8カ月かけて作ったゲームが、もしもたった82本しか売れなかったら――:日々是遊戯
「オプーナ」の初週2500本、「エブリパーティ」の641本など、ゲーム業界には多くの「売れなかった伝説」がある。しかし、それらを上回る伝説を打ち立ててしまった男がいた……。
悲しみを背負った男、ゲイムマン
連載「レトロゲームが大好きだ」でもお馴染みの、覆面ゲームライター・ゲイムマン(@geimman)がTwitterで落ち込んでいる。昨年配信したケータイ用ゲーム「横浜妖精奇譚」が半年で82本しか売れておらず、当初は3作目まで作る予定だったのが、完全に白紙に戻ってしまったという。
あまりにもかわいそうだったので、電話で直接お話をうかがってみた。
―― ええと、大変聞きにくいのですが、82本というのは本当の数字ですか?
ゲイムマン 本当です。月末にならないとその月の販売本数が出ないんですが、少なくとも先月末の時点では82本でした……。
「82本」という数字はゲイムマン本人が、フォロワーとのやりとりの中で明かしたものだ。発売前は「TGS(東京ゲームショウ)にも出したし、悪くても1000本、うまく転がれば1万本くらいは……」と期待していたが、現実はそう甘くなかった。
「横浜妖精奇譚」は、以前東京ゲームショウに出展した際にも紹介している。昭和61年の横浜を舞台とする、昔ながらのコマンド選択式アドベンチャーゲームで、あえてファミコン初期のようなレトロなドット絵と雰囲気にこだわった。
―― どうして売れなかったんでしょう。
ゲイムマン やっぱり告知の少なさと、携帯電話用アプリというプラットフォームを選んでしまったことですかね。ゲーム内容のせいではなかった、と思いたいです……。
実は筆者もTGSの後で遊ばせてもらったのだが、決して悪いゲームではなかった。
わざわざカタカナの「パピプペポ」を使わずにテキストを書いていたり(昔のゲームは容量を節約するため、使用頻度の低いカタカナフォントを削ったりしていた)、あえて背景を「一枚絵」にせず、8×8のマップパーツの組み合わせで表現していたり(これも容量を節約するためによく採られた手法)と、よくある「レトロゲーム“風”」ではなく、嘘偽りのない、本当の「レトロゲーム」を目指したのがよく分かる。
時代考証にもこだわり、徹底して「昭和61年の空気」を再現した。だからゲーム中には一切、昭和62年以降の話題やネタは出てこない。遊ぶ人は選ぶが、刺さる人には刺さる、そういうゲームだ。
―― そもそもどういう経緯で作ることになったんですか?
ゲイムマン もともとゲームは作りたかったんですよ。それと当時、ちょうど女の人に振られてものすごく落ち込んでいて、そのとき抱えていたものを全部ゲーム開発にぶつけようと思ったんです……。
シナリオ、グラフィック、スクリプトなど、開発はほぼすべてゲイムマン1人で行った。ゲーム中にはアイドルや美少女の姿を借りた「妖精」たちが何人も出てくるが、これらはすべて過去、ゲイムマンの周りを通り過ぎていった女性たちを投影したものだ。悲しい、悲しすぎるぞゲイムマン……!
―― PCやiPhoneに移植したりはしないんですか?
ゲイムマン 実はそう思って先日、VectorでWindows用体験版の配信を開始しました。フルバージョンも現在準備中です。
おお! ゲイムマンによると、PC版は携帯アプリ版の忠実な移植で、体験版では全8章のうち4章まで遊ぶことができるとのこと。製品版もほぼ完成しており、こちらもまもなく配信予定だ。
先ほども書いたとおり、決して悪いゲームではないし、このまま話題にならず忘れられてしまうのはあまりにも惜しい。好みは分かれるだろうが、世が世なら「21世紀の現代にあえて“昭和61年”を完全再現しようとした奇ゲー」として語り継がれたかもしれない作品だ。
出したゲームについて「クソゲー」だと叩かれるのは悲しいが、話題にもならず忘れられていくのはもっと悲しい。ましてそれが良作だったらなおさらだ。
もしもこれを読んで「横浜妖精奇譚」に興味を持った人がいたら、ぜひプレイしてみてほしい。携帯電話版(docomo、Softbank対応)は315円にて配信中、PC用体験版はVectorにて無料配信中だ。
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