コラム
» 2017年07月18日 11時00分 公開

あれから10年、「ケータイ小説」が急速に廃れた理由とは? 現役女子高生に『恋空』を読んでもらった(1/2 ページ)

何がケータイ小説を“終わらせた”のか。

[長橋諒,ねとらぼ]

 今から約10年前。日本中の女子中高生の間で大流行した、「ケータイ小説」を覚えているでしょうか。

 10代の読者の方々はご存じないかもしれませんが、ケータイ小説は当時日本中で大ブームを巻き起こしたコンテンツであり、2000年代の若者文化を語る上でも重要なキーアイテムなのです。

 ケータイ小説とはその名の通り、「ケータイ」で書かれ「ケータイ」で読む小説のこと。今でいう「ガラケー」で書かれたその小説は、素人が「実話」を元に書いたものがほとんどだとされています。

 ただ、2017年現在、ケータイ小説という単語を久しく聞かなくなってしまいました。あれだけ流行したケータイ小説文化は、一体なぜ廃れてしまったのでしょうか。

 今回はその歴史と背景を交えながら、なぜケータイ小説が若者たちの間でブームになり、なぜ急速に人気が衰えたのかを探っていきたいと思います。

参考文献

『ケータイ小説的。 “再ヤンキー化”時代の少女たち』/速水健朗


ケータイ小説の歴史

 単にケータイ小説といっても、ひとくくりにして語るには難しい文化です。2000年代、携帯電話の急速な普及に伴い、さまざまなケータイカルチャーが中高生の間で人気となりました。特に「パケホーダイ」などの通信料定額サービスの影響で、“インターネットで遊ぶ”というハードルが低くなったことも背景にあります。

 「前略プロフィール」「学校裏サイト」「mixi」「魔法のiらんど」「個人ブログ」「●●掲示板」(バンドメンバー募集・画像掲示板とか)などは、当時触れていた方も多いのではないでしょうか。

 筆者は“非リア”な高校生活を送っていたため、専ら「2ちゃんねる」の住民でしたが(ROM専)、クラスの女子の大半はこのようなサイトで自らのプロフィールを作り、コミュニケーションをとっていたようでした。(今でいうTwitterやInstagramみたいなものですね)

 時を同じくして、中高生の間で流行したケータイ小説。専門家に「小説をほとんど読んだことのない作者によって書かれ、小説をほとんど読んだことのない読者に読まれている」とも揶揄(やゆ)されるほど、当初は大人たちには全く相手にされていませんでした。

 しかし、新垣結衣さん主演で映画化もされた『恋空〜切ナイ恋物語〜』を筆頭に、『赤い糸』『天使がくれたもの』『teddy bear』などいくつものケータイ小説が書籍として刊行されるやいなや、全国でベストセラーになりました。当時、街の本屋さんでアルバイトをしていた筆者は、平積みされたさまざまなケータイ小説を、子ども連れの主婦やスーツを着たおじさんが買っていった姿を記憶しています。

高校生の頃は流行に左右されたくない! とひねくれていたので、一切手をつけませんでした

第一次ブームと第二次ブーム

 さて、そんなケータイ小説には第一次ブーム第二次ブームがあることをご存じでしょうか。

 現在30代以上の方々にとってのケータイ小説といえば、Yoshiさんが個人のサイト上で連載した「Deep Love」が脳裏に浮かぶかと思われます。この小説は2000年初頭に書籍化され、大ベストセラーになりました。(学校の図書室にもあった気がする)

 この「Deep Love」を第一次ブームとし、本記事では次にご紹介する「第二次ブーム」にフォーカスしていきたいと思います。

 2006年以降の「第二次ブーム」を語るうえで欠かせないのが、携帯サイト「魔法のiらんど」の存在。もともとは個人ホームページを作れる携帯サイトとして人気だった「魔法のiらんど」に、小説が投稿され、それが中高生たちの間で評判を呼び、次々と書籍化されるようになったのです。

 それ以降、Chacoさんが執筆した「天使がくれたもの」を皮切りに、女性が“自らの恋愛経験”を小説の中に交えながら描く物語が、急速に世に送り出されるようになりました。

 このような自らの「リアル」を前面に押し出した小説たちの中でも最も売れた小説が、美嘉さんが書いた「恋空〜切ナイ恋物語〜」。上下巻を合わせて160万部以上の大ヒットを記録。2007年の文芸書売り上げ第1位となっています(トーハン調べ)

