遊んでいる姿が楽しそうなのが大事――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(後編)(1/5 ページ)
マリオシリーズや『Wii Fit』などで世界的な支持を得ている任天堂の宮本茂氏。その30年間の業績が評価されて、第13回文化庁メディア芸術祭では功労賞が贈られた。後編では、従来のゲームのあり方とは違った作品が開発された経緯などについて、宮本氏が受賞者シンポジウムで語った模様をお伝えする。
京都で花札やトランプを製造する一企業に過ぎなかった任天堂が、世界中で愛されるゲームメーカーへと成長した。そのキーパーソンと言えるのが、宮本茂専務取締役情報開発本部長(57)。ゲームデザイナーとしての30年間の業績が評価され、第13回文化庁メディア芸術祭(主催:文化庁、国立新美術館、CG-ARTS協会)では功労賞が贈られた。
2月5日に国立新美術館で行われた受賞者シンポジウムでは、エンターテインメント部門主査の河津秋敏氏(スクウェア・エニックス)が聞き役となり、宮本氏がゲーム設計哲学を語った。宮本氏が手がけた作品を駆け足で紹介した前編に続いて、後編では『Wii Fit』や『New スーパーマリオブラザーズ Wii』など、従来のゲームのあり方とは違った作品が開発された経緯などについて語った模様をお伝えする。
→“よくできたゲーム”と“面白いゲーム”の違いとは?――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(前編)
家の中でコミュニケーションが生まれる
宮本 『Wii Fit』(2007年)になると、だんだん趣味の世界に入っていきます。「楽しいことって何かな?」と考えた時、自分が楽しいことでないと人に勧められないのですが、体重を計るのが楽しかったんですね。40歳を過ぎたあたりから水泳を始めて、自分の体が変化していくのが楽しくて、体重を計ってグラフに付けていたんです。
“計るだけダイエット”というのはご存じですか? 要は「ダイエットを意識するだけで体は改善できる」というものです。そうやって体重計に乗っていると、家族が面白がって「お父さんが体重を計っているので、いい体重計を買ってあげよう」ということで、誕生日に100グラム単位で計れるものを買ってもらったりしました。うれしいのでそれに乗ってグラフの変化をずっと見ていると、楽しいんですね。
それともう1つ、「同じ洗濯機で服を洗わないで」と言う娘がいるのですが、そのグラフを見て「お父さん最近頑張っているね」とか、「最近ちょっとさぼっていない?」と言ったりするんですね。「家の中でそういうコミュニケーションが生まれるということは、家庭用ゲーム機としてものすごく大事だ」と思っているので、「よく分からないけど、これを作ろう」と思いました。
「体重計を作ろう」ということで始めたのですが、社内では「いったい何をするつもりか」とみんな困っていたと思います。「とりあえず体重計を作るので、どうしたらいいのか」と聞かれたので、「体重計を作るんだから、オムロンさんとタニタさんに聞きに行ってこい」と言いました。僕らも昔ボクシングゲームを作る時は近くのジムに遊びに行って、ゴングの音を録音させてもらって帰ってきましたし、「まず身近なところで始めたらいいのではないか」ということで、オムロンさんとタニタさんに行ってきました。
それから、体重計は経済産業省が絡んでいるんじゃないかというので、「じゃあ、経産省にご相談に行こう」と言って、「計りを任天堂が作っていいもんなんですか」ということを素人がいっぱい聞きに行くわけです。そうしている間に何かまとまってきました。
『Wii Fit』は発売して4年ですが、多分、世界で一番たくさん売れた体重計になりました。これ、ギネスとか言ったらダメなんですかね。2009年に新しいソフト(『Wii Fit Plus』)を出したこともあって、米国では2009年12月に200万台近く売れて今、世界販売台数は2500万台を超えたんじゃないかなという体重計です。1機種です。ちょっと誇りに思っています。
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