初めての同人誌(自分が主人公のBLモノ)を作ったら苦労の連続だった話

BLって何だかわかんないから自分を素材に作ってみた。

» 2017年11月02日 11時00分 公開
[斎藤充博ねとらぼ]


 2017年11月18日にデイリーポータルZ主催の同人誌即売会「第二回ウェブメディアびっくりセール」が行われる。

 この会はいろいろなWebメディアが集まって(個人ブロガーから日本経済新聞電子版まで!)手作りの同人誌を販売する。普段はWebで活動している人たちが、あえて紙の本を作って売ろうという試みだ。



 僕も同人誌を作って参加することにした。本のタイトルは『BLって何だかわかんないから自分を素材に作ってみた』だ。

 タイトルで全部説明してしまっているが、自分自身が登場するBL小説アンソロジーである。

 僕はデイリーポータルZの連載ライターの1人だ。その僕が出演することで、この本はデイリーポータルZのBLになっている。なんでこんなことになったのか。


一度BLを理解してみたい



 BLなんて興味がなくても、言葉はなんとなく耳に入ってくる。BL好きな人々はみな並々ならぬ情熱を持って、創作活動にいそしんでいるという。本屋でも取り扱いは大きい。

 BLとは女性向けのストーリーということは分かっている。しかし、これだけ目に触れれば、興味が出てきてしまうのも無理はなかろう。

 そこでウェブメディアびっくりセールである。同人誌といえば、二次創作やBLの主戦場なのではないだろうか(あまりよく知らないんだけれどそういう偏見がある)。

 一度BLを理解してみたい。そのために、もう自分がBLの素材になるのが一番いい。そして自ら売ってみたい。……そう思ってしまったのだ。この一連の行動が前代未聞というのもいい。

 幸いにも僕の知り合いにBL作家志望の人間がいる(男性である)。その人に小説の作成を頼んだところ、光の速さでOKの返事がきた。これでもう半分以上できたようなものである。


左が知り合いのBL作家志望の男。「おれのBL小説ちゃんと進んでるの?」と進捗を訪ねているところ

 ついでに仲間を誘って合同誌にしようとしたら、予想以上に手が上がった。これはいけるぞ。


内容を紹介しよう

 本書の目玉になるのは「dive to BLand new world」(村岸健太)3万1524字。全年齢向けのBL小説だ。

 BLの素材として出演するのは僕と、デイリーポータルZのライターの1人である玉置さんだ。



 以前、デイリーポータルZで「ヴィジュアル系バンドメイクに挑戦」という企画に参加させてもらった。BL小説はこの記事の創作後日談となっている。

 「斎藤充博は、ヴィジュアル系にメイクした“ユタカ”の顔が忘れられない。しかし、自分では思いを伝えられずに悩むことになる。そこをデイリーポータルZ担当編集である古賀及子が目ざとく気付き、恋の後押しをする」というあらすじだ。



 中身の一部である。全年齢向けということで、きわどい描写はないが、それが逆に生々しい。心理描写もとても巧みで、自分のことながら「こいつら本当にこういうことがあったんじゃないか……?」と思わせるような小説である。


妻のレビューもあるぞ


「揺らぐ列車」(斎藤詩織里)1487字

 妻にも僕の出てくる小説を読んでもらった。読んだ直後の妻の表情は青ざめ、なにやら恐ろしいものを見るような目つきで僕を見るようになった。



 小説を読んで、こんなに感情が動くなんてことはめったにないだろう。せっかくなのでその気持ちを、書評という形で書いてもらい、載せることにした。妻の書評が載っているBL本。前代未聞に前代未聞を重ねることになる。僕は満足だ。


デイリーポータルZ読者も見逃せない


「デイリーポータルZにおけるBLカップリングについて」(おおたかおる)1万1009字

 人気サイトであるデイリーポータルZの中で、僕はあまり人気のないライターである。読者からすると「斎藤のBLなんて読みたくない。他のライターで読みたい」という声が当然上がってくると思われる。

 小説はないのだが、デイリーポータルZライターのカップリング論を書いてもらった。書くのはデイリーポータルZのライターかつグズグズの腐女子、おおたかおるさんだ。



 読ませてもらって驚いた。3年ほど前に、デイリーポータルZの飲み会でおおたさんが酔っぱらって主張していたカップリング論と全く同じだったのだ。ずっと前から温めていた思いがついにここで爆発している。きっと多くの読者からの共感を得られるのではないだろうか。


