カップリングは学問! (たぶん)世界初の「カップリング表記研究家」に会ってきた

カップリング表記、それは愛。

» 2017年06月11日 11時00分 公開
[ちぷたそねとらぼ]

 「カップリング表記」とは、同人活動において日常的に使用されている「キャラクター間の関係性を表すもの」です。キャラクター間にカップルもしくは友人関係を見いだし、大体はそれぞれに「受け」「攻め」といった役割を持たせ、「○○×□□」などキャラクターの名称2文字程度を使って×でつなげるなどして表現します。

 カップリング表記によくあるものはこうした「×でつなぐもの」「記号を使わずに連結で表現するもの」「“○○攻め”のように攻め受けで表記するもの」「ハートでつなぐもの」など、数多くの表記が存在します。


AA攻めのBB受けという関係性を例にとった説明

 普段、アニメやゲームなどに触れない方からすると聞きなれない言葉かもしれませんが、「カップリング」としてキャラクター同士の関連性に萌えを見いだすことは、オタク活動を楽しむ上では最高のスパイスとなるのです。そして今回、そんな「カップリング表記」について研究されている多分世界唯一の方に話を聞くことができました。カップリング表記研究家、サークル「あまあまくろにくる」のタルトさん(@Tarte41)です。


タルトさんの出されている同人誌。検定もあります

 タルトさんはご自身の研究をまとめた同人誌をコミケで頒布されていたり(通販:COMIC ZIN)、2016年には秋葉原の私設図書館「シャッツキステ」にてカップリング表記検定試験を行ったりもしています。筆者がタルトさんの本、『カップリング表記データブック』に触れたきっかけも、シャッツキステに置いてあった本を手に取ったことがきっかけでした。

 『カップリング表記データブック』からあふれる原作へのリスペクトや愛、そして学問や文化のようなカップリング表記の奥深さ、面白さ。そんなタルトさんの研究内容に興味津々だったのと、「この人どれだけカップリング表記が好きなんだ……?」と、タルトさん自身に興味を持った筆者は、お願いして実際に話を伺わせていただくことになりました! そんなわけで、奥深い「カップリング表記」の世界、はじまるよ!

(たぶん)世界初、カップリング表記研究家


カップリングとは関係性を楽しむもの(『カップリング表記データブック2001×2016』P.6より引用)

 そもそもカップリング文化が強いのは女性のオタク界隈(かいわい)なのもあり、てっきり研究されている方も女性だと思い込んでいました。実際はタルトさんは男性の方。それも腐男子とかそういうわけでもない、アナログゲームを好むオタク男性の方でした。

 ただ、オタク女性だと、AA×BBのカップリングは好きだけどAA×CCのカップリングは無理という、「そのカプは地雷」という状態に陥ったりもするので、「研究中に地雷のカップリングが視界に入ることはあるんだろうか……?」と勝手に心配していた筆者はタルトさんが男性だったということに納得もしました。そう、カップリング表記を研究するには、カップリングへの愛と同時に「地雷がない」ということも重要な事項なんです。


カップリング表記データブック2001×2016とタルトさん

カップリング表記の一例。「流×花」「流花」「はなる」など、さまざまな表記とそれが指すキャラクターの関係性、表記数などを記録している(『カップリング表記データブック・作品ガイド』p.18より引用)

過去24年間分のコミケカタログに含まれる膨大なカップリング表記のデータを、目視で1つずつ手入力していく(『カップリング表記データブック2001×2016』p.3より引用)

研究を始めた理由は「なりゆき」


 いろんな人に聞かれているとは思うんですが、カップリング表記を研究するようになったきっかけを聞いてもいいですか……?



 もともと私、カップリングとは全然違う世界に住んでいたんです。学生時代はひたすらテーブルトークRPGをやってましたし、働き始めてからもカードゲームとかボードゲームとかネットゲームに夢中になってて、カップリングとか全く意識しない、ただのゲーマーでしたね。



 えー! そこからなぜカップリング表記研究者へ……?



 ですよね(笑)。ぶっちゃけると、カップリング表記を研究するようになったのはなりゆきです。今はもちろんすごい好きで研究しているんですけど、最初からカップリング表記を研究していたわけではなくて、もともと私の友達がイギリスの使用人を研究する研究者なんですね。講談社から「英国メイドの世界」という本を出してたりします。



 イギリスの使用人……メイドさんとか執事さんですね。



 彼がイギリスのメイドとか執事を調べていて、よく日本のメイド文化について聞かれるから調べたいと、彼を手伝ってコミケのカタログを調べることになったんです。コミケのカタログは国会図書館に古いものが全部あるんですけど、そこへ行って80年代90年代のコミケカタログを見てメイドさんが出ているサークルカットを探すという調査をしたんです。



 そんなかんじで昔のコミケカタログを読み始めたら、これが超面白い。今のコミケカタログって重さが1.6キロとかある紙製の鈍器なんですけど、最初期のコミケカタログは32ページしかなかったり、謎の「サークル相関図」とかついてたり。当時流行ってた作品とかも新鮮で、自分たちは普通に『キャプテン翼』見てサッカー楽しいって言っていたときに、コミケではこういうはやり方していたんだ! と衝撃を受けたり。

世代じゃなくても、オタクならめちゃくちゃすごかったとうわさに聞くキャプ翼(画像はAmazon.co.jpから)


 キャプ翼、めちゃくちゃ大手だったんですよね? すごかったらしいとは聞きます。



 すごい大手でしたね。この界隈にいると聞きますよね、やはり。本当にすごかったですよ。「コミケの参加者を底上げした」というぐらいで、さすがに一時代を築いただけはあります。それが80年代の、86年とか87年の出来事です。当時子どもだった私は「スカイラブハリケーンかっけー!」とか言ってたわけですが、その横では「ボーイズラブハリケーン」が吹き荒れていたという。



