームは、「表現したいものが基本的にリアルな世界なので、リアルな世界に近づけるための演出や表現をどうするか、といった部分が突き詰められることになり、技術の進歩に合わせてリニアにゲームが進化していく」のに対し、日本のゲームは「テキストや記号をビジュアライズするといったところから入っているために、技術の進歩とリニアにゲームが進化しづらい」と指摘しつつ、これが現在の海外と日本の差につながっていると語った。

photo カプコンの売り上げ構成比率。欧米に強いというイメージがあるが、実際には日本の売り上げがいちばん多い
photo スクウェア・エニックスの売り上げ構成比率。日本に比べ欧米の比率が低い
photo バンダイナムコゲームスの売り上げ構成比率。北米での落ち込みに対し、欧州での伸びが見られる

独創性や技術力はまだまだトップクラス

 次に、世界における日本の位置付けについてどう思うか、と浅見氏より問いかけられた。

 この問いに対し辻本氏は、「位置づけで言うとトップではない」としつつも、「開発能力や独創的な技術力は世界のトップに準ずるところがあると思っている。スクウェア・エニックスのファイナルファンタジーシリーズや、当社のバイオハザードシリーズのように、日本の独自性を活かしたゲームがひとつのジャンルとして成り立っているように、原点に立ち返って、強みを活かすことだと思う。」と、実力では十分トップを狙えると語る。 また鵜之澤氏は、「対比で言うと日本の位置づけが沈んでいることは間違いないが、それに気づきにくいのだろう」と語る。そして、日本の位置づけが沈んでいる要因として、「プレステ2の時代に楽をしすぎたから」と指摘する。「日本のゲームメーカーの多くは、プレステ1の頃にヒットしたフランチャイズの続編をプレステ2で作ることで業績を保ったり成長ができた。それに対し欧米ではPC市場が確立しており、テクノロジーが日々進化していく中で、それに合わせてゲーム製作のノウハウも進化していった。そういった中で、次世代機にPCのテクノロジーが盛り込まれた。欧米はPC市場でのゲーム製作の経験から柔軟に対応できたものの、日本はPS2のテクノロジーで止まっており、PCやネットワーク関係の研究ができていなかったのが要因ではないか」と鵜之澤氏は分析していた。

 最後に、今後2年間、それぞれが考えるグローバル化を推し進めたとしたら、2010年に日本のゲーム業界はどのようになっていると予想するか、との問いかけがなされた。

 これに対し辻本氏は、「開発だけでなく経営サイドも含め、総合力でどのようにグローバル化の体勢を実現するか考えている。また、独自の戦略を考えるという意味では、率先して自社のコンテンツの映像化によってゲームの付加価値を高めるという取り組みをしている。こういった取り組みを進めることで、2010年にはグローバルの上位5位を目指して取り組んでいる」とした。

 また鵜之澤氏は、「2010年は比較的近い時期だが、他のみなさんと同じような体勢を作り上げ、それに向けたラインも進んでいるので、結果が出るものもあるだろう。ただ、ガチガチに海外を意識して作るのではなく、斬新で新しい発想のクオリティの高いゲームを作って、自信を持って海外で展開するという、ファミコン世代と同じようなことがWiiで起こっているように思う。いわゆるハリウッド的な大作ゲームではなく、Wiiのようなファミコン世代に近い感覚のゲームが海外で通用しているという点では、数多くのキャラクターや、ナムコの独創的な開発精神を持つ我々は自信も持っている。また、リアルさが追求されている中で、アニメーションやキャラクターなど得意な部分を活かした独自性も出していきたいと思う」と語った。

 最後に和田氏は、「業界の垣根がなくなり、国境がなくなってくると思う。そうなるとネットワークのハブが構成しづらくなる。そういった中で自分がハブのひとつとなろうと思ったら、自分で大きくなるという選択肢も必然だと思う。そのため、世界中のメディアやコンテンツに絡む会社のかなりの人がそういう選択(M&Aによる組織の巨大化)をしてくると思う。それが正しいかどうかはわからない。しかし、やはり我々がやらなければならないことは、販売本数でリードし、精神的な支柱として存在し、新しいものを常に提案するということがすべてできなければならないと思う。経済的な存在感だけでなく、新しい遊びが提案できたか、新しいモデルが提案できたか、ということが言えるように頑張る必要があると思う」と語った。

 3氏の語る内容は、当然それぞれの会社の方針や立場もあるため微妙に異なっていた。しかし、基本となる部分は皆同じで、グローバル化を推し進めるだけでなく、自分たちの能力に自信を持って取り組めば、十分世界でトップを目指せられるというものであった。まだまだ悲観的な見方をする人が多いのも事実ではあるが、日本のメジャーゲーム企業のトップがこのように考えていさえすれば、日本のゲーム業界の未来は非常に明るいと言っていいのではないだろうか。

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