他にも内容盛りだくさん


「もしも○○○○と△△△がルームシェアをしていたら。」



 デイリーポータルZライター、井口エリさんによる写真集。登場するのが誰かは当日まで秘密である。


「もしも赤ずきんが指圧師WEBライターだったら」



 米田梅子さんによる四コママンガ。僕が主人公である。キャラ萌えの対象にされるとはこういうことなのか。絵がものすごく上手で恐縮することしきりである。


「その感情の正体」

 くみこさんによるブロマンス(※)小説。これはデイリーポータルZではなくて「ハイエナズクラブ」というサイトの赤ソファさんが主人公だ。僕自身がハイエナズクラブの会員でもあるために、お願いできた内容である。

※ブロマンス:男性同士の精神的に深く親密な関係のこと。詳しくは各自調べてください

 この小説にはインターネット上で女性人気の高いマンスーンさんも登場している。売れるかどうか大変不安なため、是非ともマンスーンファンにも買っていただきたい。


初めての同人誌作りは大変

 作る前は楽勝だろうと思っていた同人誌作成だが、実際はかなり苦労した。ふだんWebのライターをしているが、本を作るのは全然勝手が違う。小説の原稿を受け取った後に、こんなにたくさんの作業が発生するなんて思ってもみなかった。

  • テキストファイルを受け取る
  • テキストファイルをWordで縦書きの形式にする
  • Wordの機能でPDFファイルに変換する
  • PDFファイルをPSDファイルに変換する
  • トンボを見ながら印刷レイアウトの調整
  • PSDファイルにページ数を打つ
  • ファイルをページ順にリネーム

 これ、全部手作業だ。パソコン上でやっているのに“手作業”という言葉を使うのはおかしいが、感覚としては完全に手作業である。

 全てが終わった今では分かるのだが、作業として遠回りとしている思う。しかも、変換に必要なソフトを全員が持っていないというのが災いした。その都度、変換ができるソフトを持っている人に頼んでいるのだ。

 どこかでミスが生じ、その1つ前のファイル形式に戻したいときには、またファイルを転送してお願いし直すことになる。

 僕が手順を全く理解していないために、何度も差し戻しになってしまった。無間地獄のように感じられたが、世の中のプロジェクトで「リーダーが実務を全然理解していない」というのはよく聞く話だ。意外とありふれた地獄なのかもしれない。

 結局、原稿がみんなから集まって印刷所に納品するまでに、2カ月近くかかってしまった。僕の進行で褒められるところがあるとしたら「2カ月遅延してもプロジェクトになんの支障もないほど早めに取り掛かった」ことだと思う。実際は参加してくれるみんなに「早く原稿を出せ!」とカンカン言っていただけだが。みんなよくキレずに対応してくれた。



 印刷所に入稿してからも「ここなんかおかしくないですか? 修正した方が良いのではないでしょうか?」と印刷所から電話がかかってくる。こちらとしては完璧な物を入稿したつもりだったので、かなりショックだった。最終的に3度ほど修正ファイルをやりとりし、やがて電話はかかってこなくなった。


買ってください

 作ったはいいが、この本を読みたい人が本当にいるのか、さっぱり分からない。もう買ってくれと頼むしかない。内容は面白いのだ。問題は僕が主人公になってしまっているという点だけである。

 11月18日はウェブメディアびっくりセールに来てほしい。もちろん僕が心を込めて手売りする。

第二回ウェブメディアびっくりセール

  • 2017/11/18(土) 12:00〜17:00
  • 大田区産業プラザPio 小展示ホール

(京急蒲田駅徒歩2分、JR蒲田駅徒歩15分)

  • 入場無料
  • 公共の交通機関を使ってお越しください
  • 千円札や小銭の準備おねがいします

 必ず手に入れたいという人のために、下記のページから予約フォームも用意している。今のところ思ったほどの予約が入っていない。予約無しで買えるかもしれない。

 それにしても、ここにきてようやく「おれ一体なにやっているんだろう?」と思うようになってきた。

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