 誰がうまいことを……。国会図書館には全ての出版物が収められているというのは知っていたんですけど、コミケのカタログまで収められているってことにはちょっと驚きました。昔のコミケのカタログは私たちも普通に閲覧できるんですね。



 できます。ただ、国会図書館は借りて帰ることはできないので、テーブルにいっぱい積んでひたすらメイドを探して、メモ取ってコピーするということを延々とやっていました。そうしたら昔のコミケカタログって面白いなぁと。



 秋葉原のシャッツキステ(シャッツ)ってメイドさんが自分の好きなものを発表したり語ったりする、「夜話」ってイベントがあるんですけど、メイドさんだけじゃなく、たまに一般の方も発表されたりしてたんですね。なので、この「昔のコミケカタログ楽しい話」をさせてもらえませんかと相談してみたら、発表させてもらえることになりまして。2012年に「コミケカタログ夜話」というイベントをやりました。そこが研究としての出発点ですね。



 だからシャッツに『カップリング表記データブック』が置いてあったんですね〜!



 そのコミケカタログ夜話にちょうど米沢嘉博記念図書館(明治大学にあるまんがとサブカルチャーの図書館)の人が見に来ていて、米沢嘉博記念図書館でトークイベントをやることになりました。ここでも引き続きコミケカタログの話をしたんですけど、その中で一番反響があったのがカップリング表記の話でした。



 コミケカタログ夜話のときの1コーナーとして話したのですが、カップリング表記が80年代にはもうあったって話をしたんですね。最初のコミケカタログにもうカップリング表記があったとか、「攻め」とか「受け」は85年に書かれてるとか話していたら、それが一番反響が大きくて、その部分を論文にしないかということで論文を書きました。それからずっと研究してますね。だから本当になりゆきなんです。



 カップリングがめちゃくちゃ好きで追いかけていたわけではなく、コミケのカタログに魅せられた結果、需要に応えた形に……。カプの神に導かれたとしか思えない。



 ですね。当初研究していた内容とは全然違うので。

カップリング表記研究は「1日2時間を週6」

 カプ研究ですが、どれくらい時間をかけて調べているんですか?



 週5でSEとして働きつつ、「週6で1日2時間」と自分で決めてやっています。だから大体働いて帰ってきて、2時間調査して寝るという日々です。週に1日は研究しない日も作っていますね。



 仕事から帰ってきて2時間ですか。き、きついですね。あとやっぱり残業もあったりするじゃないですか。



 そうですね。だからほんとにつらいときは、取りあえず1時間だけやって後は週末に取り戻すということもあります。ただ完全に離れちゃうと良くないというのがあって、丸1週間やらないとかになっちゃうとズルズルやらなくなっちゃうし。ラストスパートかけられるような作業でもないので、コツコツ積み上げていくしかないんですよね。



 週6で2時間をずっと続けて、どれくらい調べられるものなんでしょうか。



 そうですね、大体コミケ1開催調べるのに200時間くらいかかります。回によるんですけど150時間から200時間、長いときで200時間かかるって感じです。今1年間で4開催か5開催くらい調べられている。でもそれって1年に2.5年分ですからね。まだあと10年分ぐらい調べなければならないのですが、1年に2.5年分調べてもその間に1年分調査範囲が増えてるわけですから、これいつ終わるのって話です……なのでペースを上げたいなとは思っています。ただこれ以上毎日のペースを上げると死んじゃうんで。ちょっとどこかで長期休暇を取ってガッツリ調べる期間を設けたいとは思っています。



 自分の生活を犠牲にしてまでカプの研究を……さすがはカプの神に選ばれし申し子……。サークルカットを調べるのは目視なんですもんね。



 調査はコミケのカタログを開いて、1ページにサークルカットが36個あるんですけど、カップリング表記があったらExcelに打ち込む。後で調べやすいように配置も打つ。カップリング表記しか書いてなかったりするので作品名を調べて、誰と誰かというキャラクター名も記載する。そういうのをやっているので時間がかかります。今は2002年を調べているんですけど、2002年の冬コミは大体1万8000くらいの表記数です。サークル数は約3万5000。それを取りあえず全部目視と手作業で調べていきます。



 スマホで読み取りとかできたらタルトさんの研究も楽になりそうなんですけどね……。



 今OCR(手書きや印刷された文字をイメージスキャナーやデジタルカメラなどで読みとって、コンピュータが利用できる文字コードに変換する技術)の性能もよくなっているのもありますし、関連会社の人に一回聞いたことがあるんですよ。でもやはり、サークルカットは難しいそうですね。



 カップリング表記、でかでかと書いてあるわけでなくて、絵のコメントでさりげなく書いてあったりもしますもんね。



カップリング表記も人それぞれ。カプの表記のあるところをこちらで赤丸で囲ってみました(タルトさんの2014年に発表された論文、「1980年代のコミックマーケットカタログにおけるカップリング表記の変遷」P.87より引用)


 そうそう、1番難しいのが、絵の中にデザイン的に入っているような表記。サークルカットにカップリング表記を書く欄が決まってたりとかしたらOCRもできたかもしれないんですけど、現状は目視ですね……。日々こつこつ頑張っています。

取りあえずみんな読もう

 今回はカップリングとは別の世界に住んでいたというタルトさんがカップリング表記について研究するようになるまで、そしてタルトさんの日々の研究について伺いました。次回以降はカップリング表記の面白さや奥深さを伺っていきます! あとタルトさんの本すごく面白いからみんな読んだ方がいい。

ちぷたそ

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