「スマホの使いすぎで小指が変形=テキストサム損傷」は誤用? いつから誤解が広まったのか調べてみた

本来の「text thumb injury」はスマホの使いすぎによる親指の腱鞘炎などを指す言葉でした。

» 2015年03月10日 18時50分 公開
[ねとらぼ]

 スマートフォンの長時間使用が原因で、指の形が変わってしまったり、しびれや痛みを感じたりする「テキストサム損傷」が話題になっています(関連記事)

 ――が、そもそも本来の「テキストサム損傷(text thumb injury / texting thumb)」は、「サム(親指)」と言う名のとおり、スマホの使いすぎで生じる親指の腱鞘炎などを指す造語。今回話題になっていたのは「スマホの使いすぎによる小指の変形」でしたが、いつのまに「親指の腱鞘炎」だけでなく「小指の変形」もテキストサム損傷と呼ばれるようになったのか? 気になったので、日本での「テキストサム損傷」の使われ方について調べてみたところ、誤解が広がるきっかけになった「震源」をほぼ特定することができました。




2011年12月5日:AFP通信が「テキストサム損傷」について報じる

 テキストサム損傷について、おそらく日本で最初に報じたのはAFP通信の「スマートフォン使用で体を痛める人が増加、使いすぎにご用心」(2011年12月)という記事。これ以前でネットやTwitterを検索しても「テキストサム損傷」という単語は出てこず、この記事が初出とみてほぼ間違いなさそうです。

 記事内では、「小さな画面を長時間眺めたり、小さなキーを打ち続けることによって、体を痛めることもある」「スマートフォンの使いすぎで親指が腱鞘炎になった患者を診た」などとあり、ここでは小指の変形については触れられていません。




2012年12月ごろ:ネットで「小指の変形」が話題に

 それから1年ほどして、今度はネットやTwitterなどで「スマホの使いすぎで小指が変形した」といった投稿が現れはじめます。こうしたツイートを集めたNaverまとめも作られ、心当たりがある人が「やばい!」と拡散。ただ、このころはまだ「テキストサム損傷」という言葉は使われていませんでした。






2012年12月29日:JCASTニュースが「小指の変形」報道 ← ここで誤解発生?

 そしておそらく、「小指の変形=テキストサム損傷」という誤解が決定的に広まったのがここ。上記Twitterの報告をもとに、JCASTニュースが「スマホ使いすぎで小指が変形した! 『怖すぎる症状』の訴え増える」という記事を掲載するのですが、この中で「海外ではこうしたスマホなどが原因で起こる指へのダメージはすでに『テキスト・サム損傷』と呼ばれ、問題視する声が広がっている」と説明されているのが確認できます。



 ただ、記事ではおそらく「スマホによる指へのダメージが問題になっている一例」としてテキストサム損傷をあげていたと思われますが、これを読んだ一部の読者が「小指の変形=テキストサム損傷」と誤解。翌日には「スマホの使い過ぎで指が変形するのは『テキスト・サム損傷』って言うらしい」というまとめまで作られ、「サムって親指のことだけど、親指以外の指にでも『テキストサム損傷』って使えるんですね」と、ますます誤解が広がっていきます。これまでは別々の話題だった「テキストサム損傷」と「小指の変形」が、ここで完全に合体してしまいました。






2013年以降〜 「テキストサム損傷=小指の変形」という認識が定着

 結局、上記記事やまとめが決定打となり、2013年以降になると「小指が変形してた=テキストサム損傷だ!」という認識がほぼ定着。Twitterでも「テキストサム損傷=小指の変形」というツイートが頻繁に見られるようになっていきます。





 また、そもそも「テキストサム損傷」という言葉を作った海外ではどうなのか、念のため調べてみたのですが、ざっと検索してみたかぎり、海外では「テキストサム損傷」はやはり親指の腱鞘炎を指す言葉であり、小指の変形という意味で使っている例は見当たりませんでした。となるとやはり「テキストサム損傷=小指の変形」というのは、誤解から発展した、日本独自の呼び方と考えてよさそうです。




ドコモは「ネットで話題になっていたので」

 以上を踏まえて、あらためてドコモ広報部に問い合わせてみたところ、今回のツイートは「特に医学的な背景があったわけではありませんが、インターネット上で話題になっており、実際に痛みを訴えている人も多かったことから、スマホを使う際の注意喚起としてツイートさせていただきました」(ドコモ広報部)とのことでした。

 当初ねとらぼでも、「サムなのになぜ小指……?」と疑問に思いつつ、2013年の時点ですでにかなりの人が「小指の変形」という意味で使用していたこと、もともと正式な病名ではなく造語であったことなどから、「テキストサム損傷=スマホによる指へのダメージ全般」という意味合いで記事を作成していました。が、調べてみるとやはり「小指の変形」はもともとテキストサム損傷とは関係のない症状で、誤解により広まった日本独自の呼び方という可能性が高そうです。


※なお、ネットに投稿されている写真について、「凹んでいると思ったけど左右並べてみたらどちらの指も凹んでた」「もともとある指のくぼみでは?」など、そもそも「小指の変形」自体を否定する意見もありましたが、「実際に小指に痛みがある」といった声も多く見られ、「小指の変形」が実際に起こりうる症状なのかについてはまた別の検証が必要かもしれません




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