「『忍者じゃじゃ丸くん』って書きながらオレは泣いちゃったよ」――あの人気雑誌の裏側を振り返るトークイベント「ヒッポン・エイジス」に参加してきた日々是遊戯

平林久和氏や鈴木みそ氏など「ファミコン必勝本」関係者が昔を振り返るイベント「ヒッポン・エイジス」。平林氏が「じゃじゃ丸くん」で涙を見せた理由とは……。

» 2011年11月22日 16時51分 公開
[池谷勇人,ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

あなたは「ヒッポン」を覚えていますか?

 その昔、「ファミ通」「ファミマガ」「マル勝」と並んで、“4大ファミコン雑誌”と呼ばれた雑誌がありました。正式な名称は「ファミコン必勝本」。ファンには「ヒッポン」の愛称で親しまれ、他の3誌にはない自由な編集方針で、80年代のゲームカルチャーを先頭に立って牽引してきた雑誌のひとつです。

 そんな「ヒッポン」に関わった編集者やライターたちが再び集まり、当時を振り返るトークイベント「ヒッポン・エイジス〜あの雑誌の誌面から振り返るテレビゲーム80's」が11月19日、阿佐ヶ谷ロフトAにて開催されました。出演者は、ゲームアナリストの平林久和氏をはじめ、漫画家の鈴木みそ氏、ライター・小説家のベニー松山氏などいずれも「ヒッポン」に関わり「ヒッポン」から巣立っていった現役の著名人たち。3時間にわたるイベントでは、貴重な「ヒッポン」制作の裏話も多数明かされ、ファンにとっては忘れられない一夜となりました。

画像 左から順に、成澤大輔氏、平林久和氏、とみさわ昭仁氏、元宮秀介氏
画像 メインの出演者4名に加えて、鈴木みそ氏やベニー松山氏らがゲストとして登壇

「忍者じゃじゃ丸くん」で泣いた理由とは

 個人的に印象深かったのは、創刊編集者のひとりである平林氏が、「ファミコン必勝本」創刊当時を振り返ったくだり。平林氏は当時コピーライターの仕事にあこがれて宝島社(当時はJICC出版局)に入社したものの、入社早々「ファミコン必勝本」の立ち上げ部署に配属され、大きな失望を感じていたそうです。

「当時はまだゲーム自体が世の中から低く見られていたし、メーカーへ挨拶に行くと部下が上司のことを“アニキ”と呼んでいたり、名刺を出そうとしたら相手の小指がなかったりとか、そういうことがしょっちゅうだった。ある時、会社で創刊のための資料を作ってたんだけど、『忍者じゃじゃ丸くん、ジャレコ』ってワープロに打ち込んでて、オレは泣いちゃったんだよ。この『じゃ』の韻の汚さ!(ここで会場は爆笑) 秋山晶に憧れて出版社に入ったのに、オレは何をやってるんだろうって」(平林氏)

 当時のゲーム業界は「インテリが作ってヤクザが売る」とも言われていたほどで、そこに突然配属されてしまった平林氏が困惑するのも無理はなかったかもしれません。しかし、その後ある出来事がきっかけで平林氏は「ファミコン必勝本」の仕事に真剣に取り組むようになります。

「当時のゲーム業界なんて、100人いたら99人がろくでなしの集まりだった。でも、100人に一人、本当に天才だと思えるような人たちがいたんだよ。それこそ任天堂の宮本(茂)さんとか『ドラクエ』の堀井(雄二)さんとかね。そういう人に出会えたというのがひとつ。もうひとつは個人的な話になるんだけど、『ファミコン必勝本』が創刊されたとき、うちの父親が亡くなってるんです。それまでオレは父親からはいろんなことを教わってきたけど、これは父親からの最後のメッセージだと思った。オレは死ぬけど、同時にひとつの雑誌がこうして生まれた。おまえはそれに打ち込むべきだって。それでやっと、この業界とちゃんと向き合っていこうと思えるようになった」(平林氏)

 平林氏はほかにも、当時のゲーム業界がいかにヤクザでバブリーだったかを物語るエピソードとして、こんな話も披露しています。会場では「オフレコで」とのことでしたが「タイトル名は伏せて」という条件付きで掲載許可をいただきました。

「あのころは出せば100万本と言われていた。当時『○○○○○○○』っていうとんでもないクソゲーがあったんだけど、それでも30万本売れた。それでメーカーの人が言ったんだって。『やっぱりこんなゲームじゃ30万本しか売れないよね』だって(笑)」(平林氏)

画像 「ヒッポン」創刊時から参加していた平林氏。3時間のうち半分くらいは平林氏が一人でしゃべっていた気が……
画像 休憩時間中、成沢大輔氏がスクリーンに当時の目次を映し出すと、会場からは大きなどよめきが

当時は「人買い」も日常的に行われていた!?

