昭和の香り漂う喫茶店「カド」。入ってみたら……想像を絶する異空間だった!
古き良き。
墨田区向島。東京一の花街とも、東京スカイツリーの麓とも言われるここは、時代を超えても健在する古き良き風景がいまだに残る場所。そんな町並みにふさわしい外観をした喫茶店がある。
と、ここまではよくある光景ですが、大きく掲げられた看板には「カド 季節の生ジュース くるみパン」と明記されています。生ジュース? くるみパン? この風貌にこのメニュー……。ピンとこない表記に興味はマックスそそられ、さっそく店内へ入ってみました!
ドアを開けた瞬間、目に飛び込んだのは壁一面に飾られている絵画の数々。しかもリアルに描かれた大きな肖像画ばかり。見上げれば、天井にも! さらにシャンデリアがその豪華さをいっそう格上げしています。 “面食らった”とは、まさにこういうことかもしれません。ドアの前に立ち尽くしてしばし呆然。
「お好きな席にどうぞ」と声をかけられ、我に返って店内を見渡すと、黄色のバラ柄テーブルに心を奪われて着席。すると、ご主人が「ここは初めてですか? でしたらご説明します」と丁寧な説明をしてくれました。オススメのサンドとドリンクを注文し、その間は店内を物色。
店は、注目したい珍しいもので埋め尽くされています。気になるのは、ヴィクトリア調のゴージャスな装飾に昭和時代のレトロな品々。大正時代のものまであります。考え付かないような組み合わせが意外にもマッチし、オシャレな空間になっているセンスの良さに脱帽です。建築やデザインを学んでいる学生さんなら、勉強になるのではないでしょうか?
そしてそれらは、ただのアンティークかと思いきや、現在も使用しているものがほとんどだそうです。ご主人がスイッチを入れてくれた扇風機はかなり強風で性能がいい。製作した昔の日本人の魂までも感じさせられました。
メニューは壁にある年季の入った紙に書かれたもの。これらには、初代店主の直筆のものが多数あります。つまり、当時から変わらぬメニューを提供しているということ。店の雰囲気に“味”の与える逸品ですね。
さらに話を聞けば、この店のオープンは昭和33年。今のご主人の亡きお父様が初代店主だったそうです。そして今年で57年目。その頃から店の中も外もメニューも、ほぼ変えておらず、傷んだ箇所は独自に修復しているとのこと。現在の天井とテーブルに描かれたバラはご主人の作。手作りなのに完成度が半端ないです!
そして驚くことに、この店の設計は、有名な小説家・志賀直哉さんの弟である志賀直三さんだといいます。ロンドンに留学していた直三さんは帰国後、この喫茶店に訪れ、当時のマスターであったお父様と仲良くなったそう。その感性がふんだんに盛り込まれている喫茶店なのです。
そうこうするうちに注文した品ができました。全粒粉にクルミとドライブルーベリーを練り込み、ひまわりとかぼちゃの種を乗せた手作りパン。そこに焼きナスとモッツアレラチーズなどをはさんだサンドウィッチです。プラス、45年間愛され続けている医食同源漢方的配合の活性生ジュース。サンドは素朴な味のパンと具材の相性が抜群。そしてジュースは絶品! 酸味とほのかな甘みが溶け合い、体にスーッと染み込むような喉越しは病みつきになりそうです。
ちなみに、持ち帰り用のパンもあります。焼き上がりはお昼頃。ALL300円とリーズナブルなのが嬉しいですね。
外からは想像しがたい店内に、聞けば聞くほど歴史深い店事情、そしてハイカラで健康的なメニューの品揃えと、どれをとっても相容れない要素にお腹いっぱいになったことは言うまでもありません。この三位一体が、この店の大きな魅力。一度足を運んだら、常連になりたくなること間違いなしです。
(茂木宏美/LOCOMO&COMO)
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