思わず息を呑む「樹脂で作ったクジラ」の美しさに絶賛の声 製法や苦労を作者に聞いた
クジラの迫力がすごい。
青く透き通る樹脂で作られたクジラ、その体内に沈む古びた船体。造形作家、山田勇魚さんの作品が持つ美しさや世界観に惹かれる人が続出、紹介ツイートの拡散が続いています。
山田さんは2016年に「輪廻」という作品で、6つのクジラを制作して以降、樹脂で作られたクジラ作品を発表してきました。透き通ったクジラの美しさと、その体内に封じ込められた世界観に魅力を感じます。クジラの中に沈んでいるものは作品によって異なり、それぞれ意味を持っているそうです。例えば、廃艦が沈んだクジラについて山田さんは、「多くの戦没者と共に沈んだ戦艦の魂が、鯨の姿となって港に帰っていくというストーリーで【帰港】というタイトルをつけました」と過去のインタビューで語っています。
山田さんの作品がもつ世界観に惹かれる人は日本国内にとどまらず、海外のTwitterアカウントでも紹介されています。
公式サイトによると、山田さんは「九十九神」をテーマに作品を制作しているそうです。作品のテーマについて「九十九神とは日本に古くから伝わるアニミズム的な観念で、長い年月を経た道具や生き物を寄り代にして神や霊魂が宿るとされるものです」と説明しています。樹脂のクジラとは雰囲気が違いますが、くちびるのついたテレビや耳と口がついた黒電話の迫力もすごい……!
命の流転、器物に宿る魂。「クジラは輪廻をめぐり、抜け出せない魂の器」
話題になっていた樹脂クジラたちはどのように作られたものなのか、山田さんにお話をうかがいました。
―― 樹脂を使った作品に取り組まれるようになったのはいつごろからで、どのようなことがきっかけでしょうか。
山田:樹脂を扱い始めたのは2015年初旬からです。修了制作でやりたい表現に適した素材を色々と試した結果、行き着きました。
―― クジラの中に入れるモチーフはどのように選んでいるのでしょうか。
山田:写真の作品は東京藝術大学の修了展で発表した「輪廻」です。6頭のクジラの内部に仏教の六道輪廻の世界観を表現した作品で、それぞれ地獄道は海底火山、餓鬼道は飢えたシロクマの骨、畜生道は牢獄、修羅道は桜花、人間道は沈船、天道は空を中に入れています。
―― 1つの作品を仕上げるのに掛かる時間を教えてください。
山田:この作品は実験を含め6体で約1年かかったので1体につき約2カ月でしょうか。1体のサイズは75cmほどです。磨く作業が特に大変で、手磨きで2週間ほどかかります。
―― なぜメインのモチーフの多くにクジラを選んでいるのでしょうか 。
山田:海を自由に泳ぎ回るクジラですが、哺乳類でありながら陸に近づきすぎると座礁して死んでしまいます。この有様を輪廻の輪を巡りながらも抜け出すことのできない魂の器に見立てました。また、自分の名前が日本の古語でクジラを意味する「勇魚(いさな)」だったので大学での活動の集大成として修了制作ではクジラをモチーフにした作品にしようと決めていました。
―― 樹脂作品はどのようにして作られているのでしょうか。彫刻から型を作り、樹脂を流しているのかと思ったのですが、継ぎ目が見当たらないので驚きました。
山田:原型を作り、シリコンで型取りして樹脂を流し込んでいます。内部でモチーフを配置するための覗き穴を作るなど、通常の型取りと比べ分割方法が複雑です。硬化後に荒削りし、気泡があればスポイトでエポキシ樹脂を注入して穴埋めします。その後、耐水ペーパーで80番から3000番まで水研ぎし、最後にコンパウンドで仕上げます。全て手磨きです。
―― 「輪廻」以外で気に入っている作品はありますか。
山田:ビジュアルは似ていますがコンセプトの違う「帰港」シリーズもあります。こちらは沈船に宿った九十九神(つくもがみ)がクジラの姿となって故郷の港に戻ってくるという作品です。九十九神とは日本の民間伝承の一種で、長い時間を経た器物や生物に神霊や魂が宿ったものの総称です。九十九神をテーマにした作品は2011年から制作していて、2014年に学部の卒業制作で発表した「九十九神の部屋」は昭和レトロな空間を丸ごと九十九神にした作品です。
今後の山田さんの個展は以下の予定で開催されます。
山田勇魚個展「From Tee Seabed」
3月26日(月)〜4月25日(水)
蔦屋書店2号館 1階 ギャラリースペース
http://real.tsite.jp/daikanyama/event/2018/03/from-tee-seabed.html
画像提供:山田勇魚(@yamadaisana)さん
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