 イベントの後半では、「ヒッポン」の略称が生まれるきっかけについて、当時読者コーナーを担当していた鈴木みそ氏が語る場面も。のちに「HIPPON SUPER!」へとリニューアルされ、愛称から正式名称になった「ヒッポン」ですが、そもそものはじまりは読者投稿だったそうです。

「読者からのハガキに『いい略称を考えました。ファミコン必勝本だからヒッポンでどうですか!』って書いてあって、面白かったからみんなに見せて回ったんだよ。『ヒッポンだって(笑)』って。そしたら半年後には誌名がヒッポンになってた(笑)」(鈴木みそ氏)

 みそ氏はほかにも、当時の「ヒッポン」の制作風景を次のように振り返っています。

「とにかく人手が足りなかったから、仕事が終わった後に近所の朝までやってるゲームセンターに行って、若いヤツを物色するんだよね。俺は“人買い”って呼んでたけど(笑)。それで朝までゲームやってる不良をつかまえて、『ゲーム遊びながらお金がもらえる仕事があるんだけどどう?』って声をかける。そのまま会社に拉致して、『じゃあ写真撮れるまでやってね』っていうんだけど、そうすると大抵のやつは泣いちゃう(笑)。でもたまに泣かないヤツがいて、そういう一握りがものすごく使える」(鈴木みそ氏)

 ゲームを売る方もヤクザなら、雑誌を作る方もなかなかのやんちゃぶり。しかし改めて振り返ってみると、そうした「危うさ」ともとれるような「やんちゃ」こそが、当時のゲーム業界の、そして「ファミコン必勝本」の魅力だったのかもしれません。

 そうした当時の背景を象徴するものとして、ここでもうひとつ平林氏の言葉を紹介します。ベニー松山氏と、当時連載されていた「ウィザードリィ」の小説について振り返りながら、平林氏は次のように語りました。

「こうして振り返ってみると結局、オレたちはただやんちゃな80年代を送ってただけなんだよね。『ウィザードリィ』の小説にしたって、面白そうだから小説にしただけ。それが今じゃ、ベニー松山“先生”なんて呼ばれるようになった」(平林氏)

 個人的には平林氏のこの言葉が、80年代と「ヒッポン」という文化をすべて言い表しているように感じました。当時はまだ未成熟で、しかしそれゆえに強烈な熱をもっていたゲーム業界と、そこをがむしゃらに駆け抜けていった「ヒッポン」。本来、悪い意味で使われることの方が多い「やんちゃ」という言葉こそが、今なお続く「ヒッポン」の人気を生み出し、支えてきたキーワードなのかもしれません。

 終わってみればアッと言う間の3時間でしたが、最後に平林氏らが「またやりましょうか!」と次回開催に向け意欲を見せると、客席からはこの日一番の大きな拍手が。休刊から10年以上経ってもこうして愛され続ける「ヒッポン」の人気を改めて実感させられた一場面でした。今回参加できなかった人はぜひ、次回の開催を楽しみに待ちましょう。

画像 当時は「ちゃっきりみそ」の名前で参加していた鈴木みそ氏
画像 「ウィザードリィ」の小説を連載していたベニー松山氏
画像 当時の誌面をスクリーンに映しながら振り返る場面も

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/02/news120.jpg 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  2. /nl/articles/2410/01/news047.jpg プロ警鐘「エアコン、夏が終わったらコレやらないと……」が530万再生 水漏れや“内部のスライム化”を防ぐコツが目からウロコ
  3. /nl/articles/2410/02/news185.jpg “医療ミス”で両頬に大きな火傷 「鏡見るたび涙が止まらない」フォロワー24万人のモデルが悲痛の声 「周りの目が怖い」
  4. /nl/articles/2410/02/news188.jpg 「平成に戻っちゃった」 マクドナルドが「まさかの内容」を投稿→“ネット老人会”のみなさんが思わず二度見
  5. /nl/articles/2410/03/news031.jpg 実家からヤバそうな「母のイチオシ」段ボールが届く→開けてみると…… 胸がじわっとあたたまる裏切りに「母様 最高」「愛がいっぱい詰まってる」
  6. /nl/articles/2410/03/news172.jpg 「驚愕の修理代」の金額明かす お見送り芸人しんいち、約2000万円の愛車が故障で「終わった」「お金がないです」
  7. /nl/articles/2410/02/news013.jpg 【今日の計算】「5−5÷5+5」を計算せよ
  8. /nl/articles/2410/03/news073.jpg 母が高校生娘に作る“モザイク弁当”をのぞくと…… 325万再生の芸術のような美しさとおいしそうな見た目に驚き
  9. /nl/articles/2410/03/news022.jpg 「こんなことになるなんて」 安全靴を購入→10分もしないうちに…… 買った直後に起きた“まさかの事態”に騒然
  10. /nl/articles/1809/23/news019.jpg 炊飯器いっぱいに炊けまくった米…! 「5.5合炊いて」が生んだ悲劇に「全米が泣いた」「笑いすぎてしんどい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声