「カタカナは20文字だけ」「没アイテムで宝箱がカラッポに」 ファミコンハードの限界に挑んだ制作者たち(3/3 ページ)

» 2018年01月07日 12時00分 公開
[辰井裕紀ねとらぼ]
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 さらにキノコやフラワー、スターなどは容量を節約するために片方の半分しか描かず、それを反転させて表示していて、そのために“シンメトリー”になっているそうです。

 またノコノコに羽だけ生やして、新しいキャラ「パタパタ」を作ったり、背景の雲と草は実は同じ形なのに、色だけを変えて別モノに見せたり、エンディング曲もBメロをカットしてAメロの繰り返しで構成したり……と、その節制ぶりは聞くも涙、語るも涙としか言いようがありません。


ファミコンの容量節約伝説 ノコノコに羽をつける窮余の策で生まれた「パタパタ」(『SWITCH』 Vol.34 No.1)

ロックマンと、そのボスの下半身は同じ!

 その難易度の高さで知られた、2D横スクロールアクションゲームの金字塔・ロックマンシリーズ。その第一作、「ロックマン」の容量もわずか128KBでした。

 これ以前のゲームは、「なんとなく身体の中心部分」から弾を飛ばすことが多かったのですが、そんな中で「手を伸ばして弾を打つ」ことにこだわったロックマン。

 そうすると手を伸ばした状態で止まる、走る、ハシゴを登るという動きも作らなくてはいけなくなり、それがロム容量を圧迫したそうです。ロックマンの生みの親・稲船敬二氏はこう言います。

 使いまわしていくんですよ。ロックマンの一部分を敵キャラクターにも使ったり、とにかく計算してやるんです。有名なところだと、カットマン(ボスキャラ)の下半身とロックマンの下半身は色が違うだけで、同じなんです。

 そうすると、走る時の下半身の動きは使いまわせるから、その分、カットマンの動きは増やすことができる。

出典:『ふぁみ中 青春ファミコン劇場 激闘編』(綜合図書)


ロックマンとカットマンの足は「色違い」なだけ

 このほかロックマンは音楽面においても、松前真奈美氏の手により、

  • 2つのトラックを同時に鳴らす際に一方の音程だけをほんの少し上げてコーラスのような効果を出し、音色のバリエーションを出す
  • 最初に休符を入れ、音量を下げて、メロディー用のトラックで鳴らした旋律を後追いで鳴らすことでエコー的な効果を演出

 などの苦心のサウンドメイキングが行われ、あの未来的なサウンドを実現しています。


FFの植松伸夫、「あと20バイトくれ!」と他部署に聞いて回る

 ファイナルファンタジーシリーズの作曲を手掛けた植松伸夫氏は、ズバリ「他のチーム」に直談判して、容量をもらったそうです。

――ファミコンの時代は容量の関係で音が犠牲になりがちだったんじゃないでしょうか。ケンカになったりとか?

 植松 ファミコンの頃はありましたね。スーパーファミコンまであったかな。なかなかサウンドの方まで容量を割いてくれないんで、ケンカということはないですけど、マスターアップぎりぎりの頃になったら

 「あと20バイト足りないんだ。どこか詰められるんじゃないの。おたくのところ?」っていろんなところに行って、メモリを獲得していましたね。

――それは植松さんが直接、交渉に行ってたんですか。

 植松 そうです。「20音はみだしてるんで、20バイトもらえないか」とか、そういうシビアな状況でしたよ。

――でも、「20じゃ足りないから18にしてくれ」とか返されることもあったんじゃないですか。

 植松 いや、でもね、何かあったときのためにプログラムとかはたいてい余裕を持って作ってるから、みんな隠し持ってるんですよ。曲の場合はループしてループして、それでも乗らないという時がありますからね。

出典:『ゲーム・マエストロ〈VOL.3〉』(毎日コミュニケーションズ)


限界突破のため、奥の手を使う者たち

 「FF3」に登場した通常歩行の8倍のスピードで移動する飛空艇「ノーチラス」は、当時スクウェアに所属した天才プログラマー、ナーシャ・ジベリ氏の手により、ファミコンのバグに近い仕様を利用したもので実現したそうです。

 ただし彼の組むプログラムは非常に独特かつ高度で、FF3が人気にもかかわらず長らくリメイクされなかったのは、誰も当時そのままに再現できないから、などというウワサまで囁かれました。


驚きのスピードで当時のプレイヤーに衝撃を与えた「ノーチラス」

容量が足りないため、やむなく「激ムズ」になっていた

 とにかく難しいゲームの多かったファミコン黎明期のゲーム。実は難しくしなければならないわけがあり、容量が少なく、多くのステージを用意できなかったので、難しくしなければすぐにクリアされてしまうため、やむなく高難易度になっていたとか。


ファミコンの容量節約伝説 貴重な容量を使ってまでギャグを入れる、堀井雄二の関西人魂(『しんでしまうとは なにごとだ!』/堀井雄二(原著)/スクウェア・エニックス)

 ビジュアルに凝れば音がダメになり、その逆もしかり。あっちを立てればこっちが立たず、という状況で苦闘していたゲーム制作者。「容量」と「締切り」と「やりたいこと」が交錯する中、最善のアイデアとゲームバランスで、幾多の名作が生まれました。

 あきらめる前に、私たちもほんの少しの一工夫、頭をふりしぼることで乗り越えられる局面があるのでは。珠玉のエピソードたちが、そのヒントを教えてくれる気がします。

 そして同時に、自由に容量が使えるようになった今の技術と、それを生かしている今のゲームのすばらしさも思わずにはいられません。昔とは違う大人数のチームで莫大な予算と容量で作る難しさを乗り越え、ゲームが制作されています。

 昔のゲームに尊敬を、今のゲームにも拍手を。


辰井裕紀


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