老舗ゲーセン「ミッキー」32年の歴史に幕 開店以来貫いた「1プレイ50円」のココロ
神保町のゲームセンター「ゲームコーナーミッキー」が3月29日で閉店する。閉店前にもう一度見ておきたい! ということで店長にお話をうかがった。
神保町のゲームセンター「ゲームコーナーミッキー」が、3月29日をもって32年の歴史に幕を下ろす。公式サイトに「閉店のお知らせ」が掲載されると、長年のファンから「ショック」「やめないで」といった声が溢れた。
まだまだ続けたい、なくなってしまうのはやはり寂しい――。そう本音を漏らすのは、現在の店長・平井誉政さん。建物の老朽化による“やむを得ぬ判断”とは言え、間近で歴史を見てきた老舗との別れには、やはり複雑な思いをつのらせる。
改築を重ね、ダンジョンのようになった店内
神保町駅から徒歩1分。昭和57年(1982年)から営業しており、この界隈ではもっとも有名なゲームセンターだった。経営元は、両替機やゲーム筐体などの製造・販売を行う三木商事。ミッキーの名前はもちろん「三木商事」からとったもので、同社の両替機や筐体のロケテストもここで行っていた。
入り口は1階だが、細い階段を上るとパチンコ・パチスロ台などが置かれた“中2階”があり、そこからさらに階段を上った2階がメインフロア。2階と中2階をつなぐ階段は3カ所にあり、はじめて訪れた時はダンジョンのような構造にびっくりした。聞けば、2階のひときわ奥まったところにあるスペースは元配電室、中2階奥のパチスロコーナーにいたってはなんと元トイレだったという。入り組んだ構造は改装のたびに営業スペースを広げていった結果だそうだ。
1プレイ50円でも「営業面はまったく問題なし」
都心のゲームセンターは1プレイ100円が標準だが、ミッキーは開店以来ずっと1プレイ50円を貫いてきた。「できるかぎり多くのお客さんに、安く、長い時間遊んでもらう。それ自体がいつのまにか店の目標になっていた」と平井さん。近くには大学や予備校もあり、特にお金のない学生にはありがたいお店だった。経営は大丈夫だったのかと聞くと、値上げについては「まったく予定はなかった」という。
昨今、経営不振で店をたたむゲームセンターは多いが、ミッキーの場合、営業面ではまったく問題はなかった。クレーンゲームなどを置いた時期もあったが、やはりビデオゲームを目当てに来るお客が多く、主役は最後まで50円のビデオゲームだった。
お店を支えたのは、メインの学生客のほか、卒業後も足しげく通ってくれる常連客たち。閉店発表後に寄せられた反応の量を見れば(Togetter)、ミッキーから巣立っていった「卒業生」がの多さが分かる。
ゲーム好きな仲間をつなぐ“場”
家庭用ゲームの進化により、最近ではわざわざゲームセンターまで足を伸ばす人は少数派だ。ゲームセンター全盛期を支えた格闘ゲームも、ネット対戦のおかげで「家庭用で十分」という人が増えた。
しかし、それでもミッキーに通ってくれる人たちは多い。彼らは何を求めてゲームセンターに足を運ぶのだろう。
「友達といっしょに騒ぎながら遊ぶ楽しさって、やっぱりゲームセンターでしか味わえないと思うんです。それに同じゲームで遊ぶ人たちが自然に集まるから、遊んでいるうちに仲間ができたりもする」(平井さん)
確かに「行けば気の合う誰かがいる」という感覚はゲームセンターにしかないものだ。特にミッキーの場合、「パカパカパッション」や「鉄拳」好きが集まるお店としても有名だった。「パカパカパッション」は全国2位のスコアラーも通っていた“東の聖地”として愛され、「鉄拳」ユーザーの間では、火曜はミッキーに集まって対戦する“火曜ミッキー”という習慣もあった。昔のノートを見せてもらうと、びっしりと描き込まれたイラストやメッセージから、ファンが楽しそうに交流している様子が伝わってくる。ゲームが好きな仲間同士をつなぐ“場”としての意味も大きかった。
「見納め」前にふたたび訪れる常連客も
実は僕も7〜8年前は神保町で働いており、当時はよく仕事をサボって仕事の休憩中にミッキーで遊んでいた。今回、久しぶりに店を訪れてみると、“建物の老朽化のため、営業を続けることが非常に困難な状態”という言葉の意味がよく分かった。
木造の床は歩くとフワフワと沈み、天井を横切る梁には大きな亀裂が入っていた。カーペットはところどころ破れてホチキスで止めてあり、壁の穴はガムテープで補修してあった。まさに満身創痍といった状態で、「あの重たいゲーム機をよく何十年も支えてくれたと思います」という言葉も大げさではなかったんだな、とあらためて実感する。東日本大震災にも耐えた建物だったが、ビルのオーナーからは以前から「そろそろ限界かな」という声があった。
建物自体はふたたび建て替える予定だが、新しいビルにミッキーが入る予定は今のところない。閉店のお知らせが話題になると、かつての常連たちから「閉めちゃうんですか」といった問い合わせが相次いだ。最後にもう一度見ておこうと、ふたたび店を訪れる常連も多いという。
最終営業日は3月29日まで。建物の老朽化が理由とは言え、またひとつ日本からゲームセンターの火が消えてしまうのはやはり寂しいものだ。
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