 そんな大ヒットを連発していたケータイ小説たち。しかしなぜ、急速にその名を聞かなくなってしまったのでしょうか。

 その理由は、参考文献として挙げた速水健朗氏の指摘にもある通り、郊外在住の中高生が好む“音楽”からの影響があるのではないかと筆者は考えています。

浜崎あゆみがいなかったら、ケータイ小説はなかったかもしれない

 ケータイ小説に出てくる主人公たちは、主に地方在住の中高生。最近は地元志向の強い「マイルドヤンキー」という言葉も生まれています。遊び場所は大きなショッピングモールやドン・キホーテ、車を使わないと行けないファミレスやカラオケボックスなど。「東京」という単語は、修学旅行先の候補くらいにしか出てきません。

 先述したように、ケータイ小説は自分たちの“リアル”を押し出していた小説。ゆえに、当時書き手だった層も、それを好んで読んでいた層も、主に郊外在住の中高生だったと予測されます。(流行した後は都内在住者もいたと思いますが)

 では、この郊外在住の中高生たちが特に好んで聴いていたアーティスト。どなたかお分かりでしょうか。

 答えは、浜崎あゆみさんです。

 実はケータイ小説は、浜崎あゆみさんと密接な関係にあります。

 ケータイ小説の中でも一番にヒットした作品「恋空」を例に挙げると、この作品には恋人との死別、レイプ、妊娠、流産、リストカット、DV、地元のつながり、ドラッグなど、ケータイ小説の定番ともいえる要素が全て入っているのですが、それに比べ“固有名詞”がほとんど登場しません。一般的な小説であれば、物語の舞台の地名、主人公たちが通う高校の名前、最寄り駅の駅名などの“固有名詞”が入ってくるのですが、恋空のみならずケータイ小説は全体的に見てもこれらが入っていないのです。

 にもかかわらず、なんと「浜崎あゆみ」というアーティストとその曲名は、“実際の名前”で登場します。このことは恋空だけでなく、他のケータイ小説も同じ。

べあ姫さんが書いた「teddy bear」。浜崎あゆみさんの曲には「teddy bear」というタイトルの曲がある

 ここから考えられる1つの結論は……。

 ケータイ小説の作者は、浜崎あゆみさんが作ってきた世界観に感銘を受けて執筆している方がほとんどなのではないか、ということなのです。

 浜崎あゆみさんの歌詞の特徴の1つに「泣ける」というキーワードがあります。浜崎さんは、過去のトラウマや、恋人関係、友人関係などの「リアル」を追求し、中高生の心に響かせました。そんなカリスマの詩に共感したリスナーが、自らの経験を交えて小説を執筆することは至極真っ当。ゆえに、浜崎さんがいなかったら、携帯小説は生まれなかったと言っても過言ではありません。

ケータイ小説を“終わらせた”ものたち

 ただ、月日は流れ……。

 浜崎あゆみさんが、中高生のカリスマではない時代になってしまい(と言っても現役バリバリのスターではあるのですが)、ケータイ小説もバイブルではなくなってしまいました。

 その理由はいくつかありますが、1つの仮説として「代用品」がたくさん生まれたということを筆者は提示します。

 1つ目の代用品が、「スマホ」です。Appleが「iPhone 3GS」を発売した2009年以降は、ガラケーからスマホに移行した若者が増え、それに伴いケータイ小説ならびに「ケータイカルチャー」も下火になっていきました。この2009年時点では、たくさんの携帯サイトがiPhoneに対応していなかったため、閲覧する人が極端に少なくなったという点もあるでしょう。特にmixiはアプリを作るタイミングが遅れたせいか、一気にTwitterやFacebookに人が流れてしまいました。

2009年発売のiPhone 3GS

 2つ目に、「AKB48」をはじめとするアイドルグループや、「三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE」「AAA」といったダンスグループ、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)という新しい音楽ジャンルなど、浜崎あゆみさんに変わる若者のカリスマが出現したこと。このグループの音楽性は、浜崎さんの詩によくあった「若者のリアル」よりも、「踊ろう、歌おう、みんなでウェイウェイ」系です。

 “いろいろあるけど、元気出していこうぜ!”的なニュアンス(これは3.11の影響もあるかと思います)の音楽がニッポンに浸透し、ダークな雰囲気のJ-POPが売れない時代になっていきました。

 そして3つ目、突如現れた黒船、Twitterです。多種多様な文化を肯定し、新書にも書かれたような“一億総ツッコミ時代”を作り上げます。これにより、今まで「身内」だけでコミュニケーションをとっていた中高生が地元のつながりを脱し、他の新しい世界に目を向けるようになり、「ケータイカルチャー」文化の衰退に拍車を掛けることになりました。

 その他にもさまざまな原因があると思われますが、ガラケーや音楽(主にあゆ)と密接だったケータイ小説がこの時期を境に一気に衰退していったのです。

 そんなわけで2011年以降は、ちまたの話題にあまり上らなくなってしまったケータイ小説ですが、次の項では今の時代にケータイ小説は通じるのかを実験してみました。

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