遊んでいる姿が楽しそうなのが大事――マリオの父、宮本茂氏の設計哲学(後編)(2/5 ページ)
おじいちゃんは僕らのようにゲームをしない
宮本 こうして、できるだけゲームに関わる家族の人数を増やしていこうと思いました。「おじいちゃんはゲームをしない」と決めてはいけない。おじいちゃんは僕らのようにゲームをしないですが、ゲーム機の電源を触る、リモコンをちょっと触るといっただけで、おじいちゃんとしてはすごく遊んだ気分になれるかもしれない。「僕らは自分が面白いというレベルを、面白さのレベルに置いていないか?」ということです。人それぞれなんです。
例えば、若い人も彼女が「すごーい」と言ってくれたら下手でもうれしいですよね。彼女も彼氏と一緒に遊べたら下手でも楽しいですよね。そういう視点ができてきて、WiiではMii(参照リンク)という似顔絵を作る機能を入れているのですが、これはすごく大事なんです。Wiiを子どもが買ってもらっても、お父さんやお母さんのMiiを多分作りますし、おじいちゃんやおばあちゃんがいたらそのMiiも作りますよね。
似顔絵のソフトを作ると必ず、社内や作っているチームの中で「宮本さんは絵を描くのが好きだから作れるけど、絵を描けない人は似顔絵なんか作るのは苦痛なんですよ」とか「似ないんですよ、全然」と言われるのですが、僕がおじいちゃんの立場だったら、孫が作ってくれたら似てなくてもうれしいだろうと思うんですね。社内では「それは似てなくてもええのよ。自分で作って、家族がコミュニケートすることが大事なんだから」などと言って進めました。
そうすると、ゲームをする人もしない人も、家族がみんなWiiの中に自分のMiiを持っているということになります。そこで、「どこかでMiiとゲーム機とをつなげていこう」ということを考えるようになって、『マリオカートWii』(2008年)ではMiiを使って遊べます。世界のランキングに入っていきたいとか、タイムレースをすると面白くないですよね。勝てない人は絶対勝てないので。でも、「ドイツの人と俺は遊んでいたみたい」とか、意外な人とつながっているというのはうれしい。
実際のバンドでアドリブをやると緊張するので、腕がすくんでしまう。腕を振るだけならできるのに、ということでアドリブを楽しむ遊びとして作ったのが『Wii Music』(2008年)ですが、期待ほど売れませんでした。期待ほど売れなかったといっても、世界で300〜400万本は売っていると思うのですが。
変わらないからいいものもある
宮本 『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(2009年)は究極なんです。「ゲームは下手でも一緒に遊べる」という風船に入れる機能があって、風船に入っていると何もしなくてもゴールまでいける。「何もしない人がゴールに行けるゲームなんて許せない」とか言われるのですが、「いや、それがうれしい人もいるから」と言って作りました。これは2009年12月だけで世界販売本数が1000万本を超えました。ちょっとまた自慢が入っちゃいました(笑)。
河津 『スーパーマリオギャラクシー』などで3Dのマリオを出していて、その後に『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で2Dの横スクロールタイプのマリオに戻そうと考えられたきっかけはどういうところにあるんですか?
宮本 若い人にシリーズものを作ってもらうと必ず起こるのが、前のものを変えようとするんですね。「変わらないからいいものもある」ということをいつも言うのです。「変えよう」「新しいことをやっていこう」というのは正しいエネルギーなんですね。ただ、「前のものを変えた結果が前のものを超えるか?」という視点はプロとしてはすごく大事ですよね。
そうすると、変える時に「なぜそう作っていたのか」を知る必要はありますよね。「なぜそう作っていたのか」を知らないで変えたら、その人がなぜそう作ったのかという理由と同じことをもう1回経験するだけになって、最後はもとに戻ってくることになる。そこから学ぶということも大事なのですが。
僕らはマリオをどんどん変えることを良しとしてきて、3Dにすることも良しとしてやってきたのですが、「3Dのマリオで、もともとのマリオが持っていた大事なものが失われていないかな」という話が出たんです。初めてマリオシリーズに触れる人に遊んでもらったら、やっぱり「最初の『スーパーマリオブラザーズ』が面白い」といまだに言うんですよね。「そうなのか? 恥ずかしくて見せられへんよな」と思うのですが、「いや、こっちの方が面白いです」と言う。
それで、DSを作る時にもう1回原点に帰ろうとしたのです。そうして作ったら、やっぱり僕らでも楽しいと感じたところが2Dのスタートですね。ただ、今度はちょっとそこからさらに広がったんですけどね。
河津 『New スーパーマリオブラザーズ Wii』には多人数で遊ぶと、また違った面白さが出るような仕掛けが仕込まれているのですが、みんなで遊ぶということに関してどのようにお考えになったのですか?
宮本 これは30年前に戻るのですが、ファミコンを作る直前に『マリオブラザーズ』(1983年)というゲームを作ったのです。ゲームセンター用に最初は作ったのですが、2人で同時に遊ぶというゲームです。
ゲームセンターでは、「100円玉を入れて、いかに長く遊ぶか」ということがプレイヤーの目的ですよね。そして、2人でプレイできるようにしたら、「2人で協力していかに長く遊ぶか」となるわけです。『マリオブラザーズ』は2人で協力したら、難しいステージでも進んでいけるんです。ところが、つい殺し合いをしてしまう、人の性で(笑)。すぐに終わって、また100円玉を入れてしまう。ゲームセンターの人にはすごく喜ばれました。
そういう「ついやってしまう」という面白さが忘れられなくて、マリオシリーズを作っている時は毎回、2人で遊べるような仕組みを考えるんです。ところが、処理能力などの問題でなかなかうまく作れなかったのですが、Wiiくらいになってくると「結構いけるんじゃないの?」ということになって、「やるんなら4人で遊ぼう」ということで作ってみました。
当然、作っている最中に「こんなんじゃゲームにならない」とか、「本来のゲームはこうあるべき」といったいろんな反対意見が出てくる。それを、「いや、そうじゃなくて、初めて遊ぶ人も一緒に遊べて、上手な人も面白いと思うものを作りたい」という議論を徹底してやって、最後の方は僕が「もっと難しくしよう」と言うと、現場が「それはかわいそうだ、もっと易しくしてあげましょう」という戦いになるくらいになっていましたが。
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